第7話 運命の人(男爵令嬢視点)
誰も信じてくれないけど、あたしには前世の記憶がある。
あたしは遠い国のそれは高貴な身分のお姫様で、とある王子様と恋に落ちるのだ。
だがその王子様には婚約者がいて、これが美人だけどかなりの性格ブスだった。だって王子様の心があたしにあるとわかるとあたしを睨んできたもの!だからことごとく手の込んだ嫌がらせをしてやったの。あたしは世界に愛されるお姫様なのにあんなに睨んでくるなんて、ほんと最悪だったわ!これがよく物語にいる悪役令嬢ってやつだと思ったわ。
でも王子様はあたしを選んでくれる。そのはずだった。
なのに、王子様はあの悪役令嬢と結婚すると言った。
あたしが、あの女の教科書を破いたりドレスをわざと汚しただろうと言及された。そんなの、このあたしを睨んだ女にお仕置きしただけなのに何を怒っているの?
はぁ?階段から突き落とした?階段の上でぶつかってやったら勝手に落ちたのよ。死ぬところだったって?死ねばよかったのに!
そして前世のあたしはなぜか断罪され、国外追放となりそのまま死んでしまった。
きっとあの悪役令嬢があたしの幸せを全て奪ったんだと思うと、悔しくてしょうがなかった。
それが、あたしの前世の記憶。
ある日突然その記憶を思い出してから、ほんとに驚いたわ。
だって、その王子様にそっくりなオスカーとあの悪役令嬢にそっくりな女がいたんだもの。
オスカーはこの国の王子様で、あの女はその婚約者。あたしの今の身分は男爵令嬢だけど、そんなの関係ない!だってオスカーはあたしの運命の人なんだから!
あたしは今度こそ
「オスカー様ぁ、あたしと楽しいことしましょ?」
自慢じゃないがあたしはかなりスタイルがいい。見た目だって美女だから男どもがよくねっとりとした視線を送ってくるのを知ってる。だから、オスカーもすぐあたしの虜になるはずだった。
「楽しいこと?それをしたら俺はすごいのか?」
「他の男子たちを見ればわかるでしょ?」
あたしに迫られているオスカーを羨ましそうに見てくる男ども。見せつけるように胸を寄せてやればその視線に興奮が加わる。
オスカーは、なんというかちょっとバカだった。前世の王子様はもっと賢かった気がするけど、でもバカな方があたしの言うことを聞いてくれるし気にしないわ。
それに、どんなにバカでも王子様だもの!まぁ、上にふたりも王子がいるから王様になるのは無理らしいけど、王子の妻なら贅沢三昧に豪遊出来るだろう。それに第二王子は地味なそばかす男だから好みじゃないけど、第一王子はオスカーにそっくりなイケメンなのよね。オスカーの妻として王宮に入り込み第一王子を籠絡するのも楽しいんじゃないかしら。さすがに王妃の座を狙ったりはしないわよ。だって王妃の仕事って大変って聞くじゃない?だからこっそり未来の王様の愛人になって、王様とオスカー両方から愛される生活を送るのよ。完璧だわ。
しかし、どんなに誘惑してもオスカーがあたしに手を出すことはなかった。
露出の高い服でこぼれ落ちそうな胸をどんなに強調しても、誰もいない場所でふたりきりになって誘ってもあたしの体に興味を示さない。
今までのどんな男だって、この体とこの顔で迫って少しウブなふりをすればすぐさまあたしの虜になったのに。
オスカーはこのあたしといるのにあの悪役令嬢の話ばかりする。内容だけ聞けば悪役令嬢の見た目を悪く言っている悪口なのに、なぜかオスカーの瞳は楽しそうに輝いていた。
なんであたしといるのに、彼の目にはセレーネしかうつってないのよ?このあたしが目の前にいるっていうのに!
悔しい、悔しい、悔しい!
前世の記憶を思い出すまでのあたしはお金持ちの男を選んで声をかけてはあたしの虜にしていった。
たぶん、無意識に前世の恋人である王子様の生まれ変わりを探していたのだと思う。なぜお金持ち限定なのかって?そんなの、王子様だったんだから例え王子じゃなくても絶対お金持ちに生まれ変わってるに決まってるからじゃない?元王子が貧乏人なんてありえないもの!
