第10話

「要約すると、今更剛太郎ちゃんと付き合うと、可愛くなってからの手のひら返しをしているみたいで恥ずかしい、と?」

「おう」

「ふん」

「いたぁっ!?」


母親からビンタを貰った。

なんで!?


「私はアンタをそんな腑抜けに育てた覚えはないよ。それは結局あんたの都合、カッコ悪く思われたくないって自分本位の思いからくるものじゃないか」

「そ、そんなつもりはないけど…」

「だいたい、あんたがどう言おうと、剛太郎ちゃんがあんたを好きなことには変わらないんだ。その気持ちはどうなるの?

なにより性格はもちろん性別の問題も無くなった今、本来ならあんたには勿体無いくらいの剛太郎ちゃんと付き合えるなら、周りから手のひら返しのクズなお調子者扱いされるくらいでガタガタ言うんじゃない」

「息子に対して言い過ぎ…」

「やかましいっ!」

「いだぁっ!?」


また叩かれた。


「そもそもの話、あんたは可愛くなった途端に剛太郎ちゃんを好きになったわけじゃないよ。自覚はないみたいだけど」

「え?」


悩む俺に対し、母は呆れたように言葉をかける。

それは意外な言葉であった。


「…普通はね。親にアホほど心配かけて、親友だからって命をかけてアレコレをするなんて出来ないもんさ。よほど好きでもない限りね」

「いや、え?でも…」

「性欲が混じらなかった分、分かりづらかっただけであんたは剛太郎ちゃんが好きだったんだよ。そこに女性的な見た目がプラスされてみな。情欲も混じって一気に好きのレベルが跳ね上がるのも無理はないよ」

「そう、かな?」

「そうだよ。我が息子ながらマジやばい。若気の至り…にしては行き過ぎさ。1ヶ月ぶりにぼろぼろのあんたを見た時はまあ…」

「ええぇ?」

「分かったならとっとと返事してきな!今頃、剛太郎ちゃんはいっぱいいっぱいな気持ちで気が気じゃないだろうよ。早く安心させておやり」

「お、おう」


言われてみれば確かに。

俺は剛太郎が好き、なのかもしれない。

今の気持ちはとてもじゃないが好きの一言だけで表現できないほどに複雑ではあれど、好きなのには間違いない。


そして。


「お、お嫁さんになってください」


剛太郎の家に行き、出会い頭にプロポーズ。

俺もどこか緊張していたのだろう。

見た目が劇的に変化していて、しかし仕草は完全に剛太郎のそれで、彼女は驚きから一転、満面の笑顔を浮かべて頷いたのであった。

それから多少の紆余曲折があったりもしたが、俺が結婚できる年齢になった段階で即座に籍を入れ、名実ともに結婚した。


俺は幸せになった。


剛太郎はどうだろうか?

せっかく女の子になれたのに俺なんかで大丈夫なのだろうか?

もっと良い人がいるのではないか?

未だにそう思うことがある。


「私が幸せかって?

ふふふ、全くもう、告白した時もそうだけど君って、時折すごく馬鹿なことを言うよね?」

「…苦労した分、幸せになって欲しい、少しでも良い男を捕まえて欲しいって思うのは普通だろ?」

「籍入れて、初夜も済ませてからベッドの中で言うことかな?それ。賢者タイムかな?」

「ぐぬ」

「…逆に聞くけど今更別の人が良いって言ったらすんなり別れるの?」


確かに今更だ。

今更に過ぎる。

でも。


「…お前が本気でそれを望むなら…我慢する」

「今にも泣きそうな顔で我慢できるの?」

「で、できらぁっ!!」

「全く…大丈夫。私は幸せだよ」

「ああ、そこは分かる。ただ、更なる幸せがあるかもしれ…」

「大丈夫、これ以上ないくらいに幸せだから。陳腐な言葉だけれど…こう言うしかないから言うね」


私は君がそばにいるってだけで幸せだよ


と、剛太郎は満面の笑顔を浮かべ、それを見て俺は泣いてしまったのだ。



そう。



これは1人の女の子が幸せになるまでの物語である。




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俺の幼馴染がホモでTSしたようだ 百合之花 @Yurinohana

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