第9話
思いもよらぬ一言だった。
「俺に言ってる、んだよな?」
「も、もちろん。目の前にいる君以外の誰がいるの?
そ、それで、返事は、どうかな?」
「ああ…っ、いやっ!好きだって言う男のことはどうしたんだよ!?」
「それは君のことだけど」
「はぁ!?うそっ!?」
「こんな嘘つかないよ!?」
「あ、ああ、そりゃそうだよな、こんな嘘を剛太郎が…いやっでもそんな素振りは一切なかったじゃないか!?」
「…必死に隠してたから」
「な、なんでだよ?」
驚きの連続、しかし、剛太郎が俺に隠し事をしていたことに少しショックだ。
俺は一切の隠し事がないと言うのに。
「だって気持ち悪がられて避けられるかもって思ったから…」
「そんなことっ」
剛太郎の言葉を否定しようとして、否定しきれない自分がいた。
なぜなら一月とちょっと前にちょうどそれ関連のトラブルがあったではないか。
その俺がどうして否定できようか。
「でも、今の私なら…女の子になった私なら大丈夫、だよね?おっぱいをすごい見てくれるし、近づくと照れるし、お尻にも視線を感じるし」
「な、何のことか分からないな」
「惚けなくてもいいのに…とにかく、今の私なら結婚してくれるかなって」
「いきなり結婚ってのも急すぎ…」
「私、お嫁さんにしてくれるなら、なんでもするよ!?どんなえっちなことだって喜んでするし、悪いところがあるなら全部直す!!だから…」
その言葉に、必死な様子に、軽々しくなんでもするなんて言うべきじゃない、とかえっちがどうとか言う問題でもなければ、剛太郎に悪いところがあるはずもない。
などと色々と言いたいことはあったがハッキリと言っておく。
「…剛太郎、お前をお嫁さんには出来ない」
「えっ」
「俺は…お前が男の体だった時から知ってる。凄く魅力的な…女の子だって知ってる。完全な女の子になって、もはやお前の欠点なんて…無くなったさ」
「だったら…なんで?元男だから気持ち悪いってこと?」
「そんなわけないだろっ!!今更その程度気にするわけないじゃないか!!」
「じゃあどうして?」
「そんなの……俺が剛太郎に相応しくないからに決まってる」
「なんでそんな風に思うの?私はそんなこと欠片も思わない」
「…っ、とにかく、今日はもう遅い。続きは明日話そう。
きっと剛太郎は女の子になったばかりで混乱してるんだ。
一時の気の迷いで俺を好きになってるだけだよ」
「前から好きだって言ってるじゃない」
「とにかく!時間をくれ。ちゃんと…ちゃんと考えるから…」
「…分かったけど…これだけは言っておきたいの」
「なんだ?」
「私のお嫁さんになるって夢は初めから貴方を相手にした場合の話だから」
「と言うことはつまり…小さい頃から俺が好きだった…ってことか?」
「そうだよ。覚悟してよね。私はもう隠さない、止まらない、遠慮しない。なぜならそうせざるを得ない理由を君が無くしてくれたから」
心だけではなく体も女になった彼女は一切の遠慮無く、俺を口説きにくると言うことだろうか。
しかし、俺がその気持ちに応えることはない。
なぜならば男だった剛太郎に見向きもしなかった俺が剛太郎が女の子になった途端、好きになる?
ふざけろ。
しかも、俺は剛太郎に笑顔を向けられるだけでいとも簡単に好きになりつつある。その気になりつつある。
こんな底の浅い男が剛太郎の相手に相応しいはずがないのである。
重ねて言うが剛太郎に欠点などはない。
なまじ男の見た目で苦しんできた、苦労してきた彼女だ。
これからは幸せがただひたすらに続くだけの人生であって欲しい。
そんな彼女の旦那が俺になるなど、画竜点睛を欠くにもほどがある。
あまりに邪悪。
あまりに無粋。
あまりに不幸。
そんなことが許されるはずが無いのだ。
きっと彼女は俺が性転換薬を持ってきたから、それで好きになってしまったのだろう。
確かに逆の立場になれば分からないでも無い。
念願成就の一助、それも最高の形で、実の子供だって産める体になったのだ。
それは俺が想像する以上に剛太郎に感謝の念を抱かせたはず。
感謝の気持ちが、好意に変わることも不思議ではない。
俺はどうしたらいいのか。
剛太郎が俺を嫌うように、何か幻滅することをしようか?
いや、いきなりそんなことをしだした所で長い付き合いなのだ。
普通にバレる。
誰か他の女子に協力してもらうか?
彼女のフリをしてもらって既に彼女がいるからと断りを…いや、これだって剛太郎の目を誤魔化せるはずが無い。
そもそも、そんなことを頼めるほどに親密な女友達なんていない。
下手に女友達と仲良くしていたら、やっぱりまともな女の子と遊ぶ方がいいよね?と剛太郎が思わないように意識的に避けていたくらいだ。
それを今更ながらに後悔することになるとは。
こうなったら恥ずかしくはあれど、母に聞くしかあるまい。
光明くらいは見えるはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます