第11話 旅

※※※


『看護師さんのベストセラー』と言われている勤務表を眺めていた


「センセイ、熱心に何見てんの?」

「あ、兵藤師長。ね、コレって師長が作るの?」

「そうだよ」

「ふぅん」




「で、いつ休みにして欲しいの?」

ニヤリとする師長



※※※



飛行機に乗っている

隣には、あの時と同じように、しょうちゃんが座ってる


「ん?どうした?」

「ううん、なんでもない」

「今回は、すぐ着くよ」

「そうだね」




「旅行に行かない?」

って言われたのは、今月の勤務表が出てすぐのことだった

「え?」


「今度、学会があるんだけど...純粋に学会だけだからさ、発表が終わったら暇になるんだよね。そこで有給取ったら観光も出来るし...どうかな?」


「え?いつ?」

「ここ」


しょうちゃんは勤務表を指さす

そこは、珍しく4連休になってたところ


「行く!行きたい!」


「ん」


「え?でも、なんで?そんな都合良く連休?」


しょうちゃんは、首を傾げただけで何も言わなかった






「わぁ、さすがに寒いねぇ」

「うん、北海道だからねぇ」




千歳から札幌へ移動し

ホテルにチェックイン


ホテルはツインルームだった


しょうちゃん、

「さすがにダブルルームには出来なかったよ」

って、コッソリ耳打ちするの、反則だから。。

一気に顔が熱くなるよ



「あ、ねぇ、明日どうする?私の発表はお昼には終わるけど。午前中は観光しててもいいよ」

「ん〜、学会って、私も聴いていいの?」

「え?聴く?」

「うん、聴きたい」


しばらく考え込んでたけど

やばっ緊張してきた。と呟きながら

スマホで誰かにメッセージを送っていた


「じゃ、明日一緒に行こ。7時に出るね」

「うん」





会場に着いて、しばらくすると


「祥子、久しぶり!」

と、スーツを着た小柄な女性がやってきた


「あっ果穂!変わってないねぇ」

笑顔で応える、しょうちゃん


「あ、コレ。頼まれてた許可証」

「ありがとう」


「あ、彼女?」

「あ、後藤ゆきです」

「中山果穂です。大学時代の友人です」

ニコっと笑った顔は、とても歳上とは思えないほど可愛らしい


「私の発表、午後からだから、ゆきちゃん、良かったら一緒に聴きましょ。祥子は準備あるでしょ?」

「いいんですか?ありがとうございます。心強いです」


「じゃ、果穂、よろしく」

「うん」




許可証を首にぶら下げて

果穂さんに続いてホールへ入る


まだ少し早いので、人はまばらだ

後ろの方で並んで座る


「果穂さんは何科なんですか?」

「小児科だよ」

「あ〜そんな感じですね」

「そう?ゆきちゃんは?」

「私は、血液内科から救急行って、今はオペ室です」

「へぇ、看護師さんはいろんな科をまわるから大変だねぇ」

「いえ」

「救急で祥子と出逢ったんだねぇ、祥子優しいでしょ?」

「はい」

「私も大学時代、祥子の優しさに救われたもん」

懐かしそうに話す果穂さん

大学時代のしょうちゃんかぁ

見てみたいなぁ


「あ、そういえば」

と、果穂さんは続ける

「今夜は、どんな予定?祥子が来ることを友達に言ったら、札幌周辺にいる仲間が集まる事になっちゃって〜ちょっとでいいから顔出してくれるとありがたいんだけど...もちろん、ゆきちゃんも一緒に」


「まだ特に決めてないので、私は大丈夫ですよ。しょうちゃ..しょうこさんに言っておきます」

「ふふ、“しょうちゃん”でいいよ。可愛いなぁ。私からも連絡するね…あ、そろそろ始まる」


会場が暗くなり、発表が始まる


何人か発表してたけど

壇上のしょうちゃんは、かっこ良かった

内容がほとんどわからない程に

見惚れてしまった


隣の果穂さんも隣で、相変わらずかっこ良いなぁって呟いていた




夕方、大通り公園をぶらぶらしながら、目的のお店まで歩く


「危ないよ」

転びそうになる私を見かねたのか

手を繋いでくれる

「雪道、慣れてないから」って言うと

「あれ?ゆきの実家、雪降るでしょ?」と突っ込まれる

「バレたか」

それでも繋いだ手はそのままだから


しょうちゃん

そういうところだよ!


