第9話
VTuberにも、たくさん種類がある。
おしゃべりが得意な人。
テレビゲームが好きな人。
漫画やアニメに詳しい人。
歌やダンスが上手い人。
イラストが描ける人。
一芸に秀でている人もいれば、マルチな才能を売りにしている人もいる。
オーディションに受かった人がいるように、スカウトの目に留まった人もいる。
乙葉ユメミはスカウトされた口らしい。
イラストをSNSでアップしたり、お絵描き動画を投稿していたら、
『おしゃべりして、絵を描くだけで、たくさん稼げる仕事がありますが、興味ありませんか〜?』
知らない人からメッセージが送られてきたそうだ。
これ! 完全に風俗の勧誘やんけ!
そう思って発信元を調べてみたら、VTuberの事務所でびっくり。
という笑えるエピソードがある。
『どうして怪しいメッセージを送ったのかな〜? ちゃんと、VTuberのスカウトです、て名乗れば良かったのにね〜?』
ナギサが率直な疑問を口にする。
『アレですよ……私の覚悟を試したんですよ。あの文面で食いついてきたら、こいつは相当ハングリーなやつに違いない、て寸法ですね』
ユメミは当時のことを思い出しながら笑っている。
『実際にお金が欲しかったってこと?』
『そうです、そうです。うちの親、あんまり体が丈夫じゃなくて……』
『入院中? 通院中?』
『いま通院ですね〜』
『えら〜い! ユメミちゃん、ちゃんと家計に貢献しているんだ〜! なんか少女漫画の主人公みたいだね!』
『いえいえ。絵を描くか、コンビニでバイトするくらいしか、通貨を獲得する手段がないんですよ。高校生なので』
『へぇ〜。そういうのがスカウトされた決定打になったのかな?』
『マッチ売りの少女みたいだね、といわれましたね』
『あっはっは! マッチ売り!』
ナギサがカタカタとキーボードを操作している。
ポチッと後輩のアカウントに投げ銭したのだ。
『えっ〜! いただいちゃっていいのですか⁉︎』
『たくさん、おにぎりお食べ』
『おにぎり100個相当の金額を投げてもらいましたけれども……ありがたくいただきます!』
『いいの、いいの、なんたって先輩だからね』
VTuberの仲良しトークは見ていてほっこりする。
ナギサ×ユメミの場合、非公式ながらも『カップリング認定』されていたりする。
ユメミもいいな。
生活のためにVTuberをはじめた、と断言するところがいい。
もちろん、歌うのが好き、人を喜ばせるのが好き、という動機を否定する気はないが、生活のため、と言い切る人の方が信頼できそうな気がする。
VTuberだってボランティアじゃない。
機材を買うのにお金がいる。
『ユメミちゃんって、名前がユメミなのに、ちっとも夢見がちじゃないよね〜』
『いいんですよ、私は。ナギサ先輩がいい夢を見てくれたら』
『かわいい〜。飾らない性格が格好いいな〜』
『うふふ……』
2人が肩を揺らしながら笑っている。
双子みたいに動きがシンクロしていて微笑ましい。
『ねえ、なんでナギサだけ先輩なの〜? 他のVTuberの子、ちゃん付けだよね?』
『それはアレですよ。はじめて事務所にいったとき、たまたまナギサ先輩がいて、ガチガチに緊張している私に、アメ玉をくれたからですよ』
『あったね〜』
『その後、事務所の人とあいさつして、好きなVTuberっている? みたいな質問されたから、涼風ナギサが好きです、と答えておきました』
『あっはっは! そのせいかな〜。私たち、相当ラブラブだと思われているよね〜』
心温まるエピソードが多すぎる。
アメ玉を渡すシーンとか、想像したら胸がじ〜んとなるのは、タツキだけじゃないはず。
ユメミのオープンな性格に胸を打たれたのか、
『ユメミちゃんの方で配信を見てきます!』
『今日から僕はユメミちゃんに乗り換えます!』
『ナギサちゃん、今までありがとう!』
脱ナギサ宣言するファンがちらほら目についた。
『お〜い、こらっ! 戻ってこ〜い!』
『どうしたのですか、ナギサ先輩?』
『にぃにが……にぃにが……ナギサを裏切った! 悲しい〜!』
『えぇ……』
困惑しつつも、笑いをこらえきれないユメミ。
『あの〜、私がナギサ先輩のファンなので……つまりですよ、私のファンもナギサ先輩のファンとしてカウントすれば解決ですよ』
『あれ? そうかな?』
『はい、ファンのファンは、ファンと一緒じゃないですか?』
『ありがと〜、ユメミちゃん! 優しい〜!』
機転の利いたユメミの発言に、
『名言誕生!』
『ユメミちゃん、頭いい』
『さすがカップル』
と称賛が送られる。
VTuberファンとしての最大の悩みはアレだな。
24時間が短すぎて、応援できるVTuberの数に限りがあることだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます