第2話
そして高校2年生になった俺たちはと言うと。
「おーいっ、まだかよ」
玄関から幼馴染に呼びかけると野太い声で返事が返ってくる。
「もう、毎日、言ってるけど女の子は準備に時間がかかるんだよ?」
可愛らしいセリフに不釣り合いなハードボイルドボイスと共に現れたのは異様にガタイのいいマッチョマン。
こいつが俺の幼馴染、剛太郎である。
同性愛者、いわゆるゲイと呼ばれる人にも種類があるらしく、彼は性同一性障害と呼ばれるタイプで、体と心の性別が一致しないタイプらしい。
小学生の頃に俺は彼、いや、彼女に向かって変だと言ったが、それはあくまで外から見た場合であり、精神的に女である剛太郎側からすれば女の子を好きになることこそが同性愛になると言う。
むしろ本質的には同性愛者ではないと言うのが彼女の言い分だ。
でありながらも、残念なことに彼女の肉体の方は精神的な性別を一切考慮してくれないようであった。
名は体を顕すとは良く言ったものである。
身長190センチ越え、ダイエットだ!と筋トレをすれば、いとも簡単にムキムキに。俺からすれば羨ましい限り。もちろん、本人にそれを言ったことはない。
顔立ちは精悍で、由緒正しき日本男児と言わんばかりの堀の深さ。
毎日の髭剃りは欠かせず、脇毛や胸毛が濃すぎて、見られたくないあまり夏場も薄着にはなれない。
もちろんプールは見学だ。
おまけに女性らしい長髪を携えたくて、髪を伸ばしたらなまじ顔が男らしいだけに不潔感すら漂う始末。
やむを得ず角刈りにしているようで幼馴染ながら同情してしまう。
小さい頃から一緒なだけに、それらの苦悩もそばで見てきて、分かってしまうのがなおさら辛い。
第二次性徴期の真っ只中である中学時代の彼女の嘆きっぷりたるや…
「あまり言いたくないんだけどさ。剛太郎の角刈りヘアーにどんな準備がいるんだ?」
「…言いたくないなら言わないで欲しかった」
「…すまん。つい」
ちなみに彼女が彼女らしく振る舞うのは2人きりの時だけで、学校ではちゃんと男っぽく振る舞う。
理由は言わずもがな。
中学時代はそれでイジメが発生。
第二次性徴期の体の変化によって特に不安定になった剛太郎は泣きじゃくるだけで反撃どころではない。
俺が剛太郎を泣かすんじゃねぇといじめっ子どもを1人ずつ叩きのめしたりした結果、紆余曲折あって2人揃って転校という顛末があった。
どうやらイジメから守るためとはいえ、やり過ぎてしまったようだ。
いや、ほら。
いじめっ子って複数人じゃん?
腕っ節に自信があるわけでもない俺としては1人づつ闇討ちからの骨ボキンくらいしないと反撃されてしまうと思ったんだ。
警察沙汰になりかけたが、いじめっ子の親はマトモだったようで、反撃が怖かった俺が足やら腕やらをへし折ったにもかかわらず、子供ともども謝りに来た。
むしろイジメをするような我が子の性根を骨と一緒にへし折ってくれてありがとうと、礼を言われたくらいである。いや、皮肉かもしれない。
とはいえ、さすがにやり過ぎだと俺は危険人物扱いされて腫れ物扱い。
剛太郎も、その性格と見た目の不一致による気味悪さと俺と仲がいい人間ということで避けられたために剛太郎と俺の両親が俺たちを思って転校とあいなった。
ああ。勘違いしないで欲しい。
危険人物だから骨を折ったんじゃないんだ。
むしろ殴り合いの経験もなく、平和に生きてきたからこそ反撃を警戒して、とりあえず骨を折れば反撃できまいと素人考えでやったら…そう、剛太郎とくらいしか喧嘩をしてこなかった平和な人生を歩んできたからこそ…いや、このことはもう忘れよう。
そして今度は俺に迷惑はかけられないと彼女は学校では男らしく振る舞うことを決めたらしい。
その覚悟は如何程の物だろうか。
年々男らしくなる見た目に、言いようがない苦痛が溜まっている節がある彼女にとってはかなり辛いことのはずなのに。
他人である俺が察するだけでもそう思うのだ。
本人の内心たるや…あまり考えたくはない。
俺を気遣ってそんな辛い選択をできるような優しい幼馴染が、もしちゃんとした女の子として生まれていたらと何度思っただろう。
彼女の夢は素敵なお嫁さん…だったか。
女の子からすればありきたりで、叶えようと思えばいくらでも叶えられる夢であるが、彼女にとってはまさに夢物語だ。
剛太郎のためにも極力女の子扱いしようとしてきた幼馴染の俺ですら完全な女の子扱いは難しいのだから。
とはいえ彼女は優しいだけではない。
強かった。
とても強かったのだ。
彼女は学校にて一番の成績をとっている。
毎日勉強づけの毎日だ。
何故ならば勉強をして、良い大学に入り、良い企業に就職、稼いだ金で整形手術を受けたいのだという。
性転換手術という奴だ。
そして可愛らしい体を手に入れてから好きな男の子に告白し、結婚するのが夢なのだとか。
幼馴染の俺としては見た目を変えた程度で結婚しようとする男はやめておけと言いたいし、そもそも好きな男の子とやらが初耳で、水臭いことに誰なのかを聞いてもまるで教えてくれはしない。
しかし、幼馴染ゆえに。
幼い時から間近で彼女を見てきたからこそ、見た目って大事だなぁと言うことがこの上なく分かるから何も言えないのだ。
剛太郎を見ていると人間は見た目じゃないってしみじみと思う。
しかし、それと同じか下手をしたらそれ以上に見た目の大切さを分からされてしまう。
将来、彼女の夢が叶うかは分からないが、小さい頃から一緒にいる幼馴染として、俺は少しでも彼女の力になれればと思う。
そして、その思いを現実に変えるための奇跡が、俺たちを救ってくれる思わぬ幸運が舞い降りた。
『ダンジョンの発生』に伴い、不可能とされてきた事象を起こすことが可能になったのだ。
例えばそう。
完全な性転換だったりが可能になったり。
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