第35話
これはVTuberたちの性格が、もっとも
分かりやすいのは、スパチャが飛んできた瞬間に読み上げる方法。(パターン1)
昔ながらのVTuberに多い。
メリットはリスナーとの距離が近いこと。
デメリットとしては、ゲームや生歌を主とするVTuberの場合、リアルタイムでコメントを拾うのは物理的に不可能という点が挙げられる。
それからVTuber業界も大きくなり、スパチャの文化も浸透してきた。
中には、配信の流れを邪魔しないよう気をつかうリスナーも出てきた。
そこで生み出されたのが、配信終了後、30分くらい枠を設けて、スパチャ読み上げタイムを設定する方式。(パターン2)
タツキが知っているVTuberの中だともっとも採用率が高い。
メリットは何といってもコアなファン限定の交流タイムを持てること。
この時間にわざわざスパチャして、配信に対する感想を伝えるリスナーもいる。
配信が終わった直後は頭がヘロヘロ。
スパチャ読み上げはリフレッシュした状態でやりたい。
このタイプのVTuberがよく採用するのが、本配信とは別枠に、スパチャ読み上げオンリーの回を設ける方法。(パターン3)
イメージとしては雑談配信に近い。
本配信では口にしない本音や裏話が飛び出すから、これを楽しみにしているリスナーも少なくない。
意外に多いのが、一個一個のスパチャには反応しない方式。(パターン4)
いつもスパチャありがとう、の一言ですませちゃうのだ。
けっして手抜きではない。
本人たちいわく、個別にコメントするのが苦手。
本配信のクオリティを上げて還元したい、という発想らしい。
VTuberによっては、
『言い訳させてもらうと、日々の配信だけで精一杯で、申し訳なく思っている』
と打ち明けている。
VTuberはがんばり屋の人が多い。
タツキとしては、無理のない方法でお願いします、と思ってしまう。
涼風ナギサの雑談に戻る。
『何人かのリスナーさんが教えてくれたのですが、ライブ中の同時接続数、過去最高だったみたいです。わ〜い、嬉しいな〜。パチパチパチ〜』
『これは素直に嬉しいです。別に、数字を目標にやっているわけじゃないのですが、積み重ねてきたものがムダじゃないと知れたから嬉しいな〜』
『たとえば、1,000人という数字は、たったの1行じゃないですか。でも実際には、中に1人1人が存在するわけですよね』
『この国って、人が多いんだな〜。ナギサが普段会っている人間なんて、10人くらいなのにな〜、と思いました。アハハ、しばらく引きこもり生活なので』
今日のナギサはよくしゃべる。
推しが元気だとリスナーも嬉しい。
『これはナギサの先輩の受け売りなのですが……』
アイドル業界に、推しは推せるときに推せ、という格言がある。
ニュアンスとしては、後悔先に立たずとか、石に布団は着せられず、に近いと思う。
『これって逆のこともいえて……。ナギサもリスナーさんに還元できるうちに還元しないと、と思います。1年後、こうやってナギサが配信を続けていても、リスナーさんの中には環境が変わっちゃう人もいますよね。他のVTuberさんに浮気する人はいないと信じていますが……。だから、一期一会といいますか、一回ごとの配信にちゃんと誠意を込めていきます』
へぇ〜。
タツキは思わず舌を巻いた。
ナギサは大人っぽいことをいう。
これもVTuberとして約1年活動してきた成果だろうか。
格好いい。
そして説得力がある。
かわいい顔しておきながら、大学生のタツキなんかより、ずっと地に足がついた考え方をしている。
ぐすん……。
鼻をすする音が聞こえた。
『すみません……なんか自分のセリフにうるっときちゃって……ポンコツですね、アハハ』
かわいいな。
ファンのお陰で、という気持ちをユニークな形で表現できるナギサは、本物のアイドルだと思った。
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