「え?何か言った?」

「ううん」



「なんか、ごめんね。せっかくの旅行なのに付き合わせちゃって。ちょっと顔出したら抜けるから...」


「え、いいよ。久しぶりなんでしょ?私も、結構楽しみだし」





到着したお店は、こじんまりした、ジャズバー?

落ち着いた雰囲気だ



果穂さんがいたので、近づいていくと


「あ、祥子!ひさしぶり〜」

果穂さんと話していた女性が、こちらに気づいて

しょうちゃんに、思い切り抱きついた


「っん、いづみ、久しぶりだね」

「・・・」

「・・・って、長いから。ちょっ離れて」

果穂さんも手伝って、その人を引き剥がしてる



「ごめんね、ゆきちゃん」

果穂さんが謝ってくれる

「いえ」


「あ、この娘?私、上田いづみ。よろしくね」

と言って、両手を広げている


「あ、えっと。後藤ゆきです…」


「いづみ、ハグじゃなくて握手くらいにしとこか」


しょうちゃんのフォローが入り

右手を両手で包まれた


とびきりの笑顔と

「そっか、良かった良かった!」

という言葉と共に。


何が良かったんだろう?

という疑問が一瞬浮かんだけれど





「え?貸し切りなの?いづみの人脈って凄いね」

「何言ってんの?祥子の人気でしょ?」

「そんなわけないじゃん。みんな飲みたいだけ?」

「まぁ、小さい店だしね。10人ちょっとでいっぱいだよ。あ、そういえば貴之の親戚のお店だよ」

「え?そうなの?オーナーは一緒かな…」


2人の会話を、隣でぼんやり聞いていたら、少しずつ人が集まり出してきた



しょうちゃんの隣にいたからか、いろんな人に声をかけられて

ワイワイして

食べて

飲んで


気付いたら囲まれてた

いつの間にか、しょうちゃんはいなくなってた

どこかで捕まってるようだ


よく考えたら、ここにいる人たち

ほぼドクターなんだよね

なんか凄い

看護師仲間に話したら羨ましがられるかな

いや、別に、看護師がみんなドクターを狙ってるわけじゃないけど

私だって、しょうちゃんがドクターだったから好きになったわけじゃないし


『ねぇ、やっぱり祥子、看護師に人気ある?』

右隣の男性が聞く

「え?」

『昔からモテてたからさぁ、男女問わず』

「あぁ、そうですね、人気ありますよ。腕は良いし、優しいし」

『やっぱり腕は重要かぁ』

『そりゃ藪医者はモテないよ、看護師はごまかせないしな、タカ、腕磨け〜』


「やっぱり、しょうこセンセイ大学時代からモテてたんですねぇ」


『タカなんて、何度も振られてたよな?』

『おう、自慢じゃないが、数えきれん』

『好きな人がいるって言ってたんだろ?でもバイトばっかりしてたから付き合ってたわけじゃないよな?』

『片想いだって言ってた』


「そうなんですねぇ」


『そのバイトで、またモテてたんだけどな』

「え?」

『いやほら、勉強もしなきゃいけないから時間なくて、手っ取り早く稼げるように水商売だったからさ』

「えぇー」

『いや、それがさ…俺の..』

「こら、何話してんの?近いよ、そこ。もっと離れて!」


いいところで、しょうちゃんがやってきて私の隣に割って入る

手に持ってるのはウーロン茶だ

今日は飲まないみたいだ


「タカ、口説いても無駄だよ!」

『祥子の連れに、手なんか出せないよ、怖くて...』

最後の方は小声だ


「ねぇ、しょうちゃん。キャバ嬢だったの?」

コッソリ聞いたら


ぶーっ

ゲホゲホ


ウーロン茶吹き出して

おまけにむせてた


『おい、大丈夫か?タッピングしろ』

背中をトントン叩く

さすが、ドクターの集まりだ


「な!なんでキャバ嬢?」

「だって、水商売って言うから、そうかなと」


あはは...

