第30話 【番外】GWが終わったら

「あ~疲れた!」

なんとか日付が変わる前に家に着いた


世間はゴールデンウィークだというのに

否、ゴールデンウィークだから忙しいのだけど

旅行代理店に勤めているのだから、そんな愚痴言っても仕方ないのだけど


「でも、年々きつくなるんだよなぁ」

ついこぼれた、独り言


俗に言う、歳のせいってやつか?


リビングの電気を付けて、ソファにドカッと座る

同居人は留守のようだ


あぁ、今夜は独りか・・


そんな夜は、綾のことを思う

いつのまにか一緒に暮らすようになった友人

『友人』かぁ


綾と出会ったのは高校一年生の時

最初は、お近づきになりたくない部類のクラスメイトだった

卒業してずいぶん経って再会し、あることがキッカケで距離を縮めていった

綾の新しい職場が、うちから近いってことで転がり込んできた


『同居人』で、いいのかな?


いつだったか

時々遊びに来ていた年下の女の子に、勘違いされたっけ

「二人は付き合ってるんですよねぇ」と聞かれ

綾は「そうだよ」と答えてた


あれ?結局否定しなかったから、勘違いしたままかも?

実際には、何もない

ただの同居人


時々、綾は

「老後は一緒に暮らそう」と冗談っぽく言う

お互い、おひとりさまだったら・・・

ということらしい



『友人』『同居人』

それらの言葉を思い浮かべると胸のあたりがチクチクする

違う、そうじゃない。という思いが浮かんでは消える

ほんとは気付いてるのに…見ないふりが出来るようになってきた

これも歳を重ねたせいか

三十路もとうに過ぎた



ピロン♪

メッセージアプリの通知音が聞こえた

「今日は帰れません」


それだけ?

相変わらず、愛想がない

絵文字くらい入れたらどうだ


あぁ、でも

『帰る』って言葉があるだけで胸が熱くなる

最終的に帰ってきてくれるなら。

って、何を考えてるんだ?

そういう意味じゃないよね


「おつかれ!忙しいの?」

こちらも端的に返事を返す


綾は、最近職場を変わった

今までは2度目の交番勤務だったけれど、ようやく県警の生活安全課に異動になった

今まで以上に仕事の鬼と化している


「うん、一美も忙しいんでしょ?」


珍しく、すぐに既読が付き、さらに返事が来た


「いつもの事だから」

と、少し余裕をみせてみた


「忙しいところ悪いんだけど、お願いがあるんだ」

「なに?」

「ゴールデンウィークが終わったら、旅行の予約を入れれる?」

「あ、仕事のオファー?ゴールデンウィーク明けなら大丈夫だよ」

「2泊くらいで、温泉とかがいいなぁ」

「人数は?」

「2人」

え…

2人で温泉?

心臓がバクバク言ってる

誰と?

という言葉を飲み込んで

「わかった。明日、予算別に何個か候補出してみるね」

「ありがとう。おやすみ」


今夜は眠れそうにないな


※※※



しばらく帰ってこれないと言う綾と

メッセージで何度かやり取りをして


ゴールデンウィーク明けの平日(月~水)2泊3日で

高山・下呂の宿を押さえた


綾が帰ってきたのは、こどもの日の夜だった

チケットを渡すと、なぜか照れた様子で受け取った

「ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ。売り上げに協力してくれてありがとう」


「はい」

と、今受け取ったチケットの1枚をくれる


「はい?」

「この日、休みって言ってたよね?温泉行こ!」


確かに、この日は休みだけど

「えぇ、なんで?」

「いつもお世話になってるので…っていうのもあるけど、ただ、一美と旅行がしたいなぁって思って。嫌?」


「い、嫌じゃないけど」

「けど?」


嫌なわけない

むしろ嬉しい

綾が誰かと旅行するんじゃなくて良かったと、心底思う


だけど、綾と2人で温泉なんて行ったら…

平常心ではいられない


「綾は…どういうつもりなのかなって思って。友達?私は・・・」

「付き合ってるよね?」

「え?」


「唯ちゃんに、私たち付き合ってるって言ったの、聞いてたよね?」

「え?あれ本気だったの?だって、何にもしてないじゃん」

「何にも?」

「いや、あの…キスとかそういう…」

思わず小声になる


「あぁ、そういう。。お望みならするけど?」

「いや別にそういうわけじゃ・・」

「そういうの、なくてもいいのかなと思ってた。心が通じていれば…一美となら…」

「綾…」

そんなふうに言われたら、幸せすぎる


え、でも、ちょっと待って

今まで、私が悩んでたのは何だったの?


「もう~ちゃんと言葉で言ってよ」

「ごめん、じゃ言います」

「うん」


「私と・・老後まで一緒に暮らしてください」

「・・・」

「あれ?ダメ?」

「しょうがないなぁ」


ふふっ

あははっ

2人で笑った


私たちは私たちのペースで。



















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