全能少年「無法と因縁の最終決戦」
読天文之
第1話非法律対象者選択テスト
全知全能の力を持つ全能少年こと千草全治、もとい北野全治は中学三年生になった。
中学生活も終盤にさしかかり、将来に向けて考えろと先生や親に言われるこの頃、全治は自分の将来について考えるようになった。
四月十日、全治も将来について考えながら登校していた。
『全治様、さっきからずっと考えてばかりいますね。』
眷属のホワイトに言われた。
「ああ、僕は将来何をやりたいのか考えていたんだ。」
『全治様は全能だから、何をやっても上手く行きますよ。』
「でもやるからには続けなくてはならない、僕がそう思えるものはあるかな?」
全治が考えながら歩いていくうちに学校に到着した、教室への廊下を歩いていると、いつもながら高須黒之に出会った。
「やあ、全治君。いつも通りの気取った登校だな。」
黒之の挨拶は全治への捨てゼリフだった。
「僕はとくに気取って無いよ?」
「まあいい、それよりも早く決着をつけなければならなくなった。」
「ん?黒之君、どういうこと?」
「俺の後が無いということだ、これまでお前の討伐に失敗していったせいで、クロノスもご立腹だ。そして昨日ついに宣告されたんだ、『この一年で魔導書を奪い、全治を殺さないと、お前の命を奪う』とね。」
全治は顔が引きつった、このままではいずれ黒之は死んでしまう。
「ねえ、黒之君?やっぱりクロノスを説得しようよ。その方がお互いのためになる。『
「はん、今更説得なんて無意味なんだよ。僕が『全治を殺して魔導書を手に入れる』という任務を受けたのは、紛れもない天命だ。覆る事も覆すこともできない」
「そうかな?やってみないとわからないよ」
「くどい、とにかく俺はこの一年以内で、お前を殺す。忘れるなよ?」
黒之は脅す口調で言うと、教室へと入っていった。全治はそんな黒之の将来が無くなる事に、激しい否定の感情を覚えた。
その日の放課後、全治と黒之は職員室に呼び出された。
「ねえ、僕たち何かしたかな?」
「いや、二月の『謎テスト』のことだって庄野先生は言っていたぜ。」
『謎テスト』と言われるこの出来事は、二月二十日になんの前ぶれもなく起きた。
当時の担任・大石から生徒全員に封筒に入れられたテストが配布された。
「このテストは国から出された特別なテストだ、だから成績には全く関係ないので落ち着いて解いてほしい。全問正解する必要はない、自分の力で冷静に解くように。それから、このテストのことは両親を含む他人には絶対に言わないこと。」
石田の合図でテストが始まった、全治には全てわかる問題だったので、なんの造作も難しさもなかった。
テストは終わったが、何のテストなのかクラスの誰もわからない。それどころか全治が大石にテストについて訊いてみたところ、テストの内容は国から大石に知らされていなかったそうだ。
「あのことか、一体何だったんだろう?」
「まあ、職員室に行けばばわかるだろう。」
全治と黒之が職員室に入ると、教頭先生に「そこに座りなさい」と言われてソファーに座った。
「君が北野全治と高須黒之だね?」
一人の見慣れない男が言った。全治と黒之が頷くと男は、向かい側のソファーに座った。
「私は文部省から来た三矢加山だ、よろしく。」
男は私服姿だが、口調は事務的だ。
「簡単に言うと君たちは、非法律対象者に選ばれた。」
「あの、非法律対象者って何ですか?」
黒之が三矢に訊ねた。
「これは公にできない話だけど、国の機密実験で「法律の対象外になると、人は自由を感じられるのか?」というのがあって、その被験者を選ぶために全国の小中高の学校でテストを行ったんだ。」
「もしかしてそれが謎テストだったんですか?」
今度は全治が三矢に質問した。
「謎テスト・・・、まあそんなもんだ。学校にもテストの詳しい詳細は教えていない。」
