独白
そうして、フランツと人魚は何度か逢瀬を重ねた。月が満ちれば満ちるほど、水面がきらきらと光を含んで、人魚の稀有な美しさが露わになる。しっとりと濡れた肌の上に金色の長い髪が乱れ絡まる姿にふと目を奪われるたびに、フランツは恥じらうように俯いて、控えめに弦を弾いた。
人魚はどうやら、フランツの言葉を解するらしい。しかし、一切言葉を発さない。だが、それがむしろフランツの心の箍を緩めた。次第に、家族や友人にも話せないようなことを、この人魚にだけは打ち明けるようになったのである。
フランツには歳の離れた兄がおり、本来なら彼が会社を継ぐはずだったが、彼の奇妙な性格を嫌った父が弟のフランツを後継者としてしまったこと。
フランツは近々、父親に決められた相手と結婚をしなければならないこと。
人魚たちの体を利用する商売を、フランツ自身は快く思っていないこと。
どんなことを話しても、人魚は目を丸くして、真剣な表情で耳を傾けた。フランツはいつも、その健気な姿に胸を打たれていた。
「兄さんは不気味な人だ。いつも、暗い地下室でガラスの容器をたくさん並べて、何やら怪しげな研究をしてる。それに、口にするのもはばかられるけれど……人魚を大きな水槽に入れて飼っているんだよ」
フランツは苦虫を噛んだような顔をしたが、人魚はふと遠くを見つめた。
「僕はそんなことはしたくない。君たちのいるべき場所はあくまでここだ。海だ。それは弁えてるつもりだから」
フランツが人魚の髪をそっと撫でると、人魚はすり寄るように身を持ち上げて鼻先をフランツに近づけた。
「君さえ美しいままでいてくれたら、僕はもう何も要らない」
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