第20話 密談~告白の覚悟~

「何食べたい?なんでもいいよ」

今日は美樹とデートだ

なんでも、相談があるらしい

もちろん、ゆきも了承済み

ゆきは友達と出掛けている


「ほんとに何でもいいんですかぁ?」

「い、いいよ」

「じゃ、お寿司で」

「いいね〜」

ランチだからお手頃に食べられる



「で、相談って?」

握りの乗ったランチプレートを食しながら聞く

「その前に、ありがとうございました」

一旦箸を置き、姿勢を正して頭を下げる

こういうところは礼儀正しい

「心配してくれてたそうで」と続ける

「結局、何もしてないけどね。えっと、誰かに聞いたのかな?」

「はい」

「なるほど。治療は順調そうだね」

「はい、もうすぐ終わります」

「ん、良かった」


「それで相談なんですけど・・・」

病気のことかと思ったら、恋愛相談だった

告白したいけどどうしたらいいかって?

『相談に乗るよ』と言った気もするけど、そういうのあんまり得意じゃないんだけどなぁ


「今、どういう状況なの?」

「日勤の時は一緒に帰ってご飯食べたり、休みが合えば出掛けたり。たまに泊まったり」

うんうん。ん?

「ちょっと待って、それ...もう付き合ってない?」

「ん〜でも、治療終わったら告白するって言ってあるし」

言ってあるんだ〜って、もうそれ、好きって言ってんじゃん

「その状況で断られることないよね?とっとと告れば?」

「む〜」

至極真っ当な事を言ったつもりなんだけど

何故かムッとしてる

「え、なんで?」

「告白は一大イベントじゃないですかぁ、やっつけ仕事みたいに言わないでよ」

「あ、そうなの?ごめん」


「ちょっと年上なんですけど、大人の女性はどうされたら嬉しいですか?」

「ん〜・・・押し倒したら?」

わっ!おしぼり投げんな〜

「もういいです。祥子さんに聞いたのが間違いでした」

しょうがない、真面目に答えるか


「素直に美樹の気持ちを伝えたらいいと思うよ。それが1番嬉しいと思う。いいなぁ幸せそうで、私も嬉しいよ」

あ、ちょっと照れた



※※※


一応、相談に乗ってもらったので

「ここは私が」と言ったのだけど

「いいよ、私も相談..というかお願いしたいことがあるから」と、また奢ってもらってしまった

お寿司代に匹敵するお願いって何だろう

これからちょっと付き合って。とのことだった


もう春がすぐそこまで来てるような陽気の昼下がり、2人で歩く

「歩くのも気持ちいいですね」

「美樹と歩くの、初めてだっけ?」

「ですね。ゆきちゃんとは、よく歩いてるってこと?」

そういうのもいいなぁ

やっぱり理想の2人だ

「たまにね。あ、私とじゃなく誰かと歩きたいとか思ってるんでしょ」

ニヤニヤしながら言うから

「まぁ、そうですねぇ」と、いつもの感じで返す


その後はしばらく無言でゆっくり歩いた

私の速さに合わせてくれてるのがわかって

やっぱり話してみようと思った

本当の悩みを。


道は川沿いに入って

犬の散歩の人やジョギングしてる人もいるけど

人との距離は離れている


「ねぇ、祥子さん」

「ん?」

「ホントは怖いの、告白するのが。もし、告白してオッケーもらえたら。もちろん嬉しいんだけど...その先に進むのが...触れ合いたいけど幻滅されるんじゃないかとか…いろいろ考えると、今のままでもいいんじゃないかとか…」


「ちょっと座ろうか」

そう言って、河川敷の草の上に腰を降ろす

ちょうど広場では子供たちがサッカーをしている

それを眺める形だ

よく見ると、親御さんなのかな?本格的なカメラでカシャカシャ撮ってる人もいる


「それは手術痕を気にしてるってこと?」

はっきり聞いてくるのは祥子さんらしいな


今はまだキスもしていない

でも、もしも付き合うことになったなら

それ以上の関係になるかもしれない

その時にあの手術痕は自分でもグロテスクだと思うのだ


私は頷いた

「そっか」

そう言ったきり、しばらくはボールを追いかける少年少女を眺めてた


※※※


どう言ったらいいんだろうな

こういう時、精神科医だったなら上手く言葉を選べるんだろうか


美樹の気持ちはわかる

わかる?本当に?わかってるつもりになってるだけかもしれないな

だったら自分の立場で考えてみる


「もしも、ゆきが同じようなことで悩んでて気にしてたなら、私は悲しいな

私は、どんなゆきでも受け入れる自信はあるし。ゆきが嫌だって言うなら無理に抱いたりしないし。もちろん、それで嫌いになったり幻滅したりなんかしない。

美樹が好きになったあの人もそうじゃないかなぁ。美樹の気持ち、伝えてみたら?あれ?結局さっきと同じこと言ってる?」

やっぱり精神科は向いてないな


「そうですね」

美樹は一言呟いた


「ゆきも気にしてるのかなぁ」

「え?」

「お腹の傷跡、私が付けたんだよ」

「あれは、傷じゃなくて祥子さんが救ってくれた証でしょ?私だったら誇りに思うよ」

「え、美樹?美樹の方が精神科に向いてるね」

「は?何の話ですか〜」


「よし、じゃ、もうちょっと付き合って」

「は〜い」

立ち上がって目的地まで歩いた


※※※


目的地は自転車やさんだった

大きなお店ではないけれど

いろんな種類の自転車がある

三輪車からママチャリ、通学用、マウンテンバイクまで


「え?祥子さん買うの?」

「うん、一目惚れしたのがあるんだ。美樹も買う?」

「私はいいです」

「じゃ、ゆきの買うから、乗って帰ってくれる?」

「は?あぁ、お願いって、そういうこと」

「うん。嫌なら無理にとは言わないよ。もう一度私が来るから。ここジョギングコースで、よく通るんだ」

「いいですよ!サイクリングも気持ち良さそう」

「ありがと」

満面の笑みで感謝された

この笑顔は反則級だ


「あ、一応誕生日プレゼントのつもりだから、それまでは言わないでね」

「了解で〜す」


思った通り、風が気持ちいい

一目惚れしたというクロスバイクに乗る祥子さんの後ろ姿に

『こちらこそありがとうございました』

と呟いた

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