でもどいつもあたしの王子様じゃなかった。だって、あたしに少し貢いだらすぐ破産するんだもの。
ちょっと高級な宝石やドレス、美術品を買っただけでそんなになるなんて所詮偽物よね。まぁ、全部気に入ら無かったから売っちゃったけどその後で返してくれとか訴えてくるなんて……もっと心の豊かな人たちだと思ってたのにがっかりよ。騙されたのね。
あたしってなんて可哀想な女なのかしら……悲劇のヒロインって、まさにあたしの事だわ。
でも、記憶を思い出してからのあたしはオスカーだけ。オスカーを振り向かせるために頑張った。今までの経験で培ったものを全て使って、ウブだけど魅力的で思わず既成事実が作りたくなる女を完璧に演じて見せた。
あたしは完璧だった。それこそ今までの中で1番魅力的な女だったはずだ。
それなのに、オスカーはあたしの体に指先すら触れてこない。
あたしがどんなに胸を押し付けても少し顔をしかめてから作り笑いを浮かべるだけ。いったい何がいけないのかしら?
しばらくしてから隣国から来たという女が現れた。
オスカーの事が好きらしく、セレーネを毛嫌いしてる。なんでも隣国の王女らしいが、品の無い下品な女だった。
やたらオスカーに胸を押し付けすり寄ってばかり。体から漂う香水は鼻が曲がりそうな臭いだ。隣国の事はよく知らないけど、いくら王女でもこんな女がオスカーに好かれるはずないじゃない。せいぜいあたしの引き立て役になってもらおうと思ったわけ。こんなのを見た後ならあたしの素晴らしさがよりわかるはずだもの。
だから、下品な女がオスカーにまとわりついてる間にセレーネに嫌がらせをしてやった。
セレーネが王子の婚約者の立場を使ってあたしに酷い事をしたと公衆の面前で訴えてやったの。全部、記憶の中で前世のあたしが悪役令嬢にしてやった事だからまるで本当にあった事のようにリアルに口からスラスラと出てきたわ。みんな複雑な顔で聞いてたしこれならセレーネの立場は悪くなるわね!このままあたしをいじめた罪で断罪されればいいのよ!前世のあたしの恨みをうけるがいいわ!
下品な女もあたしと交互にセレーネに嫌がらせをしているようだった。目の前で転んで足を引っかけられたなんて古臭い手ね。でもセレーネがしかめっ面をしたらしいし、案外効果あるのかしら。この国にまだ慣れていない隣国の王女をわざといじめる公爵令嬢なんていかにも悪役令嬢らしいし、この噂をもっと広めてやろう。隣国からも訴えられればいいのよ、いい気味だわ!
そんな日々が続いた。
オスカーは相変わらずあたしには手を出さないし、セレーネの話を延々とするだけ。どうやら隣国の王女ともふたりきりになったりくっついて歩いているようだけどオスカーからその女に触れることは無いらしい。
もしかして男色だったりしないわよね?それか特殊な性癖でもあるのかしら。
まぁ、それでも結婚して贅沢三昧さえさせてくれればいいけど。
隣国の王女とは、まずはセレーネを陥れて断罪させるまではお互いにお互いの邪魔はしないという暗黙の了解でうまく付き合っていた。どちらが先にオスカーのお手付きになるか競争もしてたわ。ま、あんな下品な女になんか負けないけどね!
あたしは今日も流行りの香水をたっぷり全身に浴びるように振りかける。この香水は女のフェロモンを倍増させると娼婦の間で人気らしい。父親の愛人は人気No.1の有名な娼婦だった女なので情報に間違いはないだろう。化粧もいつもよりバッチリだ。下着だっていつ脱がされてもいいように準備万端よ。いい女っていうのは、気をぬかないものなの。
あぁ、あたしはなんて美しいのかしら。これはもはや男爵令嬢というよりはこの世の女神よ!
さぁ、今日こそオスカーを手に入れて見せるわ。そろそろ欲求不満でどうにかなりそうだもの。
いつものように学園に行くが、そこにいたのはオスカーではなく衛兵だった。
あたしはなぜか衛兵たちに囲まれていたのだ。
衛兵は厳つい顔をした男たちだったが、あたしを見て眉をしかめたり、鼻を摘まんでいた者までいた。
「これが本当に令嬢なのか」「こんな下品な女、下町の娼婦にもいないぞ」「なんだ、この鼻が曲がりそうな臭いは……臭いにもほどがある」
男たちが口々になにか言っているが、誰の事だろう?あの隣国の王女でもその辺にいるのだろうか?そう思っていたらあたしの腕を掴んできたのだ。なんて無礼なやつらなのかしら!
「ちょっと!あたしに軽々しく触れないでよ!あたしを誰だと思ってるの?!」
あたしは、この国の王子であるオスカーの妻になる女なのよ!
そう叫ぶ前に猿轡をされ手足を拘束された。
あぁ、オスカー助けて!あたしの運命の王子様!
しかしどんなに願っても、
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。どうやらあたしは公爵令嬢を陥れようとした罪で投獄されたらしい。
暗く冷たい牢獄であたしは前世と同じように断罪されようとしていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます