第21話 誕生日

「あれ、しょうちゃん金曜日お休みなんだね」

カレンダーに記入された『休み』の文字に、わかりやすく花まるがついている

これは私の誕生日だからか?

可愛いじゃないか


「当然じゃん、って言うか逆になんで休みじゃないの?誕生日くらい休めばいいのに」

そう言われても…


「3月は年度末で有休消化で休む人が多いし、この前北海道旅行で休んだし…しょうちゃんは自分の誕生日に休んだ?」


「え?どうだったかなぁ…」

「ほらぁ、そういうもん・・・って、ね、しょうちゃん誕生日いつ?」

なんで知らないんだ?私


「ん?8月19日だよ」

「へぇ、真夏なんだねぇ」

その頃はまだ付き合っていなかったか



「日曜日は当直だから、土曜日しかないよ、休みが合うの」

「うん、充分だよ。普通でいいよ」

誕生日だからって、そんな特別な事しなくてもいいと思うのに…

ちょっと不服そうなのは何故だろう


「じゃ、金曜日はご飯作って待ってるね、何がいい?」

「ほんとに?何でもいいの?」

「う、うん。作れるものなら」

「じゃぁ、オムライス」

「オッケーまかせて」

「ありがと。楽しみにしてるね」


※※※


「おかえり」


帰った時に誰かに迎えられるって、いいなぁ

それが好きな人だったら、もうそれだけで幸せだ

しょうちゃんも、そう思ってくれていたら嬉しいな

ま、起きていられなくて寝ちゃってる時もあるけど…


「ただいま、しょうちゃん」

「ん?何か顔に付いてる?」

「ううん、シャワー浴びてくるね」





「うん、美味しい。ありがと、しょうちゃん」

リクエスト通り、オムライスを作ってくれていた


「それは良かった」

「今日、病院に来たんでしょ?呼ばれたの?」

「うん、お昼くらいに呼ばれた。見かけた?」

「ううん、見てはないけど。教えてくれる人がいるんだよ」

もういろいろバレてるからね

「ふぅん、病院で悪さ出来ないね」

なにそれこわいね。と、クスクス笑う



「それなのに、ちゃんとオムライス作ってくれたの?」

「実はこれ、炊飯器で作ったの。材料入れてスイッチオンで出来たの、クックなんちゃらってやつ凄いね」

「そうなんだ、ちゃんとオムライスだね」

料理のアプリは最強だ

「卵はちゃんと焼いたよ、生クリーム入れたし」

「うん、トロトロで美味しい」



「ねぇ、しょうちゃん。そろそろ走ってもいい?貧血の症状は、もうないけど…」

「走りたいの?」

「別にそんなに走りたいわけじゃないけど…ちょっと過保護じゃない?」

「過保護かぁ…そうかもね」

もう、あんな思いするの嫌だから。と、開き直ってる


「じゃ、月曜日に採血して。結果見て決めよう」

「はい」

医者モードになると逆らえない



「あ、そうだ。ケーキは明日一緒に食べに行こうね」

「うん」



「ゆき、何飲む?ビール?」

食事を終えて、ソファへ移動する

「ん〜しょうちゃんは?」

「私はいいや」

「そうなの?じゃ、酎ハイで」


「珍しいね」

と言いながら持ってきてくれた缶を受け取り、一口飲む

甘いな

「しょうちゃんと一緒がいいから」

「ん?私は...

言いかけた口を塞いで流し込む

甘い口移しだ


「もっと飲む?」

「うん飲む」



※※※


油断してた


いきなりキスをされたと思ったら

甘い液体が流れ込んできた


アルコールは入っているけど

そんなに早く酔うハズもないのに

頭がボーッとする


二口目を飲み干して

そのまま、ゆきの唇を舐める

「もっと」

舌を滑り込ませる

絡ませる

「ん..甘い」

「しょうちゃん、このまま?」

「うん、ここで。嫌?」

「やじゃない」

そっとソファに押し倒す

「あ、言ってなかった。誕生日おめでとう」

「この状況で言うんだ」

少し眉間に皺を寄せる

「嫌なの?」

「やじゃない。しょうちゃんのこの顔も好き」

ゆきの手が頬に触れる


愛しい人の誕生日の夜



※※※


「あれ、どこ行くの?駅はこっち・・・歩くの?」

「乗る」

「ん?乗る?」

はい、これ。と言って鍵を渡す

「え…自転車?」

「うん。誕生日プレゼントね。え...乗れるよね?」

「それ、確認せずに買う?」

「え・・・」


まさか

乗れないの?