「そうだったんだ、それで僕と黒之はどうしていればいいの?」
「君たち二人にはこれを身に付けてもらう。」
三矢は全治と黒之に、ひもがついたプラカードを二つ渡した。プラカードの中には全治と黒之の名前がそれぞれ書かれた、身分証が入っていた。
「それは君たちが実験の被験者だという証だ、実験期間の一年の間は、これを肌身離さずつけるように。」
全治と黒之はプラカードを首にかけた。
「君たちは今まで通りの生活を送ればいい、ただ法律の対象外になっているだけだから。」
「わかりました。」
「毎月十日に私が様子を見に学校に来る、その時に近況や感想を報告してほしい。」
全治と黒之は頷いた。
「説明は以上だ、もう職員室から出てもいいよ。」
「わかりました、失礼します。」
「ありがとうございました。」
そう言うと全治と黒之は職員室から出た。
「ククク・・・、非法律対象者か、面白いことになってきたな。」
黒之はニヤニヤと笑った、全治は嫌な気配を感じ黒之に目を向けた。
「黒之君、わかっているよ。君がまたよからぬことを考えていることを。」
「ああそうさ、この世に俺を示すチャンスが訪れた。全治よ、せいぜい刮目するがいい、この黒之が日本を征服していく雄姿を!!」
黒之は高笑いしながら去っていった。
その日北野と一緒に帰宅した全治は、北野の父親からこんな質問をされた。
「全治、お前が非法律対象者に選ばれたって本当か?」
「は?親父、頭は大丈夫か?」
「わしはふざけておらん!」
「そうだよ、どうして知っているの?」
全治が言うと、北野は「マジかよ!!」と大声で叫んだ。
「午後二時頃に電話がかかってきたんだ、お宅の全治が非法律対象者に選ばれたって、なんか真面目な声で。」
全治は非法律対象者のプラカードを北野と父親に見せた、二人とも信じられない様子だったが、一応納得した。
「電話の相手は誰?」
「それが名乗らずに言ってきて向こうからガチャ切りしやがった、だから半分いたずら電話かと思ったんだ。」
「そうなんだ、じゃあお義母さんも知っているんだね?」
「ああ、電話の内容を話したらいたずら電話よと笑い飛ばされたが、事実だと知ったら驚くぞ。」
北野の父親はそう言うとリビングへ向かっていった。
「全治・・・、非法律対象者に選ばれたってどういうことだ?」
北野が全治に言うと、全治はこれまでの経緯を北野に話した。
「まさかあの謎テストが、非法律対象者を選ぶ試験だったなんて驚きだぜ。」
「僕もそうだよ・・・、ちなみに黒之君も非法律対象者に選ばれたよ。」
「あいつもか・・・。」
北野は不安気な顔になった。
夕食の時間、全治は改めて北野と両親に非法律対象者について説明した。
「つまり全治は一年間、法律には引っかからないということか・・。」
「うん、そうだよ。」
「にしてもだ、国はどうしてこんな訳わかんねえ実験を始めたんだ?」
お義父さんは呆れながらご飯をほおばった。
「そうよ、全治が色眼鏡で見られたらどう責任とるのよ。」
「お義母さん、色眼鏡ってどういうこと?」
全治が訊ねると、お義母さんはこう答えた。
「あんたは今、法律に触れない。つまりあんた次第であらゆる犯罪ができてしまうということよ、あんたが『そんなこと無い。』と言っても世間は疑ってくるわ。」
「確かに、つまり僕は人ではない動物になったようなものということだね。」
「そうね、でも私とお父さんは全治を信じているわ。」
「俺も全治を信じるぜ。」
全治は改めて北野家の家庭的な温かさを実感した、ここを養子先にしてくれた亡き山師に改めて心から感謝した。
「お義母さんが言った事は、黒之君にも当てはまる事だ。黒之君はこの一年の間、大丈夫かな・・・?」
全治は黒之のことを気になりながらも、目の前のご飯を食べるのであった。
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