いい感じに盛り上がった



※※※


もう、だから乗り気じゃなかったんだよ

私の、大学時代の恥ずかしい話、あることないこと喋りやがって


そろそろ出ようか、と聞いても

ゆきは「楽しいよ、最後までいたい」と言う


ほんとにこの人は。

誰とでもすぐに仲良くなってしまう


初対面なのに、男共に囲まれて笑ってるし

もっと危機感を持って欲しいよ


もう、ゆきの隣を離れないぞ。と思ってたのに


懐かしい姿を見つけてしまい

挨拶に行く


「オーナー、お久しぶりです」

『おぉ、久しぶり。一段と綺麗になって!』

「また、そんな。素敵なお店ですね、全然知らなくてすみません」

『いいよいいよ、そんなこと。そうだ、せっかくだから一曲弾いてくれないか?』

「え?」



※※※



なんだかザワザワしてたので、そちらを見たら

しょうちゃんがピアノの前に座ってた


え、ピアノも弾けるの?


聞こえてきた曲は

「あ、ドラマのテーマ曲?」


『あ〜俺、これ好き』

『俺も!ドラマも見てた。ちょうど医者目指してたからな』


確か、医者が江戸時代にタイムスリップするドラマだ。


やっぱり、かっこいい


見惚れてたら、拍手とともに弾き終わってた


あ!

「写真撮れば良かった」

心の声が漏れた


『あ、写真!』

「え?」

タカと呼ばれてた人が、指折りの情報をくれた



それから程なくしてお開きになり

ホテルに戻る


帰り際、いづみさんには思いきりハグされた

「祥子のこと、よろしくね」と

耳元で囁かれながら



「疲れてない?」

と、しょうちゃんは聞いてくれる

「うん、楽しかったよ」

そう、答える


「確かに、楽しそうだったね」

あれ?ちょっと棘がある?


交代でシャワーを浴びて、それぞれベッドでくつろぐ


「ねぇ、そっち行っていい?」

「うん」


足音がしたと思ったら

いつの間にか組み敷かれてた


すぐ目の前に、しょうちゃんの顔があり

ゆっくり近づいてくる

すぐに深いキスを交わす


ピロン♪

枕元のスマホが鳴る


しょうちゃんの身体が離れる

「ん?」

「見ないの?」

「メッセージだから、別に…」

「見れないの?」

やっぱり棘がある


スマホを手に取り、確認する

「あ..」


「なにこれ」

「あ、えっと…」

「ちゃんと説明して」



スマホの画面には、メッセージに添付された写真




ー遡ること2時間ー


「写真なら、あるかもよ!」

タカさん(菊池貴之)は言った


「え?」

「今、祥子が話してる人がここのオーナーで俺の叔父さん。で、祥子が大学時代バイトしてたのも叔父さんの店なの。実際に店を切り盛りしてたのは店長で俺の従兄弟ね。だから従兄弟に聞けば、祥子のバイト姿の写真あると思う。結構イケてるやつが」




