第17話 疑惑

「あれ?」

今日は1時間残業し、ゆきちゃんと駅まで歩いていた


「あっ、しょうちゃん…」

ゆきちゃんも、私の視線の先に気付いたらしい



誰かと居酒屋へ入っていくところだった

私の知らない女の人だ


「誰だろ?あれ」

「美樹ちゃんも知らない?病院関係じゃないのかな?」


ちょっと気になるなぁ

綺麗な人だし


「うちらも入っちゃう?」

と、ゆきちゃんの顔を見ると



え、どうした?

「大丈夫?顔、青いよ」


「え?あ、ちょっとデジャヴ」


話を聞いてみると

昔、同じような場面に遭遇し

結局、二股をかけられていたらしい

その元彼とは、すぐに別れたらしいけど

トラウマになってるのか?


「祥子さんに限って、それはないと思うよ」

私は断言したけど


「そうかなぁ」

と不安顔だ


翌日、出勤時にも元気がなかった


お互い別々のオペに入っていたので

ゆっくり話せたのはお昼休みになってから


「昨日、どうだった?祥子さんと話せた?」

「...帰ってこなかった」

「え?…連絡は?」

「あった。病院に泊まるって」

「そっか、じゃあの後病院に戻ったのか」

「もしくは嘘か」

え?

「ないない。絶対ないよ?そんなすぐバレる嘘つかないって」

「そうかなぁ…」


もう〜しょうがないなぁ

「私、ちょっと聞いてくる」


「え?美樹ちゃん、どこへ?」

ゆきちゃんが何か言ってたけど

無視してGO〜だ


何とか休憩時間が終わるまでにはオペ室に戻れた

ギリギリだったので、ゆきちゃんへの報告は帰りだな



「祥子さん、昨夜、病院にいたってよ。急変しそうな患者さんがいたんだって!」

「そう。わざわざ聞きに行ったの?」

「うん、祥子さんは捕まえられなかったけど、救急の同期の子に聞いた。でね、あの時の女性ひと、救急の看護師さんだった。この目で見てきたから間違いないよ。最近入ってきたらしい」

「そうなんだぁ」

「安心した?」

「うん、まぁ」

まだ不安そうだけど、私が出来るのはここまでかなぁ


「祥子さんと、ちゃんと話したら?」

「うん」

「今日は?」

「今日は当直だって」

「そっかぁ」


「美樹ちゃん、いつもありがとね。でも、どうして、そこまでしてくれるの?」

「そりゃ、好きだから…だよ。下世話な話が…」


ホントは2人が好きだから。だけど




数日後、食堂でお昼を食べてたら、祥子さんに捕まった


「美樹、ちょっといい?」

「はい」

「最近、ゆきの様子がおかしいんだけど、何か知ってる?」

「・・・話、してないんですか?」

「なんか、避けられてる、、気がするんだよね」

「はぁ、やっぱり話してないのかぁ」

「何か...あったの?」

「祥子さん、心当たりは?」

「え、、ない…と思う」


はぁぁ、全く

世話の焼ける人たちだ


えっとあれは残業した日だから...火曜日か

「じゃあヒント!今週の火曜日の夜、どこで何をしてました?」

「火曜日?当直の前の日だから...あっ」

「心当たり?」

「あ〜ある...かも」

祥子さんは

はぁぁ、、と大きなため息を吐いて

わかりやすく、落ち込んだ


「え?何かしたの?」

「してないよ!」

即答だ。だろうね


「私に、あんなこと言っといて、浮気なんか出来ないよねぇ」

「だから、してないって。するわけない。。ご飯食べただけ…でも傷つくんだろうなぁ」

「ご飯だけで?」

「私だって、ゆきが誰かとご飯食べてたら嫌だし」

「そういうもんなの?」


「いつもは前もって言ってるから大丈夫だけど…今回は突発だったから...だから、帰り辛くて病院へ戻っちゃったし」

気になる患者さんもいたからだけど...

