第16話 不可避

お昼休みにオペ室へ行った


『あら、センセイおつかれさまです』

「兵藤師長、ちょうど良かった。今、オペに入ってる?」

『えっと、入ってないわね。休憩室かも。呼んでくる?』

「お願いします」



『おまたせ〜今来るわ。私は外すね』

「あ、師長も聞いてくれた方が・・・」


師長の後から、ゆきがやってくる

「休憩中にごめん。検査結果出たから」

「あ…はい。」

「やっぱり、ちょっと貧血気味だね。鉄剤までは必要ないけど、どこかで出血してないか、一応検査して欲しい。胃カメラと...あと婦人科。婦人科は次いつ受診する?」


「来週です」


「じゃ、ちょうどいいや。検査、追加して貰っとく。師長、そういうことで、よろしくお願いします」

『わかりました』

頼りになるホームドクターだこと

と、ゆきに声をかけていた



〜〜〜


その日は、当直明けの休みで部屋にいた

ゆきは、婦人科受診の日でーーついでに胃カメラの検査も入れたのでーー師長が気を利かせて休みにしてくれたらしい(有給だけど)


さっき連絡があったから、そろそろ帰ってくるかなぁ


珍しく、料理を作ってみたりして

ちょっと遅めのランチだ


「ただいま〜」

「おかえり!」


「え、何作ってるの?」

「シチューパスタ」

「わ、美味しそ」

「手、洗ってきて」

「はぁい」




「「いただきます」」


「うん、美味しい。シチューとパスタって贅沢な感じだね」

「おもいっきり山ごはんメニューだけどね」

「そうなの?普通にメインになるね」


「どうだった?検査」

「うん、特に何も。子宮筋腫もなかったし、胃も大丈夫だって。そんなことより、しょうちゃん知ってた?」

おい、“そんなこと”なんかじゃないでしょ、と思ったけど



「何を?」

「結城センセイ、お腹大きかったよ」

「え?…ちょっ…待って…知らなかった」

そういえば、ずっと会ってなかったな

病院で、すれ違うこともなかったか


「私も。結城センセイ、ずっとオペにも入ってなかったから知らなかった」

「そっか、薫がねぇ。うん、良かった。めでたいねぇ」



午後は、それぞれのんびり過ごし

夜は、それなりにイチャイチャしつつ


ふと

「ねぇ、しょうちゃん」

と言って、少し言い淀む


ゆきの、その顔を見て

なんとなく

言いたいことが分かった気がした


分かった気がした。と言うより

同じことを考えてたんじゃないかなと思って


ゆきは?と聞いてみた


「ゆきは、子供欲しい?」






ちょっと驚いた顔をして

「よく、わかったね。私が聞きたかったこと」


「好きな娘のことなら、わかるよ」

と言うと

小さく微笑んだ


「しょうちゃんは、子供、好きだよね」


「どうかな?可愛いとは思うけど。育てる自信はないかな。あぁ、そういえば救急外来で一度だけ取り上げたことがあって、その時は感動したなぁ、生命の神秘だね」


「うん、わかる。産科の実習の時に感じた。産まれたてが1番可愛いと思う。顔はお猿さんみたいなんだけどね」



そっと抱き寄せて、顔を見ずに言う

「ゆきが子供を産みたいと思ったら、ちゃんと言ってほしい。遠慮せずに」


違うな。顔を見せたくなかったんだ

きっと、情けない顔をしてたから


分かってる

ゆきが本気で子供を望んだら、別れなきゃいけないことくらい


分かってるけど…





「しょうちゃんとの子供じゃなきゃ要らないよ」

腕の中で答えるゆきは、微かに震えていた

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