で、送られてきたのが


バーテンダー姿でシェイカー振ってる、しょうちゃん


か、かっこいい


「どうしても、大学時代のしょうちゃんが見たくて」

「それで、タカと連絡先交換したの?バーテンダー姿が見たくて?」

「うん」


「そんなの、いつでも見せるのに」

「え?」

「ウチにシェイカーあるし、なんならカクテル作るよ?」

「えぇー、見たい!飲みたい!」

「じゃ、帰ったらね。だから、それ消して!」

「え?」

「タカのアドレス、もう要らないでしょ?」

「あ、そっち。うん消す…写真は消さなくていい…よね」

「…いいよ」



「待ち受けにしても…」

「…いいよ」

「え?いいんだ?」

「私の待ち受け、ゆきの寝顔だし」

「うっそ〜いつのまに...」



見せて...と言う前に

再び組み伏せられ

キスが降ってくる


「……んっ…」

「ごめん、今日は優しくできないかもしれない…」






次の日は、ゆっくり起きて

定番の観光スポットをまわった



【Boys be ambitious】


「なんでボーイズなんだろ」

「そこ、気になるんだ?」


「あ、あれ札幌ドーム?」

「そうだね」

「そういえば、名前変わるね」

「ナゴヤドーム?そうだね、慣れるまで違和感あるかもね」


2人にしか分からない会話をしつつ歩く

寒いから、しっかり手を繋いでいる

観光客はいるけれど、知らない街だから抵抗がない

誰も他の人を気にしていないしね




「わぁ、時計台って、ちっちゃいんだね」

定番過ぎて、今まで来たことなかったけど、思ったより随分と小さい

「ふふ、そうだね」



ラーメン食べたり

お土産を買ったりして



「明日は、どうするの?」

「午前中に小樽に寄って、午後の便で帰る予定だけど、いい?」

「うん」


あっという間だったけど

楽しい時間だったなぁ




北海道旅行、最終日。


小樽の、とあるお店へ

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃい」


出迎えてくれたのは

「あれ?果穂さん?」


果穂さんのご主人のお店だった

手作りのペアリングが作れる工房


「お世話になります」

「しょうちゃん、なにこのサプライズ!」

「ペアリング、要らない?」

「要るに決まってる」

「お互いに作るんだから、頑張ってよ」

「うん、しょうちゃんも!って、しょうちゃん器用だった。うぅ、がんばろ」


「大丈夫だよ、ちゃんと教えるから」

ウチのが。って、果穂さんが言う

ちょっと惚気入ってません?


作業工程を教えてもらって、真剣に作業を進める


「ちょっとお店の方にいますから、何かあったら呼んでください」

「は〜い」


果穂さんは、ちょっと前に病院へ行くと言ってた


「ねぇ、しょうちゃん」

「なに?」

「大学時代、何人に告白された?」

「え?」

「凄いモテてたって聞いたけど」

「そうでもないよ、2〜3人」

「ほんとは?」

「プラス2〜3人。でも全部断ったし」


「その中に、果穂さんはいた?」

一瞬、間が空いた


「・・・果穂とは、そんなんじゃないよ」

懐かしむような、遠い目をして言う


「そっか」


「果穂、何か言ってた?」

「しょうちゃんの優しさに救われたって」

「・・・そう」

「優しいご主人と幸せそうだね」

「うん、そうだね」

良かった...ほんとに嬉しそうな笑顔で呟いていた



出来上がったリングは、そのまま持ち帰ることが出来る


ご主人にお礼を言ってお店を後にして

運河を見ながら、ゆっくり歩く

ベンチを見つけ座る


「あっという間だったね」

「そうだね」

「連れてきてくれて、ありがとう」

「こちらこそ。また、どこか行けるといいなぁ」

「うん、次はどこがいいかなぁ」

「のんびり、温泉とか?」

「いいねぇ」

「オーロラとか…」

「ふふ、前もそんな話したね」


「今日はさぁ、飛行機降りても同じ場所に帰るんだね」

「ん?」

「前は別々で、寂しかったから」



「しょうちゃん…そうだ!リング嵌めよ」

「うん」

「左手でいい?」

「いいよ」


お互いに嵌めあう


「ゆき、上手く出来てる!意外と器用だね」

「意外と、は余計ですっ」

「ふふ」


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