第34話 自分が自分でいること。

「え、綾?久しぶり……あ、一美、おつかれ〜」

 懐かしい同級生の言葉に綾は

「なんか、私への態度と一美への態度違くない?」と愚痴る。

「クラス会への参加率への違いでしょ?」


「あ、来れたんだ?」

 と言って近づいてきたのは、今回のクラス会の幹事である、ひより。

 彼女には、綾は仕事の状況次第では参加出来ないかもと伝えていた。

「うん」

「仕事は?クビにでもなった?」

「相変わらずの毒舌だなぁ、ま、謹慎中だから半分当たってるけどさ。そういえば、離婚おめでとう!」

「ありがと、ようやく自由になったよ」

 なんだ、この会話。怖いぞ!

 二人のそばで聞いてた私は顔が引き攣ってたようで

「どうした、一美?顔が怖いよ」

 可愛い顔なのに。と続ける

 少しだけ照れたけど、そんなことより気になる。

「キミら、仲悪いの?良いの?」

「ん?普通じゃない?」

 綾はそう言うけれど、ひよりは複雑そうだ。

「今だから言えるけど、嫌いだったよ!恋敵だったしね」

 こいがたきって。。思い当たるのは一人しかいなくて。

「で、祥子は?」

「夕方、緊急オペ入ったってメッセージ来てたから遅くなるか、最悪来れないかも」と言うと。

「なんだ、そうかぁ」とガッカリする、ひより。

 やっぱり、そうか。



 懐かしい顔にワチャワチャしながら、飲んだり食べたりいていた。

 最初は遠巻きに見てた人達も次第に綾に声をかけ始めた。いつの間にか輪の中心にいる綾を、少し離れた場所から見ていた。

 あの頃もこんな感じだったなぁ。

 なんだかんだ目立つ存在だったっけ。


「一美、ちょっと飲み過ぎじゃない?」

 いつの間にか隣りに綾がいた。

「なんで分かるの?」

 友達と会話しながらも、いろいろ考えてしまって、つい飲みすぎたかなと思ってたところだった。

「一美のことなら何でも分かる」

「嘘つき・・」

「何でもは言い過ぎか....でも気になってちょこちょこ見てたのはホントだよ」

「綾......」

 綾はホントに私でいいんだろうか?

「そろそろ帰ろ。私も疲れちゃったし」

「え~祥子、まだ来てないよ?」

「しょうならいつでも会えるじゃん、この前も会ってきたんでしょ?」

「私じゃなくて、、綾に会いたがってたよ」

「・・・一美?」

 ズルいよ、綾。そんな風に見つめられたら。


「ちょっと綾! なに泣かしてんの?」     

 フイに後ろから声がした。

「祥子? 違うの、ちょっと飲み過ぎて」

「ごめん、ちゃんと責任取るから」

「…なら、いい」

 ちょ、責任って?二人とも私の言葉はスルー?

 二人とも。笑ってるから、いいか。


「あ〜やっと来た〜! 遅いよ、もうお開きの時間だよぉ」

 幹事のひよりだ。さすが目ざとい。

「ごめん、会費は払うよ」

「会費はいいから、この後付き合って!」

「え・・・でも、今日は早く帰りた「少しでいいから、ね?」


 離れていく二人を見送った。

「祥子、大丈夫かな?」

「口説かれるかもね、まぁでも子供じゃないんだし、自分でなんとかするでしょ。さ、帰ろう」

「うん」



※※※


「久しぶりだね」

「そうだね。でも、全然変わってないね」

「そう?ありがと」

 いや別に、褒めてないけど。喜んでるからいいか。

 クラス会に来たのに、今は元クラスメイトの一人と飲んでいる。来るのが遅れたためだから自業自得ではあるけれど--もっとみんなと話したかったな--


 卒業以来会っていない彼女とは、それほど仲が良かったわけではない。でも、なぜか気になる存在だった。

 それは高校時代、彼女のいろんな場面を目撃したためだ。

 そして、その事で聞きたいこともあったのだ。


「ねぇ、ひより! 結婚してたって本当?」

「うん、離婚したけどね」

「それは、男性と。だよね?」

「…うん、そうだよ。現在の法律では、それしかないよね」

「そっか、そうなんだ。少し意外な気がして。あ、ごめん、変なこと聞いて」

 途中から、彼女の顔が曇った。よく考えたらおかしな質問だ。

「いいよ、級長には決定的な場面見られちゃってたしね」

 懐かしいな--笑顔に戻って呟いていた。

「あれは衝撃的だったな」

「キスシーン?」

 校内での目撃だった。相手も生徒。女子校なので女同士だ。

「うん。それだけじゃなくていろいろ見たけどね」

 ひよりが女の子に平手打ちされてるところとか、女の子を口説いてる場面とか。

「今、思えば」

「学校で何してんだか」

「ほんとだね」

 二人して笑い合った。

「いったい何人の子と付き合ったの?」

「二人だけだよ?」

「うそ?口説きまくってなかった?」

「うちの学校、可愛い子多かったからね。でも本命の子は口説けなかったんだぁ」

 潤んだ目で見つめられた。

「ん?どうした?酔った?」

「なんでもない。お代わりは?」

「いい。一杯だけっていう約束だから」

「ふぅん」


「で?どうして離婚したの?」

「自分が自分でいるために。かな」

「・・・そうか」

 じっくりと、ひよりの言葉を考えた。


「ちゃんと種の保存には協力したから、文句は言わせないよ。これからは自分が生きたいように生きる」

「子供、いるんだ?」

「うん、二人」

「いろいろあったんだね」

「あったね。級長もあったでしょ?」

「うん、あったねぇ」


 ひよりはクスクス笑い出した。

「なに、しんみりしてるんだろ。うちら、これからもいろいろあるよ~」

--楽しいこともいっぱいね--と続けた。

「前向きでいいね」

「当たり前じゃん、そのための離婚だもん」

「うん、良かった」

 ほっとして思わず笑顔になった。

「あ〜その顔! 級長も変わってないじゃないか」

「え、そう?」

「だって、この顔が好きだったんだもん」

 頬を撫でられ、驚きで一瞬動けなくなった。

「えっ」

「名札、まだ大切に取ってあるんだよ」

「あっ」


 ふふっと笑い

「冗談だよ、もうどこかいっちゃったよ」と言う。

「なんだ〜」

 どこまでが冗談なのか。

 気になるけど、聞かない方が良い気がした。


「ごめん、そろそろお迎えが来るから、行くね」

「え、そうなの?」

「うん。今日は会えて良かったよ」

「…わたしも。話せて良かった。ちなみに、お迎えは彼女?」

「うん」

「そっか、ありがと。振ってくれて」


 あ、やっぱり、口説かれてたのか。


 お店を出ると、ちょうど、ゆきの車が駐車場へ入るところだった。

 ゆきの元へ駆け寄りながら、『自分が自分であること』の意味を考えていた。



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