と言い訳しつつ

「どう思う?」と聞いてくる


「それはアウトだね」

ちょっと厳しいジャッジをする

「え...」


あ、そろそろ時間だ

「じゃ、早いとこ謝って仲直りしてくださいね」

と言って仕事に戻った



※※※


「ただいまぁ。あ、唯ちゃん来てたんだ」


「おかえりなさい」

「お邪魔してま〜す。あ、祥子さん、後でわからないところ教えてくださ〜い」


「お!ちゃんと大学生してるんだ。N大生に教えられるかなぁ」

ちょっと不安になりつつ

さっとシャワーを浴びてリビングへ戻る


3人で、いつも通り食事をした

3人だからかな

2人だったら、きっとギクシャクしてた


「じゃあ、ちょっと祥子さん借りますね」

唯ちゃんは、ゆきに断って

私の部屋へ行く


「何がわからないの?」

「物理なんですけど、それより・・・

祥子さん、ゆきちゃんに何したの?」

「へ?」

おもいっきり、睨まれてる?

「なんで?」

「なんとなく…ですけど」


「物理は?どうする?」

「教えてください。ここなんですけど」

「ん」



帰り際、ゆきが唯ちゃんに聞いた

「唯ちゃん、いつものは?」


「あ、祥子さん...…もう好きじゃありません」


「え......」


「大切な人を泣かせる人に、興味ありませんから。じゃ、また来ま〜す」

パタン


思わず、2人で顔を見合わす


「しょうちゃん、振られちゃった?」

「振られたって言うより、唯ちゃんに叱られた?」

「...泣いてはないよ」

「ん、でも、ごめん。美樹にも叱られた」

「あ、もしかして聞いたの?」

「うん、不安にさせてごめん。私の話、聞いてくれる?」




この前一緒に居酒屋へ入ったのは、中島さん

最近、移動してきたばかりの看護師さん

あの日は、救急搬送が多くてね

最後の患者さんは残念ながら助けられなかった

中島さんは、結婚してて小さなお子さんもいるから

暗い気持ちのまま家に帰りたくなかったらしくて

それで、誘われたから一緒にご飯を食べた

中島さんは少しお酒を飲んで、私は飲まなかったから、家の近くまで送っていった



「うん、わかった」

「あの日帰ってきて、ちゃんと説明すれば良かったのに、ごめん」


ゆきは首を横に振る


恐る恐る抱き寄せると

少し震えていた


「しょうちゃんを信じてないわけじゃないんだよ、でもなんでか不安になって、怖かった」

そう言って、腕の中で涙をこぼした


「うん、わかってる。大丈夫だから。愛してる」


※※※



「という感じで、無事仲直りしました」


週末のランチタイム

祥子さんから報告を受けた


いろいろ心配かけたから。と

ゆきちゃんが誘ってくれて、3人でランチの予定だったんだけど

当のゆきちゃんは、オンコールで呼ばれてしまい

祥子さんと2人で食べている

もちろん奢りだ


「報告はいいけど、最後の惚気は要らない」

「え?この先のホントの惚気はカットしたんだけどなぁ」

「ば..ばかじゃないの?」

「冗談だよ?」


不覚にも、動揺してしまった


「ちょっとそれより、唯ちゃんが遊びに来てるの?」

「うん、ゆきと仲良しになってる」

不思議だ..と呟いている


「確かに、ゆきちゃんも不思議な人だね」

「うん」


「まぁでも、良かったね。あぁ、私も恋がしたい」

あ、心の声が漏れた


「誰かいないの?気になる人とか」

「・・・」

「いるんだ」

「え」

「今、誰かの顔、想像してたでしょ?」

げっ、なんで分かるんだ

「ちょっと気になる人はいる」

「へぇ」

ニヤけながら

「いつでも相談乗るよ」

って言ってるし


もう、こうなったら

デザートのケーキも奢ってもらお

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