第4話

それからは表面的には変わらないように見えて、どこかぎこちないまま一月が過ぎた。


あれから彼女には改めて謝った。

彼女は笑って許してくれたが、前よりは距離を感じる気がする。

嫌われたわけではない。と思う。


自分のしていることは恥ずかしいことだからとそれに関わらせまいとしての…そう。


気遣いから生まれるぎこちなさを感じつづけている。


嗚呼、かなしい。


剛太郎によそよそしい、気遣った態度を取られることが悲しいが、それ以上にそんな態度を取らせてしまった自身の不甲斐なさに怒りを通り越して、悲しみを感じる。


強くて


優しい


彼女になんてことをさせているのか。


俺は馬鹿だ。


そして、馬鹿なりに取り返しのつかない失言を詫びるにはどうすれば良いか考えた。


「ここがダンジョンってやつか…」


考えた結果、俺は受験勉強もそこそこにダンジョンに来ていた。

剛太郎のように勉強をしてあれこれみたいな夢を持たない俺からすれば受験勉強は最悪、しなくても良い。

将来なんてどうにでもなる。

してみせる。

少なくとも剛太郎の夢に比べれば数段どころか数倍は容易であるに違いない。

命の危険に関しては備に備えたところで、どうにもならないが、少し試すくらいならばとやってきた次第である。

不幸中の幸いなのは未成年でもダンジョンに入れること。

ダンジョンの一般開放が始まった当初、未成年の入場を制限するかは様々な声が上がった。

色々と紆余曲折あり、最終的に未成年者は認められないとなったが、未だダンジョン関連の法整備やら入り口の建設やら警備はザルで、いちいち身分証を確認されるということもない。

俺にとって、実に好都合。

早速とばかりにダンジョンに足を踏み入れ、すぐに体に違和感が。

どうやら話に聞いた通りスキルとやらが貰えたらしい。


そう。

ダンジョンに入るとスキルとやらが手に入るのだ。


スキルとは何かというと、ダンジョンに初めて入った際に体に宿る特殊能力のようなもので、誰であろうと3種類のスキルを授かる。

得たスキルは自然と理解できるようになると言う。

3種類のスキルと言うのはそれぞれ種族スキル、職業スキル、特殊スキルと呼ばれる。ハッキリとはしないが、得られるスキルはランダムらしい。


まず一番肝心な種族スキル。

俺が得た種族スキルは吸血鬼だった。


種族スキルはその人の身体能力に種族スキルで得られた種族の身体能力や特質、寿命などが加算される形になって体に現れるという。

例えば種族スキルがゴブリンの人はその人本来の筋力にゴブリンの筋力がプラスされるという感じだ。

フィクションにて雑魚敵扱いになりがちのゴブリンとてバカにはできない。

ただのゴブリンでも普通のアスリート以上の身体能力を持っていると言われており、それが加算された身体能力たるや完全に人の枠組みを超えている。

寿命もゴブリンの分が加算されているという見立てが主流で、90間近の爺さんがどうせ死ぬならば見たことのないダンジョンをこの目で見てから死にたいとダンジョンに入った瞬間、ゴブリンスキルを得ると同時にみるみる若返ったなんていう話まである。

その若返り方からゴブリンの場合、40〜50年くらいの寿命が追加されるという。

エルフであれば魔法が使えるようになり寿命が跳ね上がったり、オークならば嗅覚が犬並みになって、体脂肪率が激減、今までうんともすんとも言わなかった男性器が元気いっぱいの精力モリモリになったとか。

まあ、なんにせよ授かる種族スキルはゴブリンか良くてオークあたりかと考えていたが、嬉しい誤算である。

漫画などで強者として描かれる場合が多い吸血鬼スキルは、おそらくかなり強い種族スキルなのではないだろうか?

二つ目のスキルである職業スキルは大楯士。

職業スキルは得られたスキルによって様々な技能を授かるというもの。

剣士であれば剣の達人になり、槍士であれば槍の達人になるという。

さらにはそれぞれに適した武器を使用していると必殺技のようなものを覚えるらしいのだが、大楯士とやらも初耳である。

一応、武器として金属バットを持ってきたけど…職業スキルはしばらく使い物にならなそうだ。

そして最後のスキルが一番肝心である。

特殊スキルは唯一、本人の資質や願いが反映される、ないしは反映されやすいスキルだという。

俺の願いはただ一つ。

性別転換薬を得ること。

それを得るために重要なスキルを貰えたようで一安心した。


特殊スキル 幸運


ネットで調べた限り、ダンジョンでアイテムを得やすくしたりする効果があると聞いて一番欲しかったスキルだったが、上手く得られたようで良かった。

性別変換薬を得るのには心強い。


「さて、まあまあ良い結果だ。あとは…生きて帰る。

それが今日の目標だ」


しかし、俺は入り込んだはずのダンジョンの出口を振り返ってため息を吐く。


「…ったく、噂は本当だったってことかな?出口が無くなって引き返せなくなってるとは…勘弁してくれ」


ダンジョンの入り口が消えていたのだった。




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