第6話 女帝会議
セレーネが第一王子と直接対決をしているまさに同時刻、とある温室に作られたティールームにて
そこは王城の広い庭の片隅にあり、王妃が愛でるために色とりどりの季節外れの花が咲き乱れている。そして、そこには王太子の婚約者であるシラユキ皇女から贈られた倭国を代表する花……“サクラ”と言う名のついた淡い桃色の花を咲かせる珍しい樹木が植えられていた。遠く離れた倭国からこんな立派な樹木を運んでくるなど到底不可能なはずだったが、
その王妃本人……カトリーナは神妙な面持ちで目の前にいる人物に頭を下げた。いつも輝いているプラチナブロンドの髪が心なしかいつもよりくすんで見える。
「うちのバカ息子が、本当にごめんなさい。リディア」
「カトリーナ様、あなたが頭を下げる必要はありませんわ。――――オスカー殿下はあの顔面を地面下にめり込ませても足りないけれど」
にっこりと微笑む女性はリディア・カタストロフ。カタストロフ公爵の妻でありセレーネの母親である。ちなみに王妃とは幼少期からの親友でいわゆる幼なじみだ。昔からこうやってふたりでお茶会をしていた。いくら親友であろうとも公爵夫人が王妃にこんな砕けた態度をとったりましてや頭を下げさせるなどもってのほかだが、ふたりきりの時は無礼講となっている。実はこのふたり、学生時代に色々といざこざがあったのだがそれも今となっては笑い話にできるほどには気心がしてれいる仲だ。
だが、いつも和やかなお茶会はいまやピリピリとした空気を漂わせ和やかとは程遠い。もちろん、1番ピリピリしているのはリディアだが。
「陛下に娘の婚約破棄についてご相談に行ったうちの旦那様が帰ってこないのだけれど、もしかしなくても陛下が離してくださらないのかしら?」
「そうなのよ。陛下ったら子供のように駄々をこねてしまって……カタストロフ公爵を困らせているの。息子たちにもセレーネちゃんを説得するように頼んでいたし」
「カトリーナ様は婚約破棄に反対なさらないの?」
「セレーネちゃんはわたくしにとって大切な親友の娘であり、義娘になるシラユキちゃんの親友なのよ。そして倭国との友好関係を結びつけてくれたこの国の恩人でもあるわ。それになにより、浮気男は嫌いなのよ。たとえ実の息子であろうとも、極刑に値するわ」
浮気とは、殺人の次に罪のある愚かな行為である。がカトリーナ王妃の持論である。
「しかもセレーネちゃんを罵ったあげくに、あんな男爵令嬢を選んだですって?!さらにはうちの次男をバカにして婚約を白紙にしたあの隣国の王女を侍らせてるってなに考えてるのかしらあのバカは!」
どうやらすでにオスカーの女性関係は調べ済みのようだが、それはすべてカトリーナ王妃の逆鱗に触れていた。
「調査結果は?」
「どうやらほとんどの授業をサボって、男爵令嬢と人気の無い場所に行っているようよ。移動するときはべったりと腕を絡ませて自慢気な顔で歩いていたみたいだし。日替わりで隣国の王女とも同じことを繰り返し、男爵令嬢と隣国の王女の方は交代でセレーネちゃんに嫌がらせもしていたみたい」
「とりあえず、その男爵令嬢は男爵の身分でありながら公爵令嬢を陥れようとしたのだしもちろん罰して下さいますよね?」
「とっくに拘束済みよ。隣国の方にも連絡をして返事待ちだけれど、セレーネちゃんを害した罪で倭国に隣国へ圧力をかけてくれるようお願いしたので任せていいと思うわ」
補足として、倭国はシラユキ皇女の親友であり
「なによりも……シラユキちゃんが、今度“オハナミ”なる倭国の伝統行事を催してくれるって言っていたのよ。なんでもこの“サクラ”の花を愛でながら“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”なる甘味を食してみんなで楽しむものだと教えてもらって、それは楽しみにしていたの。ただ“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”はあまり日持ちしないし倭国から持ってくるとなると日数がかかるから、ぜひ
ちなみに倭国からこの国に馬車でこようとすると1日や2日で着くような距離ではない。あまり保存の効かない食べ物を運ぶには適していないのだが、
シラユキ皇女のことも大好きなカトリーナ王妃は未来の義娘とのふれあいをとても楽しみにしていて、ハッキリ言って実の息子たちよりシラユキ皇女とセレーネの方が好きらしい。
だからこそ、そのセレーネを傷付け怒らせたオスカーを許せないでいた。決して“オハナミ”の開催が中止になりそうだからと怒っている訳ではない……と思いたい。
「そうね、それについてはセレーネに話をしておくわ。あの子もシラユキ皇女には会いたいでしょうし」
「ほんと?!」
喜ぶカトリーナ王妃を見て、リディアはくすりと微笑む。いつもは凛とした態度で姿勢正しくしている王妃が自分の前では幼い少女のように表情を変える様子を見て子供時代を思い出したりもした。
「さて、では本題に入りましょう」
「ええ、罪を犯した者へは罰を……」
その日、この国の女帝会議が行われたことを男たちは知らない。
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