第8話 愛犬ルドルフ
「ふぅ……お茶がおいしいわ」
朝からのんびりと庭でお茶を飲んでますが、本当ならとっくに学園に向かっている時間ですわ。
実はお母様に急な頼み事をされてまた学園をお休みすることになりましたの。これで何日目かしら?もちろん進級するために必要な単位はすでにとってますので問題はないのですけれど、学園のお友達と会えないのは寂しいですわね。
ちらりと視線を動かすと、芝生の上に気持ち良さそうに寝転がる愛犬ルドルフの姿が見えますわ。ルドルフはそれはそれは美しい銀色の毛並みをした私の愛犬ですのよ。
私がティーカップを置きルドルフの所へ行くと、ルドルフはごろんとお腹を見せて伸びをしました。
「ルドルフ、今日はお願いね」
柔らかな毛並みを優しく撫でれば「わんっ」と目を輝かせましたわ。
そう、今日はお母様の頼みで急遽倭国に行くことになったのですわ。倭国はとても遠いので馬車で行こうとするとかなりの距離があります。だから
「本当ならシラユキ様をお迎えに行く約束の日はまだ先なのですけれど……」
シラユキ様の事は数ヵ月に1回、約束した日にお迎えに行くようにしてますの。でないと突然出向いてはご迷惑ですもの。しかし今回はとても大切な急用とのことですし、私もオスカー殿下と婚約破棄することをお伝えしたいですわ。たとえ陛下が妨害しようとも、婚約破棄は私の中で決定事項ですので。
「さぁ、ルドルフ。そろそろ出発しますわよ」
お母様から託された手紙を懐にしまい、私は立ち上がったルドルフを
あぁ、ルドルフも大きくなりましたわ。初めてルドルフと出会った時は本当に小さかったのに今や
ルドルフとの出会いは私が2歳の誕生日の日の夜でした。
その日は200年に1度の流星群が見える日で、私は両親と一緒に星空を見ていたのですわ。そして数えきれないほどの流れ星に「わんわ、ほちーです(わんわんがほしいです)」とお願いしたらその流れ星のひとつが庭に落下しましたの。
庭には大きなクレーターが出来ていて、その真ん中に大きなたまごが落ちていましたわ。
私は警戒するお父様の腕から抜け出しクレーターに飛び込みました。そしてそのたまごを抱き締めるとなんとたまごが割れて中から子犬が産まれたんです。
流れ星がお願い事を叶えてくれて、とても嬉しかったですわ。それからルドルフとはいつも一緒なんですのよ。
私はルドルフの背に飛び乗り、柔らかな毛並みにしっかりと掴まりました。ちなみに今日の服装はパンツスタイルです。さすがにドレスでルドルフの背に飛び乗るわけにはいけませんもの。
「ルドルフ、GOですわ!」
「わぉーん!」
ルドルフが遠吠えのように声を上げ走り出すと、銀色の光に包まれます。そしてものすごい速さで空を駆け抜けたのです……。
やっぱりルドルフは速いですわ。それに私の体を包む銀色の光は空気の抵抗を遮断してくれているのでこの速さの中でも吹っ飛ばされることはありません。とても快適でしてよ。
え?なんの魔法かって?
いやですわ、人間が魔法を使うなんてお伽噺の世界ですわよ。魔法使いなんてものがその辺にいたら世界はひっちゃめっちゃかになりましてよ?
これは私ではなく、ルドルフの力ですわ。
ルドルフは“星の子”と言う伝説の生物らしいと言われています。≪流星群の奇跡≫とも言うらしいのですが、昔の伝承を調べている賢者と名乗るお年寄りの集団が確かそんなことを言ってましたわ。
確かにルドルフは流れ星が落ちた場所にいてたまごから産まれましたけれど……皆さん物語の読みすぎですわ。
まぁ、ルドルフは動物では見たことがない銀色の毛並みで珍しいですし、脚力が強くて空を駆け抜けたりしますし、ちょっぴり不思議な力がありますけれど、普通の犬です。動物にだってたまには突然変異が産まれたりしますわよ。ちょっと色素が違ったり産まれ方が珍しいだけですのになにをそんなに興奮しているのかしら?
それなのに、私が拾って私が名前をつけた私の犬を当時の宰相が「王家に献上しろ」なんて横暴な事を言ってきた時は幼心に私は傷付きましたわ。あ、でも、そういえば私が傷付つい事がわかったルドルフが怒って宰相の屋敷を半壊してからは何も言われなくなりましたわね。ルドルフはとても優しい犬ですわ。
ちなみにその宰相は陛下に相談せずに勝手にルドルフを奪おうとしていたらしく解雇されましたわ。
なんでも賢者の方々が言うには、“星の子”は主と認めた者のためなら世界を滅ぼすらしいです。こんなに可愛いルドルフが世界なんかを滅ぼすと本気で信じているのかは知りませんが、無事に私の飼い犬だと認められましたわ。
そしてなぜか私は陛下に気に入られてしまいました。元々お父様と陛下は仲良しでしたし、是非オスカー殿下を婿に貰ってくれと婚約が決まったのでしたわ。まぁ、婚約は破棄しますけど。
「あら、倭国が見えてきましたわ」
相変わらずルドルフは脚が速いですわ。人見知りの激しい怖がりな子ですけれど、どんなものでも背中に乗せてこの速さで運べる特技のおかげで倭国との外交やシラユキ様の恋のお手伝いにもひと役かっております。自慢の愛犬ですのよ。
「シラユキ様がお忙しくないといいのですけれど……」
こうして私は、自国を出て数時間後には無事に倭国にたどりついたのでした。
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