第36話

 それから数日後。

 VTuberファンにとって嬉しいニュースがあった。


 お昼のトーク番組で、涼風ナギサの名前を見つけたのである。


 とはいっても、当人が出演したわけじゃない。

 イラストレーター兼VTuberとして活動している『女路めろメロン先生』がゲストとして招かれており、『手がけたキャラクター』のところに『涼風ナギサ』も含まれていたのである。


 司会者やゲストが並んでいる。

 その中に1人だけベレー帽をかぶったCGの女の子がおり、それが女路メロンだった。


 もしやと思って、ナギサのSNSをチェックしてみた。


『本日12時から放送される情報番組に女路メロンママが出演します! ぜひチェックしてください!』


 そんな投稿があった。


 ママは生みの親という意味。

 VTuberにとっては、キャラクターデザインを担当してくれた絵師さんのことを指す。


 女路メロンは、よくラノベの挿絵を担当する人だから、昔から名前は知っていた。

 アニメ化された作品もあったはずだ。


 自身もVTuberとして活動したり、VTuber事務所にキャラクターデザインを提供したことで、一気に知名度が上がったといえる。


『ちなみに、イラストレーターとしての仕事と、VTuberとしての仕事は、割合的にどんなものなのですか?』


 司会の人が女路メロンに水を向ける。


 だいたい、イラスト7割、VTuber3割、という回答だった。

 本業はイラストレーターという立場なので、VTuberの仕事が多くならないよう、心がけているらしい。


『好きなVTuberのアンケートを取ったら、女路メロンさんの名前も出てきますが……ちなみに、Wikipediaの方でも、VTuber兼イラストレーターという紹介のされ方をしていますが……これはもう、VTuberが本業ではないでしょうか?』


 女路メロンが苦笑いしている。

 私はイラストレーターです、誰かWikipediaを更新してください、VTuberは副業です、と。


『一部のVTuberからママと呼ばれているそうですが……』


 そんな質問もあった。

 女路メロンの口から、全国の視聴者へ向けて、ママという用語の説明がなされる。


 VTuberも世間一般に浸透してきたんだな。

 ちょっと嬉しいような、ちょっと誇らしいような気持ちがする。


「タツキはVTuberとか観るの?」


 そういったのはタツキのリアルママ。


「ときどき観るかな」

「ああいうCGの中に入っている女の子、タツキとそんなに年齢が変わらないのでしょう」

「そうそう。好きなゲームとか、観てきたアニメとか、近いものを感じるね。クラスの女の子と会話している気分になるよ。歌とか普通に上手くてさ……」


 母がニコニコしている。

 しまった、とタツキは思った。


「タツキもVTuberが好きなのね」

「タツキも、てなんだよ。お母さんも好きなの?」

「お母さんもたまに観るわよ。自分のスマホのアプリで」

「そうなの? 楽しさがわかるんだ?」

「少しだけね」


 母は女路メロンのトークを熱心に聞いている。

 どうやら、VTuberが好き、といったのは冗談じゃなさそう。


「ママって何なの? 説明が難しかったわ」

「この女路メロン先生はね、絵師さんなんだよ。ラノベの挿絵とかを描いている。そして、女路メロン先生がキャラクターデザインを手がけたVTuberが何人かいて……」


 タツキはテレビ画面にタッチした。


「ここ、ここ。この子たちが、女路メロン先生の生み出したキャラクター」

「ああ、それでママなのね。涼風ナギサという子も、メロンパン先生が描いたの?」

「そうだよ。メロンパン先生じゃなくて、女路メロン先生だけどね」

「へぇ〜。有名なイラストレーターさんなのね」


 どうして母が涼風ナギサに興味を示したのか。

 タツキはいまいち理解できなかった。

 まさか、息子の推しを知っているわけではあるまい。


『子どもたちから、女路メロンさん宛に、お祝いのメッセージが届いております』


 意識をテレビに戻した。

 番組に届いたのはVTuberからのビデオレターだった。


『女路メロンママ、テレビ初出演おめでとう!』

『新しくデザインしてくれたお正月衣装、とっても気に入っています!』

『今度、一緒にコラボ配信しましょう!』


 温かい言葉にうるっとなる女路メロン。

 ビデオレターの中には涼風ナギサも含まれていた。


 今日は女路メロンのお誕生日。

 ハッピーバースデーの歌のプレゼントだった。

 たった十数秒であるが、ナギサがテレビデビューした瞬間である。


『私が生み出した子たちが、どんどん成長していく姿を見守るのは、とっても楽しくて幸せな時間です』


 女路メロンの口からそんな言葉が語られた。

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