スピンオフ話その2-1 ユーキと神様

『ユーキさん!助けてくださいぃぃぃ!!』


それはセレーネお嬢に別れを告げ、旅に出てから数ヶ月程過ぎた頃の事だった。


人気の無い湖畔にキャンピングカーを停め、たまには外でまったりコーヒーを飲もうとテーブルと椅子を設置していた時……そのテーブルのど真ん中に全身真っ白な姿をした見覚えのある人物(?)が大泣きした顔をして現れたのだ。


鼻水と涙でぐちょぐちょにはなっているが、この顔は確かにあの人である。


「……なにやってるのさ?(自称)神様」


その人物は、ボクがこの世界にやって来た時に出会った自称神様であったのだ。








***






『グスングスン。聞いてくださいよーっ!』


真っ白な長い髪と赤い瞳。肌も白いが着ている服も白い。ちなみに椅子に腰かけてはいるがちょっとだけ浮いてる。


「久々に会ったと思ったら突然なんなんだい?ボクはこれでも忙しいんだけど……。ってゆーか、とっとと帰れ」


『ひ、酷いぃ、相変わらずの塩対応……。でもなんか懐かしい』


「なんでちょっと嬉しそうなのかはよくわからんが、用件があるならさっさと済ませて欲しいんだけど」


と、ジト目で(自称)神様を睨みながらコーヒーカップに口をつける。ちなみにフリージアは今は用事があっていないから、ボクの分のコーヒーしかないからね?


「それで?ボクのコーヒータイムを邪魔するために来たって言うなら今開発中のあれやこれやの実験台にするけど……あ、それとも伝説の剣を材料にした“神殺し”を体験してみ『ごめんなさい、許してください』わかればいいんだよ」


うん、見事なスライディング土下座だね。さすがは(自称)神様だよ。


『……もう、神様ワタシをそんな扱いするのユーキさんくらいですよぉ。ワタシがあげた能力なのに、神であるワタシの脅威になるまでスキルレベル上げてるって普通は不可能なんですけど。だいたい伝説の剣なんかそうそう簡単に手に入らないはずなのにー』


「しょうがないじゃないか。作りたい物を作ってたらこうなったんだから」


ん?伝説の剣をどうやって見つけたのかって?あぁ、まず探知機を作って探したらすぐ見つけたんだよね。溶岩で固められて地中に埋められていたから、掘削機を作って掘り出しただけだよ。まぁ、“神殺し”なんて名前だけど言うなればものすごくよく切れる包丁さ。フリージアが包丁の刃が欠けて料理がうまく出来ないって言うから、絶対刃が欠けないなんでも切れる包丁を作ったのさ。その材料に必要だったのがたまたま大昔にあった伝説の剣だっただけだし。


あれで捌くと、刺身の鮮度が落ちないんだよねー。


『……伝説の剣って、神竜王ドラゴンロードを倒した代物でしたよね……』


「もう倒したんだから、封印しておくより再利用しないとね」


資源は無限にあるわけじゃないんだよ?何事もリサイクル精神が大切さ。


「それで、いつまでふざけてるんだい?いい加減にしないと本当に怒るよ?」


ボクがピリついているのを感じたのか(自称)神様は椅子に座り直してこう言った。


『じ、実は……こことは別の異世界の神様仲間が、ヤバイ犯罪者を逃がしちゃったみたいで!』


「はぁ、それで?」


『その犯罪者がなんと向こうの≪流星群の奇跡≫に巻き込まれてこの世界にやって来ちゃったんです!』


「はぁ、それで?」


『それなのにあの野郎がワタシに全部押し付けてトンズラしようとしやがったんですよぉぅっ!異世界の犯罪者な上にさらにあの阿呆の力を奪って逃げた危ない奴がワタシの手に負えるわけないじゃないですか?!ワタシ神様の中では最弱なんですよぉっ!』


「はぁ、それで?」


『まったく、あんたはいっつもそれだぁ!!それしか言うことないんかぁ!!』


「はぁ、それで?」


『ぢっぐじょーっ!このままじゃこの世界はめつぼぉだぁっ!ふべっ?!』


聞き捨てならない言葉に、混乱したかのように泣き叫ぶ(自称)神様の頭を掴みテーブルに押し付けた。


「……滅亡?セレーネお嬢や、フリージアのいるこの世界が?それはダメだ」


『ユ、ユーキざん……、だから、助けて欲しいんですぅ……!』


あぁもう、なんてことだ。……ボクのまったり穏やかな日常はどうやら終わりを告げたようだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る