オトコトモダチ
みゆう
「僕」と「俺」
「珍しいな、こんなところで会うなんて」
夕暮れ時。偶然通りかかった公園で、ベンチに座り込んでいるあいつの姿を見つけた。
僕が声を掛けると、落ちていた頭がゆっくりと上がる。
「あぁ」
驚いたのか、ただの溜息か、同意の言葉なのかも分からない声が、彼の口から零れた。どうやら、かなり疲れているらしい。
目が合い、胸が少し締め付けられる。
こいつは、僕の好きな人。
でももちろん、その気持ちを伝えたことはない。周りから、そして彼自身から見ても、この関係はただの男友達だ。
「いったい、どうしたんだよ」
隣に腰掛け、静かに彼の顔を覗き込む。こんな時でさえ、こいつの顔は他の誰よりも綺麗だった。
「んー、色々あって、疲れた……」
顔を覆いながら、小さく呟く。こいつには似つかわしくない、随分とくたびれた声だ。それに弱音を吐くなんて、よっぽどのことがあったのだろう。
「そっか」
でも具体的なことを言わないってことは、きっと話したくないのだ。僕は、なんでもないようなふりをして返した。
――もし、僕が恋人だったら……もう少しは、甘えてくれるのだろうか。
そんな考えが頭を過る。自分の気持ちを伝えたこともないくせに。それでも、やはりどうしても考えてしまうのだ。
こいつには、笑っていてほしい。そして願うなら、僕の隣で。
「よし、今からメシ食いに行くか」
なるべく明るく、僕はそう言った。隣の彼が勢いよくこちらを向く。今日初めて見た、こいつの嬉しそうな顔だった。
きっと、誰でも良いから相手になってくれる奴が欲しかったんだろう。そこに偶然、友達の僕が通りかかった。僕にとっては特別でも、こいつにとっては、話しやすい相手でラッキーくらいの認識でしかない。
二人で同時に立ち上がる。
「楽しみだな、お前とのメシ」
彼はそう言った。
弱っているところに付けこむなんて、僕も悪い男だな。
ふぅ、と溜息を吐くと、彼がこちらを向いたから、なんでもないと首を振った。
男友達。この関係は、近いように見えて、僕が望むものとは最も遠い位置にある。
「じゃあ、行こうか」
僕が歩き出すと、同じ速さで彼も続いた。
友達という言葉がこれほど苦しいなんて、いったい誰が分かっただろうか。
夕日が、二つの長い影をつくる。
――この関係が、早く終わってしまえば良いのに。
***
「珍しいな、こんなところで会うなんて」
夕暮れ時。俺が公園のベンチに座り込んでいると、頭の上から聞き慣れた声が落ちてきた。
「あぁ」
顔を上げると、目の前にいたのはやっぱりあいつ。気が抜けたのかな。なんだか変な声が出てしまった。
目が合い、少し胸が苦しくなる。
こいつは、俺の好きな人。
もちろん、直接伝えたことなんてない。そんなことしたら、嫌われるに決まっている。俺にとっては好きな奴でも、こいつから見た俺は、ただの男友達なんだから。
「いったい、どうしたんだよ」
俺の隣に腰掛けながら、あいつが覗き込んでくる。相も変わらず、よく整った顔だ。
「んー、色々あって、疲れた……」
ほぼ無意識に、口から弱音が零れていた。あれ、俺、ホントに疲れてたんだ。自分で自分に驚く。まぁ、なんとか顔は手で隠すことができたけど。こいつに、今の俺の笑えない顔は見てほしくない。
「そっか」
軽い口調で、あいつが返事をする。きっと分かってくれているんだ、俺が話したくないってこと。こいつの前では、俺はいつだって明るくありたい。でも、
――もし、俺が恋人だったら……もう少し甘えさせてくれるのだろうか。
思わず、そんなことを考えてしまった。そんなことありえないって、分かっているはずなのに。こいつが優しいのは誰にでもで、決して俺にだけじゃない。しかも男同士だ。こいつの頭には、俺は恋愛対象のれの字もないんだろう。
「よし、今からメシ食いに行くか」
なのに。その言葉に、一瞬で反応してしまった。好きな奴に誘われて、嬉しくならないわけがないんだ。
きっとこいつが俺に気を遣ってくれているのは、そういう性格だってことと、あと、俺が友達だから。この関係が崩れたら、俺はもうきっと、二度とこいつと関わることができない。
二人で同時に立ち上がる。
「楽しみだな、お前とのメシ」
だから俺は、精一杯、友達を演じるしかないんだ。
でも、こいつの優しさに付けこんでまで一緒にいたいなんて、俺も堕ちたもんだよな。
隣で溜息が聞こえた気がして見てみたけど、あいつは、なんでもないと首を振った。
男友達。これは、俺にとっての、こいつと繋がる最後の砦。
「じゃあ、行こうか」
そう言ってあいつが歩き出したから、俺も同じ速度でそれに続いた。
俺の勝手な気持ちを伝えて、友達を終わりにしたくない。
夕日が、二つの長い影をつくる。
――この関係が、このまま永遠に続けば良いのに。
オトコトモダチ みゆう @Miyuu_paleblue
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