第28話 異動

「相変わらず、強いねぇ」

「そういう美樹ちゃんも、全然酔わないじゃん」

「ほろ酔い?それくらいがちょうどいいよね」


病棟への異動が決まって、美樹ちゃんがプチ送別会を開いてくれた

二人きりだけど。

ただのサシ飲みともいう


美樹ちゃんの恋の話もいろいろ聞いた

幸せそう!っていうか

顔が、にやけっぱなしだよ


「会ってみたいなぁ。あ、異動したら隣の病棟かぁ。休憩室で会えるかも?」

「そうだねぇ、言っとく!あ、でも今日迎えに来てくれる予定だから、会えるよ?」

「え、今日はお泊り?いいなぁ」

「いいなぁって、ゆきちゃん達なんて、一緒に住んでるじゃん」

「うん、そうなんだけど…」

「なに?倦怠期?」

「そんなんじゃないけど…」

「相変わらず忙しいの?」

「そうだね、私も夜勤が入ってきたらまたすれ違いが多くなるんだろうなぁ」

「祥子さんなら大丈夫だよ。まぁ、また何かあったら話聞くからね!」

心強い言葉を言ってくれる優しい先輩だ


「そういえば、美樹ちゃんとしょうちゃんの出会いは?聞いてもいい?」

「ん?あぁ、家庭教師してくれてたんだ」

「えぇ~初耳だ」

「中3の時の一年だけね。お姉ちゃんにね、同級生で一番賢い人に頼んでって言ったの」

「そうなんだぁ。一美さんたち仲良いよね、みんな」

「そうだね、、あ、出石さんからメッセージだ。もうすぐ来るって。。え、なに?」

なんなんだ、この乙女な顔は。

「いやぁ、嬉しそうだなぁって」

「え、そう?あ、祥子さんも呼んじゃえば?まだ病院?」

「どうだろう?じゃ、ダメもとで」

どうせ病院だったら既読にならないだろうし、メッセージだけ送ってみた

『迎えに来て』と一言だけ。



「こんばんは」

「あ、真由美さん!早かったですね。こちら、ゆきちゃんです」

「はじめまして」


「はじめまして。話はよく美樹ちゃんから聞いてます」

「あは。何話してるんだろ...」

ふふふ

笑顔で返された


「どうします?すぐ帰ります?ゆきちゃんどうする?送ろうか?」

「あ、」

スマホを確認したら、思いがけず返事がきていた

しょうちゃんから

『どこ?』と一言


「ちょっとごめん」と断って席を外す

電話をしたらすぐに繋がって、迎えに来てくれると言う


申し訳ない気持ちと

嬉しい気持ちが混ざり合う


いつも忙しいのに、迎えに来い!なんて。

でも、いつも我が儘を聞いてくれる。


早く会いたい気持ちの方が強いのは、目の前の二人に触発されたのかな


「迎えに来てくれるって言うから、ここで待ってるね」

二人に報告すると


「じゃ、私たちも、もう少しいるね」

「そうだね、私もご挨拶したいし」

ちょっとドキドキする。と出石さんは言う


そっか、あぁ見えてしょうちゃんは

院内では、いろいろ有名な人なんだなぁ


「出石さんは、美樹ちゃんのどこが1番好きなんですか?」

酔いに任せて、直球の質問をしてみた


「えっとねぇ、ポニーテール」


「「え?」」

同じ反応だ


「昔から、ポニーテールに弱いの。仕事中の、お団子も好きだけど」

ふふふ。と笑う

あながち嘘でもなさそうだ


「え〜髪型ですかぁ?」

美樹ちゃんはショックが隠せないみたい

それでも

ずっとポニーテールでいよう。って呟いてるし

可愛いな


「ちょっとトイレ」と美樹ちゃんが席を外し、出石さんと二人になった


「あ、そういえば」

と、少し声をひそめて真顔の出石さん

そんなつもりはなくても、ドキッとする

「写真見たわよ」と言った


ん?

「写真って?」

「え?知らない?N駅のデパートの催事場に飾られてたよ、センセイとの写真。なんか有名な写真家さんが撮ったみたいなこと書いてあったけど…」

「えぇぇ、知らないよぉ」

「そうなの?まぁまぁ落ち着いて!」

素敵な写真だったから。と微笑まれた


「あの、すいません。その子、私の彼女なんで口説かないでいただけます?」

突然、後ろから声がした

「しょうちゃん…」

「あら、ごめんなさい。可愛いからつい。ふふ」

二人とも笑ってるし

「その節はどうも」

「こちらこそ」

って挨拶してるし


「しょうちゃん、知ってるの?」

「えっと、2度目まして。かな?」


「ですね。私、センセイに頼まれたこと、ちゃんと出来てますかね?」

「十二分に。幸せそうですよ」

「そうですか、良かったです」


意味不明な会話してるし

不思議だ


「え、何の話?」

戻ってきた美樹ちゃんにも分からない会話らしい


「じゃ、美樹ちゃん帰ろうか」

「え?」

「もう挨拶したから」

「あ、はい」


※※※


「帰るよ、ゆき」

「あ、うん」

しょうちゃんの後ろをついて歩く

外に出ると、当然のように手を繋ぐ

駐車場までの短い間だけど、体が熱くなる


「けっこう飲んだの?」

「そうでもないよ。ごめんね、急に迎えに来て!なんて」

「いいよ、ちょうど病院出るところだったから。珍しいなぁとは思ったけど、嬉しかったよ」

「嬉しい?」

思わず、顔を覗き込んだら

視線を逸らしながら

「頼られたら嬉しい」と小声で言う

え?耳が赤いし、照れてるの?

繋いだ手に力を込める


「迎えに行ったら綺麗な人とひそひそ話してたけどねぇ」

ちょっと拗ねた感じで言う

「あれは違うよ!あ、そうだ!しょうちゃん」

つい大きな声が出た

「なに、どうした?突然」

「写真が展示されてるって!たぶん祐さんが撮った私達の写真」

「え…え?…まじか。。」

しょうちゃんの動きが止まって、考え込んでいる

「知っ…てた…?」

「とりあえず帰って、確認する」


なんだか様子がおかしいしょうちゃんは

帰ってすぐに祐さんに連絡したようだ


うぁぁ…という

ため息のような呻き声のようなものも聞こえてきた


その後、私の部屋へやってきて

「ごめん、私が許可した。らしい」と言った

「らしい。とは?」

「寝ぼけてて…夢だと思ってた」

当直明けで寝てた時に電話があって、展示することを了承したという


「写真は見た?」

「さっき送られてきた」

スマホの画面を見せられる

お花見の時のだ

いつの間に撮ったんだろう

カメラ目線じゃなく

自然な感じだ


「しょうちゃん、これ展示が終わったらどうなるの?」

「さぁ?売り物じゃないし、祐さんのところに戻ってくるんじゃない?」

「欲しいな、これ」

「どうするの?飾るの?」

「飾らなくてもいいけど、時々眺めたい。これあったら、会えなくても寂しくないから」


しょうちゃんは、ギュッと抱きしめてくれた

いつもより、少しだけ強く。





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