第7話

「ねぇっ!!ねぇってばっ!!」


次の日。

やたらと騒がしい気がする。

ゆっくり寝かせてほしいと夢心地に考えたところで、そういえば剛太郎が女の子になる日だと起きると目の前にはやたらと可愛い女の子がいた。

見覚えのある可愛らしい服装に身を包んでいるが、サイズがあってない気がする。


「え?だれ?」

「私だよ!剛太郎だよ!」

「まじ?」

「まじ!」


か、変わりすぎじゃないか?


「ていうか、なんでお前がウチに来てるんだ?俺が行くって話じゃ…」

「そんなことどうでもいいでしょう!?」

「あ、はい」

「それよりもなんでこんなに可愛くなってるの!?普通にアイドルより可愛いんだけども!?」

「えっと、鑑定紙によると確か…」


どうでもいいけど、その可愛らしい姿でいつもの距離感はやめて貰いたいな。

剛太郎には申し訳ないのだが、ちとドキドキが止まらない。


「その姿は剛太郎が女の子に生まれたらという可能性を元に実現するとかなんとか。剛太郎の遺伝子が女性としてのものだったらこうなるって姿になるらしい」


勘違いしないように言っておくと性転換薬を使ったからと言って必ずしも美形になるわけではない。

容姿は元の遺伝子によって変わる。

剛太郎は男として生まれた結果、やたら男臭くも男前な見た目だった。

もし女の子として生まれていたのであれば、今の姿…すなわち、女の子全開の可愛らしく、性的魅力も十分にある女の子として生まれていたということである。

つくづく男に生まれたことが不幸な幼馴染である。

もしくはちゃんと精神も男であったならば何も問題なかったろうに。

そうであれば今頃はいまだ彼女の出来たことがない俺よりもはるかに充実した青春を味わっていたことだろう。

ちなみに胸の大きさなどは大柄な男から小柄な女の子に転換するさい、体が縮んだ分の筋肉やら骨やらの余りが変換されるようで、ゆえに巨乳だ。

それらの余った質量が女性らしく、胸やお尻に行った結果なのだろう。

剛太郎がもう少し筋肉質、ないしは肥満体型であれば、今の女の子の剛太郎は全身贅肉だらけのぷよぷよだったかもしれない。


「…女の子に産まれた私がコレ?」

「…良かったじゃないか。すごく可愛いぞ」

「…はぁ。私って本当に生まれに関する運が無いよね。初めから女の子として産まれてたら…貴方と幼馴染になれたことで全部の運を使い切っちゃったから?」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

「あと…まあ、別にいいんだけどさ。他の男の子ならともかく。むしろ嬉しいんだけど、今まで見向きもされなかった身としては複雑なんだけど、あれよね。おっぱいに視線がくるとすぐに判るって本当だったみたい」


な、何を言ってるのか俺には分からないなぁ!


「…なんなら直接見る?」

「ご、剛太郎っ!!そういうのは好きだって言ってた人にしなさいっ!!」


まあ、美少女になったからと急に剛太郎と付き合いだす輩が良い男だとは到底思えないが、その辺りは最早しょうがない。

前にも言ったが、幼馴染の俺だって剛太郎を女の子扱い、までは出来ても異性として意識できるかといえばなかなかどうして難しいのだ。

それをどうこう言う資格は少なくとも俺には無いだろう。

ブサイクだからどうだなんて話どころではない。

そもそも異性として見れない見た目だったのだ。

見た目で人を判断してはいけないとは良く言うが、何事にも程度というのがある。

しかし、こうして女の子になった剛太郎と話していると…


「ちょ、ちょっと!?なんで泣いているの!?」

「いや、これで剛太郎が幸せになれるんだなって思ったら、涙が出てきちゃってさ」


ずっと見てきた。

小さい頃から一緒に育ち、学校でも常に同じクラスだった俺は、下手をすれば剛太郎の両親以上に剛太郎が苦しみ、悩み、嘆いた姿を見てきたんだ。

それが報われる。

そう考えただけで、胸がいっぱいになってしまう。

薬を手に入れた時の喜びもまた大きかったが、こうして改めて女の子になった剛太郎を見て本当に頑張って良かったと思える。

ぐっすり眠る日々が続いたおかげか、動かなくなった腕も動くようになってきたし、見えなくなっていた片目も少しづつ見えるようになり、体についた無数の傷跡も日に日に減りつつある。

確かに何度も死にかけた辛い日々であったが結果的に見れば、万々歳の結果だ。


「…それはそうとさ」

「ぐず、なに?」


俺に涙を拭くためのハンカチを手渡しながら、彼女は神妙な顔持ちで言った。


「その、昨日は色々な感情で胸いっぱいだったからそこまで思い至らなかったんだけど、本当に性転換薬を使って良かったの?」

「何言ってんだ?良かったに決まってる。何か不都合があったのか?」

「だって、性転換薬は最安値でも10億円になってたのに君が私に…」

「無粋なこと言うなよ。性転換なんて魔法みたいなことができる薬だぞ?本来なら金に変えられない奇跡の薬だろう。金なら稼げば良い。でも性転換薬はいつ手に入るか分からないんだから使って良かったに決まってる」

「10億の借金を返す宛がないんだけど…」

「そんなのどうでもいいよ。剛太郎が幸せになってくれれば」

「…っ」


俺は剛太郎の手を取って言った。


「お嫁さんになるんだろ?金がどうとか気にする前に、好きだって言ってた奴との仲を深めることを考えなくちゃいけないだろうよ」

「う、うん」


好きな男との幸せな日々を想像したのだろう。

剛太郎は顔を真っ赤にして頷いたのだった。





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