第4話

 その日はゲーム配信だった。

 涼風ナギサ風にいうならば『ダラダラおしゃべりしながらRPGをプレイしちゃうよ配信』である。


 尺の長さは1時間から2時間くらい。

 次のボスを倒すまで、が毎回の目標。


 タツキはあまりゲームに詳しくない。

 昔から興味はあったけれども、お金がかかる趣味だから、親に向かって『ゲームを買って』といえなかった。


 ゲームよりも勉強やスポーツ。

 そっちの方が両親も喜ぶと、本能的に知っていた。


『お兄ちゃんも一緒にゲームしよ』


 ユズキにお願いされた日だけコントローラーを握った。

 兄妹のふれあいみたいな記憶。


 ナギサのゲーム実況を観るとき、とても懐かしい気持ちになるのは、過去の思い出が影響しているのかもしれない。


『それじゃ、今日も元気にプレイしていこうと思います! 出発するぜ〜!』


 ナギサの特徴。

 朝だろうが、夜だろうが、ハイテンションなこと。

 かわいいアニメ声だし、テンポ良くしゃべるから、聞いているリスナーまで元気になってくる。


『最近寒いけど、コンディションは〜?』


 というリスナーからの質問に対して、


『今日のナギサのコンディション? そうだな〜、調子は悪くないかな〜』


 と愛くるしく笑っていた。


 VTuberとしてのコンセプトは『みんなの妹』。

 メンバー会員になってくれたリスナーのことを『にぃに』とか『ねぇね』と呼んでいる。


 タツキも今では立派な『にぃに』の一員。

 妹が1人増えた気分といえよう。


『おっ⁉︎ さっき新しくにぃにが増えました〜。ナギサと仲良くしてくださいね〜』


 ナギサの悩み。

 それはお兄ちゃんばかり増えて、お姉ちゃんが増えにくいことらしい。


『ナギサ、ねぇねの数も伸ばしたいんですけどね〜。どうすればいいんですかね〜』


 このボヤキに対して、リスナーの1人が、


『中性的な名前の人は、全員ねぇねに含めればOK』


 とコメントを打ち込んだ。


『そっか〜。その手があったか〜』


 うんうん頷いていたナギサが、あっ! と奇声を発した。


『すごい! さっそく新しいねぇねが増えました! パチパチ〜! ありがとうございます! よろしくね、お姉ちゃん! 仲良くしてください!』


 いつだったか忘れたが、

『VTuberとして生計を立てているわけじゃない』

 みたいなことを申告していた。


 それでも、メンバー会員が増えると嬉しいし、新しいチャレンジは続けていく方針らしい。

 生活がどんなに忙しくなっても配信は継続していきます、とも。


 真面目にプレイしていたナギサが急に大爆笑した。

『筋肉大好きおじさん』というネームのリスナーが、


『わい、こんな名前やけど、ナギサのねぇねやで』


 とスパチャ付きのコメントを投稿したのである。


 ナギサは腹筋が壊れそうな勢いで笑いまくり。

 それに対して、たくさんのリスナーから、


『笑い声、かわいい』

『イルカの鳴き声みたい』


 というコメントが寄せられる。


『一人称、わいか〜い! 笑わさんといて〜! うん、ねぇねにカウントしとく! 筋肉大好きおじさんね! 名前覚えた! あっはっは! 控えめにいって強そう!』


 ゲームとまったく関係ない話が続く。

 いつものゲーム配信の光景である。


『余計なことをしゃべっている間に、次の街へ着いちゃいました。こっから真面目に実況していこうと思います。もう全クリしたリスナーさん、たくさんいると思いますが、ネタバレは無しでお願いします』


 ぺこり、と頭を下げている。


 洋風テイストの街。

 古代ローマみたいなエリアをうろつく主人公。

 すると迷子らしい女の子を見つける。


「あの子、泣いてますね。どしたん? 助けてあげねば……あ〜、家族とはぐれたんだ〜……よしっ! 私についてきなさい!」


 こっからイベントスタート。

 女の子を家族のところまで送り届けることに。


『すみません、たびたび話が脱線しちゃって。知っている人は知っていると思いますが、ナギサには、リアル兄がいるんですよ。兄妹なのに、まったく似ていないことに定評ていひょうがあるのですけれども……』


 もちろん、タツキは知っている。

 勉強を教えてくれたり、相談にのってくれる、優しい兄らしい。


『私、おっちょこちょいだから、昔からすぐ迷子になっちゃって……。よくリアル兄に探してもらったのですよ……。それを思い出していたら、この女の子、昔のナギサに思えてきたな〜。そうか、そうか、君も方向音痴なんだね〜』


 そういや、ユズキも……。

 イベント会場とかで、しょっちゅう迷子になっていたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る