「しょうちゃん、私…」

いつになく真面目な顔で続ける

「高校3年間、自転車通学だった」

びっくりした?とニヤリと笑う

「もぉ〜ドキドキしたじゃん」

「ふふ、ありがと。かっこいいね、自転車」


春は、何をするにも気持ちの良い季節

風を切って走る感覚が好き


のんびりサイクリングのつもりが

さすが自転車通学、キック力半端ない

「はえ〜よ、ゆき!」

「気持ちいい〜しょうちゃん、はやく〜」



あっという間に

目的のケーキ屋さんに到着



「こんにちは。玲香さん、ご無沙汰してます」

『いらっしゃい。ほんとお久しぶりですね』

「実は引っ越ししちゃってなかなか来られなくて。今日は自転車で来ちゃいました〜」

『あら、天気良いから気持ち良さそうね』

「はい。あ、ケーキ何にしよう。しょうちゃんどうする?」

「う〜ん、どれも美味しそうだね」


『あ、誕生日ですよね?もし時間あるなら作りますよ、バースデイケーキ』

「え、いいんですか?」

「ありがとうございます」



「凄いね、ちゃんと誕生日覚えてるんだね」

「プロだねぇ」

あ、写真増えてる…

店内を眺めてたら


『コーヒーどうぞ』という声がかかる

「ありがとうございます」ゆきが答えてる

『可愛いね、写真撮ってもいい?』


は?

「ダメですよ」

思わず叫ぶ


「『え?』」

「あ」

誰かと思ったら、この人...


「しょうちゃん?」

「ごめん、でも写真はダメでしょ」

『そっか、じゃ仕方ないな。コーヒー一緒に飲んでもいい?』

「はい?」

『お近付きになりたくて』

なんなんだ、この人は。

知ってるけど…


ゆきに近付きすぎだよ


「えっと、お店の人じゃないんですか?」

コーヒー運んで来てくれたし。と

ゆきは不思議顔だ

『お店関係の人、かな』

と笑ってる


「写真撮ってる人。ですよね?あの写真とかも」

結構有名な写真家だ


『お、知ってるんだ』

「そうなの?あ、うちにもあるよね?写真」

ゆきにも分かったみたいだ


『へぇ、そうなんだぁ。なんだ私のファン?』

「写真の・・・です」

『ありがと。写真を褒められる方が嬉しいよ。ところで・・・』

今度は私の方に近づいてきて

小さな声で聞いてくる

『この前の子と違うけど、どっちが本命?』

な、なに言って...


あ、

「そういえば、この前子ども達撮ってましたね、ちゃんと許可取ってます?」

いろいろ物騒な世の中なんだから気をつけないと

『もちろん。写真、親御さんに配ると喜ばれるよ。で?』

「どっちも大事な人ですよ」

『へぇ、そうなんだ』


『祐、なに絡んでるの?ごめんなさいね〜』

玲香さんがケーキを持ってきてくれた



「わぁ、美味しそう。可愛いし」

「玲香さん、ありがとうございます」

「よかったら一緒に食べませんか?2人じゃ多いし、いいよね?」

「え・・・うん」


『わ〜い。やっぱり可愛いね!ゆきちゃんって言うんだ。私は祐って言います。って、なんかめっちゃ睨んでる人がいるんですけど...』

「もう、しょうちゃんったら」

『しょうちゃんって言うんだ。可愛いね』

なんでこんなに軽いんだ?

イメージが壊れる


『ねぇ、今度ダブルデートしない?』

「えっ、ダブルデートって?」

『玲香と..付き合ってるから』

「あ、そうなんですねぇ」

ゆきは乗る気なのか?

『うん、2人の写真撮らせてよ』

「私たちの?」

2人の写真かぁ。って呟いて

ゆきがこっちを見る


言いたいことはわかる

私が嫌がるから

2人の写真は撮ったことがない


『ダメかな?』

祐さんも私を見る

『じゃあさぁ、正式な依頼ってことなら?仕事として。ちゃんと報酬も払う』

今までと違って真剣だ

仕事の時はこういう感じなのか?


「別にいいですよ。ただし仕事としてじゃなくて、ダブルデートの方で。プロのモデルじゃないから、お金なんて貰えません」

『やった!ありがと、しょうちゃん』

「しょうちゃんって言うな!」

『あ、そうだ。近々個展があるんだけど、良かったらコレ』

と言って差し出されたチケット

「これは...受け取れません」

と返す

『え、なんで?写真は好きなんでしょ?前も来てくれてたよね?』

「知ってたんだ…ちゃんとチケット買って見に行きますから」

『じゃ、今度見にくる時は声かけてね!スルーして行かないでよ、しょうちゃん』

「わかったから、しょうちゃん言うなって」



✴︎✴︎✴︎


「珍しいね、祐が人物を撮りたがるのも、誰かに構うのも」

「ん〜なんか気になるんだよねぇ、あの2人。からかうと面白いし」

「ふぅん、ちょっと妬けるなぁ」

「ふふ、玲香でもやきもち妬くんだ。嬉しいな」

と言って抱きついた


✴︎✴︎✴︎


ふふ。

「何笑ってんの?」

「2人の掛け合い面白かったなぁって。思い出し笑い」

「掛け合いじゃないし、面白くないし」

「しょうちゃんでも敵わない人がいるんだねぇ」

「なんでかイラつくんだけど嫌いになれないんだよなぁ、あの人。なんでだろ」

「似てるんじゃないの?」

「え?誰が?」

「しょうちゃんと、あの人」

「そう?」

「しょうちゃんの方が全然かっこいいけど」

と言ってキスをした

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