第8話

あの後の剛太郎は一日中、笑顔で今まで買い集めていた可愛い服を着ては見せてきた。

そのたびに俺は剛太郎をあの手この手で褒めちぎる。

男だった剛太郎の体に合わせたサイズだったので軒並みブカブカではあったが、胸とお尻のボリュームが大幅に増えたせいか意外と合うものもあり、俺もなかなかどうして楽しめた。


次の日。


今日は自分の体型にあった服や下着を買うために買い物に行くということで、一緒にお出かけである。


「…ま、まった?」

「いや、さっき出たばかりなの分かるだろ?家となりだし」

「…そういうのじゃないって分かるよね?」

「言いたいことはわかるけど、そういうのは好きな奴と上手く関係を作れてから存分にやれば良いだろ?」

「…むぅ」

「不貞腐れる姿も可愛くなったなぁ」


男の時も見せていた不貞腐れる姿は、今となっては実に可愛らしいものになっていた。

まあ、男だった時の角刈りのむぅ、が見れなくなったのはいささか寂しさを感じなくも…まあ、感じないな。いや、僅かに感じることもなくはない、のは気のせいな気もする。


「…っ、やめてよね。可愛いって言われると…調子狂う」

「そうか。そうだな。でも、これからは耳にタコが出来るくらい言われるようになるさ……頑張って良かった…ぐず」

「…なんだかんだで本人である私以上に泣いてない?いや、嬉しいけどさ」


それからはまあ、一日中あっちいったりこっちいったり。


遊びつつ、荷物持ちとして彼女が買った服を持ちつつ、楽しく過ごしていく。


「税込55000円になります」

「うわぁ、下着って結構するなぁ。えっとそれじゃあ」

「俺が払うよ」

「ぅえっ!?ちょっ、なん、」

「そういうつもりで一緒に来たんじゃないよ!?」

「気にしなくて良い。可愛く生まれ変わった記念だ。幸い、ダンジョン帰りでお金はある」

「財布代わりに連れ歩く悪女みたいに見えるじゃん」

「別に気にしないよ」

「私が気にするの!ただでさえ億単位の借金があるのに!!」

「いいからいいから」

「むぅ!むぅ!むぅうぅうぅ!!」

「あはは」

「今払うからちょっと待っ…」

「おっと、あれはなんだろう?」

「ちょっと、待ってってば!!」

「ったく、強情だな。祝いだって言ってるのに。分かった。今日の終わりにまとめて貰うから、ほら、今は気にしないでいこうぜ!」

「…、っちゃんと受け取って貰うからね!!」


存分に遊び尽くしたその帰り道。


「…なんだか、夢みたい。夢から覚めたらまた男に戻ってるんじゃないかって怖いくらい」

「夢なんかじゃないさ。性転換薬は実在していて、剛太郎は女の子になったんだ。あ、そういえば名前はどうするんだ?剛太郎から変えるのか?」

「それはちょっと迷い中かな。なんだかんだでパパとママから貰った名前だしさ」

「おじさんとおばさんは気にしないと思うけどな」

「うん。多分そうだね」


そんなことを話しながら歩いていると、家に着いた。

あたりはすっかり暗くなっている。


「ねぇ」

「ん?」

「やっぱり、億単位の薬をタダでもらうのは悪いと私は思う。いくら幼馴染でもさ。全部は無理でも少しくらいなら…」

「実質、家族みたいなもんじゃないか。いちいち養育費がどうだで子供に請求する親なんていないだろ?気にすんなよ」

「…家族なら…気にしない、ね。さすがに限度があるよ。今に限らず昔からそうだよね?

一緒にファミレスで食べた時の食事代なんかはいつも君が払ってくれてたよね」

「そりゃあな。服となると無理でも、母からの食事代くらいは男のあんたが払ってやりなって言われてたし、まあ俺も同感だったしな」

「私は…」

「女の子だろ?」

「…ぅん」


それきり俯いて黙り込む剛太郎。

しばらくして、顔を上げた。


「あの、さ」

「ん?」

「家族とは言うけど、やっぱり幼馴染という関係ではあるわけで、借金は借金として認めなくちゃいけないと私は思うんだ」

「だから…」

「だからさ、本当の家族になれたら私も心から納得できるというか…借金をチャラにするにはこれしか、いや、でも、お金がどうのって話で無理矢理とかじゃなくて、その…実際はただの口実なわけで…」


何が言いたいのか?


「わ、わ、わわ、私を貴方のお嫁さんにしてくださいっ!!」


と、男らしさのカケラもない、類稀な美少女顔を真っ赤に染めて彼女は言った。







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