第16話 技能階位


『我再構築中』


 ステータス画面に現れた文字列に続いて、今度は俺の視界の中で文字列が瞬いた。


『是是是』


 って、いい加減にしてくれって。

 俺はやけっぱちな溜息をついた。

 ホントに俺の脳細胞のどこかに、激ヤバな奴が居座ってしまったらしい。しかも、かろうじて意思疎通が出来てしまうなんて、訳がわからなすぎるだろ。って、マジでコイツは一体何なんだよ?


『閲技能可再構途中』


 ん? もしかしてスキルの方は、見られるようになったのか? 俺は急いで『技能』と念じてみた。

 左腕の上に浮き上がっていた半透明の画面がスキル表示に切り替わった。

 

<技能一覧>

 『索※』技能階※ 1※0

 『※蔽』技能※位 ※※0

 『剣※』技※階位 100

 『※闘』技※※位 1※0

 『巫※Ⅰ』技能※位 ※※0

 『※※Ⅱ』※※位 1※0

 『巫力※』※能階※ ※00

 『※力※』技※※位 1※※

 『巫※Ⅴ』※技能階※ 1※0

 『龍の紋※』


 んん? 色々ずらりと表示されたけど、まだバグってるのか? って、まあ大抵の意味はわかるような気がする。それにしても、なんか前衛系と後衛系の技能がまぜこぜになっていないか?

 しかも技能階位がみんな同じ数字って…、なんか桁が間違っているような…?

 俺はカオルにたずねてみた。


「えっと、技能階位のマックスって、どの位だっけ?」

「はあ? そんなの10に決まってるでしょ?」

「10? 100とかじゃなくて?」

「あんた本当に候補生なの? なんでそんなに無知な訳? 技能の最高位は『10』に決まっているじゃない? まあマスターランクの技能階位を持ったラビリンスウォーカーなんて、みんな揃って英雄クラスだわ」

「ふ、ふうん」


 ということは、俺の技能階位は、やはりバグということか?

 それにしたって、『巫力Ⅰ~Ⅴ』ってどういう意味だ? そういえばイキリ系オタ風発汗男子の大石が『自分の技能は「巫力Ⅲ」で重力を操る最強の魔法体系』とか言ってなかったか?

 俺はもう一度カオルに尋ねてみた。


「そういえばさ、巫力のⅠからⅤって、どんな違いがあるのかな?」

「あんた、無知っていうか、ただの馬鹿? 候補生にとって『巫力』それぞれの違いなんて基本中の基本でしょ?」

「い、いや、なんか細かい違いが覚えられなくてさ」


 適当な言葉でごまかそうとした時、ニーナがいきなり俺の目の前に立っていた。

 って、俺の鼓動が激しくテンポアップした。ハッと息を飲ませる超絶的な美貌が、再び俺を真っ直ぐに見つめていたのだ。しかもやたら顔が近い。この距離の近さは、例えていうなら友達以上、恋人未満って感じだろうか?


「あなたの氏名は永澤裕也さんでしたね?」

「あ、ああ。そうだけど?」


 俺はいきなりフルネームの『さん付け』で呼ばれたことに戸惑ってしまった。


「永澤さんは候補生ならば誰でも知っているべきベーシックな知識について、なぜ今この瞬間に質問するのですか?」

「こ、この瞬間って言われても…、そう言えば、どうしてだっけ? あれ? 忘れちゃったな、ははは」

「つい先程、永澤さんはUBDユニットで自分のステータスや技能を確認していましたね? それと何か関連があるのですか?」


 ニーナの素顔が、さらに数センチ俺に近づいてきた。潤んだような切れ長の茶色の瞳に惹き込まれそうになる。ヤバい。これ程近くに来られたら、マジで惚れてしまうだろ。


「これは私の推察でしかありませんが、もしかしたら、永澤さんの技能一覧に、『巫力Ⅰ』から『巫力Ⅴ』までが並んでいるのではないですか? しかも、技能階位の数字が三桁あるのでは?」


 いきなり正解が来た。

 って、実は他の技能も並んでいるのだが。とにかくニーナは相当賢いというか鋭いみたいだ。

 けれども、俺の技能に『秘匿規程事項、特Ⅲ』付きの『索敵』がある以上、技能とか階位とかについて、おいそれと詳しいは話できない。というか、余計なことを口に出して二人に面倒をかけたくないのだ。


 どう答えようかと迷っていたら、横からカオリが俺をディスってきた。


「こんな変態男が、四つも五つも技能を持っている訳がないじゃない? 英雄ランクのラビリンスウォーカーでも、技能の数はトリプル止まりなんだから。それに技能階位が三桁あるなんて話、聞いたことがないわ。あり得る訳ないじゃない?」

「そ、それはそうなのですが、想定レベル58から60のヒトガタ種を、無傷で瞬時に斃せる者が存在するとしたら、その者は常識の埒外にある特異な能力を有しているとしか考えられません」

「ニーナ、あなたはマジメに考えすぎなのよ。コイツはただの無知で無能な馬鹿。というか、それ以下の存在なの。さっきのヒトガタだって、きっと偶然よ」


 カオリは俺の傍にいたら悪い病気がうつるとでも言いたげに、ニーナの身体を自分の方に引っ張っていってしまった。


「きっと、戦う前から相手が瀕死でヘロヘロ状態だったとか、戦った所に偶然罠があったとか、そういう理由がちゃんとあるのよ。あんたが強いとかあり得ないんだから」


 俺は肩をすくめて見せた。というか、実際、カオリの言葉の方が正しい気がしてきた。なにせ俺様は『平凡かそれ以下』があたり前の男なのだ。常識の埒外にある特異な能力なんて持っている訳がないのだから。


「…そうなのでしょうか?」

「絶対そうに決まってるわ」

 

 カオリはそう断定したが、ニーナはじっと俺から視線をはずそうとしなかった。







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