4話 二週間を経て僕は戻る
はぁはぁ。
やっと、見えた。
無理しすぎた。
体が重い。
お腹も減った。
「ただいま~」
ふらふらと、ドアを開けて倒れる。
見つけたアマネが駆け寄って抱き上げてくれた。
「アキト、二週間もどこにいっていたんですか!?」
「ごめん。ちょっと時間がかかった」
珍しくアマネが怒っている。
そりゃあそうか、修行してくるって書き置きだけで家を出たんだ。
服もボロボロだし。
無精髭も生えている。
奥からナホさんが現れる。
「ずいぶんと汚れちまって。で、目的は達成したのかい」
「これで村の男衆にも認めてもらえるはずだよ」
「かかかっ、男ってのは馬鹿だねぇ。死んだじいさんを思い出すよ。あの人もたいがい大バカだったからね」
「おばあちゃん!」
ナホさんは「飯を用意してやるよ」と早々に逃げ出した。
残った僕はアマネから説教だ。
ずいぶんと心配をかけてしまったのだと思い知る。
「あむっ、おいひい! 漬け物と味噌汁だけで何杯もいける!」
がつがつ飯をかき込む。
最後に白米に生卵をのせてかき混ぜ、醤油を垂らして一気に口の中へ。
満腹で満足だ。
「すげぇ、あいつ十合も食ったぞ」
「アキトって今までなに食べてたの」
弟のテオと妹のスナが唖然としている。
アマネと似ていて二人とも銀髪に非常に整った容姿をしている。
もちろん兎部族だし、眼帯もしている。
「鏡を借りるよ」
ナイフを抜いて、髭を剃る。
自分で言うのもアレだが、ひどい顔だ。
少し目つきが悪くなった気がする。
けど、前は間の抜けた顔をしていた様な気がするし、これくらいがちょうどいいかもしれない。
「どうぞ、食後のお茶です」
「ありがとう」
お茶を置いたアマネはじっと見ていた。
「どうした?」
「あの、マオス様は、獲物に一撃いれるくらいで、上等だとおっしゃっていましたよ」
一撃かぁ、一撃ねぇ。
そりゃあそうだよな。
以前の僕はあまりにも弱かった。
クリアするハードルが低いのもうなずける。
長としても僕がいつまでもよそ者なのは、好ましい状況じゃないだろうし。
「大丈夫、それなりにはやれるようになってるからさ」
「あの、そうじゃなく、死ぬような危険な真似はできれば避けていただきたいと」
アマネはうさ耳をぺたんと垂れ下げ、不安そうな表情となる。
死んだ両親を思い出しているのだろうか。
ナホさんに聞いたのだが、アマネの両親は揃って戦士だったそうだ。
しかし、二人とも魔物に殺されてしまった。
僕は安心させる為、彼女の頭を撫でる。
「僕は死なない」
「アキト」
「僕の音を聞けば分かるよ、死なない確固たる自信があるんだ」
「強い鼓動……」
彼女は僕の胸に顔を寄せ、体を預けてくる。
抱きしめると彼女は見上げて微笑んだ。
ア、アマネ……!
「あたしらがいる前でいちゃいちゃするんじゃないよ。たくっ、まだ許可を出してないのに、もう子作りモードじゃないかい」
「うわぁ、アキトにねえちゃんがとられた!」
「おねえちゃんって、アキト大好きだもんねぇ。ぬふ」
視線に気が付いて、僕とアマネは慌てて離れた。
あぶなっ、危うく押し倒すところだった。
この二週間、アマネのことばかり考えたのがいけなかったのだろう。
「えっと、換えの服を持ってきますね!」
アマネはぱたぱた、慌てて部屋から出て行く。
なんだか安心したら眠くなってきた。
ふわぁ。
「こら、寝るんじゃないよ。あんたにはやってもらいたい仕事が溜まってるんだからね」
「ふぁーい」
ナホさんは相変わらず厳しい。
◇
男衆の狩りが行われた。
「ブギィイイイ」
「そっちだ、そっちにまわれ!」
「逃すな!」
村の男達が武器を持ち、ゴールドスタンプボアを追い込む。
巨大なイノシシは数人を弾き飛ばし、岩を砕くような突進で包囲網を突破しようとした。
長のマオスが叫ぶ。
「誰か動きを止めろ、逃げられるぞ!」
すでに僕は動き出していた。
地面を強く蹴り、一直線にイノシシへと向かう。
右手に持つのは木の枝。
今の僕には、これすらも強力な武器だ。
以前の僕とは圧倒的に違う。
感覚は冴え渡り、肉体はイメージ通りに動いてくれる。
「はぁ!」
ゴールドスタンプボアに一瞬で肉薄した僕は、木の枝で頭部を叩いた。
ずんっ。
次の瞬間、地面は衝撃で僅かに陥没し、敵はぐりんと白目を剥いて倒れる。
場に静けさが横たわった。
「アキト、お前……」
「僕も村の一員として役立ちたいんだ」
マオスがニヤリとした。
「ナホさんとアマネが見込むだけのことはある」
「じゃあ」
「認めよう。アキトは村の一員だ」
マオスは振り返り、男衆にも尋ねる。
「アキトを戦士として迎え入れることに反対の者は手を上げよ」
反対の者はいない。
「アキトを戦士として迎え入れる者は武器を掲げよ」
おおおおおおおっ。
全員が武器を高々と掲げた。
誰もが僕を頼りにしていると、目で伝える。
期待の籠もった無数の眼差し、今までの僕の人生にはなかったものだ。
間違いなく僕の安息の地はここだ。
今ならはっきりそう言える。
そっとステータスを開く。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】アキト・ヴァルバート
【年齢】20
【性別】男
【種族】ヒューマン
【クラス】剣皇
【スキル】武器強化Lv99・肉体強化Lv99・皇の威圧Lv99
【特殊スキル】スペシャルボーナス・ツリー解放
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これが僕の手に入れた力。
剣皇――剣聖と同等のクラスでありながら、遙かに強く極めて珍しいレアクラスだ。
剣聖は50年に一人現れると言われているが、対する剣皇は500年に一人。
剣聖が技なら、剣皇は力。
あらゆる敵をその桁違いの力でねじ伏せ、一刀両断にする。
だが、ここが終着点ではない。
クラスツリーはまだまだ上があるのだ。
そして、僕はまだスタートラインに立ったに過ぎない。
これから村の戦士として、アマネの夫として、努力を続けていかなければならない。
「アキト」
「マオス」
差し出されたマオスの手を握る。
「今夜は歓迎の宴だ」
ニヤニヤする男衆達。
なんだか嫌な予感がする。
その後、僕は彼らにしこたま酒を飲まされた。
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