第3話
よしきた。
俺は剛太郎と一緒にダンジョンに挑むことを決めた。
超常現象が起きた割にはスムーズに社会に受け入れ、法整備も早かったことから水面下ではダンジョン発生は分かっていて、政府はなんたら、どこそこの国があれで、実はなんちゃら団の暗躍がそれそれどうだと話題になったが、そんなことはどうでもよろしい。
一年が経ち、高校3年の夏。
受験を控えた俺は剛太郎をダンジョンに誘うことにした。
「いかない」
が、にべもなく断られた。
「受験を控えている僕たちがやるべきことじゃないよ。確かにダンジョンで稼ぐのは夢のある話だと思う。でも、その道で成功できるかなんて発生から一年しか経ってない今から決めるには無謀が過ぎる。僕達はちゃんと勉強して、ちゅんと就職して、地道に夢を追うべきだよ」
「でも、性転換薬が手に入るかもしれないんだっ!ニュースで性転換したっていうハリウッド俳優を見ただろっ!?あれが手に入ればお前のお嫁さんになるっていう夢なんて楽勝だっ!!」
「…小6の時に軽く話しただけなのに覚えてくれてたんだ」
「今なら夢が叶うんだっ!!誰にも恥ずかしくない形でっ!!」
興奮のあまり俺は失言したらしい。
「恥ずかしいなんてことないよ」
「え?」
「僕が目指している道は確かに常道から外れているよ。
後ろ指さされることかも知れない。
親から貰った体に恣意的にメスを入れるのは褒められたことではないかも知れない。
でも恥ずかしいことなんかじゃ…決してない。
…可愛く産まれたかったのに、産まれることができずに、でもなんとかしよう、なんとか美しく、可愛くなりたい、格好良くなりたいと誰にも分からない、分かってもらえないほどに狂おしい情熱の元、彼ら、彼女らは整形という道を見出したんだ。縋ったんだ。
君が言うような恥ずかしい行いだなんてこと、絶対に無いし、私は絶対に認めない」
「あ、いや、違くて」
「…そう思うのも仕方ないことだとは分かっている。
ただ、まあ。
私の選んだ道を…整形を恥に思っていると言うのは…でも、仕方ない、かな」
と、今にも泣きそうな顔で笑った。
まるで好きな男に振られたような顔で。
違うんだ、そう言葉にしたかった。
が、不思議と言葉にはならない。
なぜならば言った自分自身がどこかでそう思っていたことに気づいたから。
「それにね。仮にダンジョンに挑んだとしても手に入るとは限らない。
あれこれ言ったけれど、…強がりだよ。
私だってどうせならちゃんとした女性の体がいい。好きな人に告白を受け入れて貰いやすくなるし、子供だって産める。
もし手に入るなら、嬉しさのあまり泣きじゃくるのは間違いないよ。
手に入るものならね?」
彼女の言葉が耳に入らない。
「実は調べたんだ。手に入れ方を。
でも、調べた限りではかなり難しそうだったし、買うのも無理そう。
一本、最低値で10億円だとか。それでありながら即日完売。お手上げだよ」
違うって言え。
嘘でも良い。
「しかも、ダンジョン内は命を落とす危険性もあるって聞くよ?
この一年で、死んでいった人間はかなりの数で、20歳未満の死傷率に関してはほぼ100%が死んでるってさ。
死なないにしても、もしもダンジョンで手に入らなかったら受験からの先の人生を棒に振ることになるかも知れないんだよ?
なおさらダンジョンには挑めないよね」
いや、そんなことを今更言ってどうなる?
説得力ゼロだろ?
「せめて受験を控えていなければ…本当に産まれが恵まれないなぁ…わたしは」
泣いているじゃないか。
誰だ、泣かせたのは。
「ご、ごめんね、泣くつもりは…困らせるつもりはなかったんだ」
その日、俺は
「恥ずかしいことだけど、私が綺麗な体に生まれ変わるまで気長に待っててね」
かけがえのない幼馴染を失った。
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