第4話 空を翔る少女

 俺はラノベでイッパツ当てたいのだ。

 この異世界でもチャンスは有るだろうか?

 カクヨム的なサイトが運営されてればなーと検索したところ見当たらないので訊いてみたのだが反応無しだ。

 ヒメナは食事に専念している。俺もラーメンを平らげようか。

 店内はランチタイムも済んで客は疎らだ。壁の大型モニターで地上波スポーツニュースをやっている。平和だ。のんびりした午後の地方都市の地下街だ。ホントに俺は異世界転生したのか。ココは戦争中なのか。ぼんやり考えながらラーメンを啜る。

 テレビの女子アナウンサーが笑顔で言った。

「続いて成層圏でのレールガン戦闘機定期演習の中継です」

 軍事評論家らしきゲストの男性も「楽しみですね。新型の国産機ですから。敵も震えながら観てるでしょうね」と満面の笑みと爬虫類の様な眼差しで応える。

 エライとこ来たなー、俺。

 仕事を手伝えって言ってたけどヤバイ仕事に違いないな。絶対オレは還る。帰るぞ。新人バイトの教育も俺がヤル。面接担当したのはオレだ俺だオレだ。

 ヒメナは苦笑して肉声で言う。

「消滅してなければ帰れるかもな。専門外だから知らんが」

唖然とした俺は箸を置いて肉声で訊いた。

「どどどういう理論で隣接のパラレルワールドが消滅するのかせっせっ説明してくれよ。たった頼むよ」

 泣きそうになった。

「すまんスマン。可能性は有るから。落ち着け。研究所で詳しく責任者に訊いてみれば良いから」と言いながら完食してヒメナはドリンクコーナーへと向かう。日本刀はテーブルの上に置いたままだ。

 鞘は深い紫の漆で柄は朱色と真紅の市松模様。室内戦闘用に短めの刀を所持しているようだ。前の世界で美術品としてネットオークションに出したら即売れだなーとかボンヤリ考える。こんな時は妄想の中に逃避したくなる。

 その時ブルブルと刀が震え始めた。

 俺は目を丸くして固まった。刀から微かに声が聴こえた。

 あーコレは刀が擬人化するパターンのヤツかなー。カクヨムで読んだなー。俺やっぱ夢みてんのかな?

「先輩!センパイ!ヒメナ先輩!」と声が大きくなる。周りの客は無関心だ。良くある事なのかよ。変なセカイだ。全く。

 声は「もう!無視しないで!そっち行きますよ!もうジレったい!」と言って途切れた。

 スマホ機能付き刀剣なのか。

 ヒメナがコーヒーと大盛りサラダを持って戻った。

 フリードリンク、サラダ食べ放題の店らしい。

 刀の柄をチラリと見て舌打ちを軽く一回したので「こっちに来るとか言ってたけど」と俺が言うと少しだけ愉快そうな笑みを浮かべてサラダを食べ始めた。

 刀が一瞬放電する様に光った。俺は目を瞑った。

「ヒメナ先輩!来ちゃいました!」と声が聴こえた。

 目を開くとテーブルの上に30センチくらいのホログラム映像の少女がいた。

「局長と呼びなさい。伊都嶋さん。」ヒメナが言うと「いやですよ!さん付けは!呼び捨ててください!できれば名前で!リミナって!」

 おそらく部下なのだろう。この娘も俺の先輩というコトになるのか。ホログラムの段階では可愛らしいな。異世界美少女に付き油断禁物だが。

「エーっとなにしに来たんやったかぃなぁー?そうそうナンカあのナンカあれですよ巨大生物ですってよ!ヒメナちゃん!」

「私は局長だ。ちゃん付けは許さん」

「もぉ〜、怒んないの〜。早く一緒にお仕事に行きましょうよぉ」

「独りでやって下さい。伊都嶋さん」

 30センチの少女は頬を膨らませて悲しげな表情で俺の方を向いて「どう思いますぅー?この仕打ちはぁナンカぁーハラスメントっぽくないですかぁー?」と言う。

 俺は「いや、自分コッチ来たばっかなんでルール良く判らんとですよ」しどろもどろに応えた。

「ふーん」と伊都嶋さんは急に態度を変えて俺の瞳を見つめだした。

「距離が有るから読み難いけど変な感情が少し視えるなー」

 やばい。この娘もか。なんとか心の扉を閉めたい。

「ヒメナに触ったら怒るけん」低い小さな怖い声で俺を睨んで言った。

 俺は口を半開きにして30センチ少女の伊都嶋さんを見詰めて少し震えた。恋かな。違う。しっかりしろ!俺!

 彼女はくるっとヒメナに向き直り言った。

「伊都嶋りみな、出動しまぁす!」そして挙手敬礼した。

 と同時にホログラム映像が店内全体に拡大し30センチの彼女も通常形態を現す。俺より小柄で何故かホッとする。

 迷彩柄の戦闘服はピンクとスカイブルーで彩られ戦場では目立ち過ぎと思われるが正直言って可愛らしい。

 ちょこんと被ったベレー帽に銀の斜め十字のエンブレムがある。銃剣の類いは所持してない。軽装備だ。

 どうやら広い公園の芝生の上にいるらしい。周りに見物人が集まっている。

 両手を天空に突き出すリミナ。足元の芝生がザワザワと蠢き出した。フワっと浮かび上がる彼女の小柄な身体。ニコッと笑顔を見せた次の瞬間に猛禽類の速さで真上に飛翔した。

 見物人達は楽しそうに拍手をする。喫茶店の皆んなも拍手だ。俺も拍手。だって可愛くてカッコいいもん。

 いや、待て。

 あんな物理法則無視の飛び方は無いだろが危険だろが可愛い娘に非道い事させんのかココは!

 巨大生物とか言ってたし大事件だろがい!呑気に喫茶店に居て良いのか!この俺は!

 だが目の前のヒメナ局長はアフターコーヒーを優雅に愉しんでいる。

 「えずかー」と俺は心で呟いた。




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