第16話 告白


「ホームルーム始めるぞー。席に着けー」


担任の一言で、談笑に励んでいた生徒たちが、それぞれの席へと戻っていく。


その少しの時間を利用して、担任が配布用のプリントを整える。

その姿は、以前よりも活気に溢れていて。僕の目には垢が抜けたように見えた。


「行事が多いからといって、ハメを外しすぎないように・・・」


『生徒の心得』と書かれたプリントを配り終えた担任が、その内容を読み上げていく。


話を上の空で聞きながら、教室全体が見渡せる廊下側の一番後ろの席で、僕はクラスの様子を観察していた。


僕が小川結衣を守るためについた嘘で、少し前のクラスには険悪な雰囲気が漂っていた。


しかし、佐藤香織という絶対的な『悪』が転校したことで、刃よりも鋭い『空気』は、その標的を失った。


その結果、和やかとまではいかないが、研ぎ澄まされていた空気は徐々に錆びついていき、険悪だった雰囲気は改善の兆しを見せていた。


「これで良かったんだよな・・・」


佐藤香織の過去を知ってしまったからこそ、顔を覗かせる後悔の念。

考えてもしょうがないと自分に言い聞かせ、僕はその顔に仮面を貼り付けた。


ぐるりと教室を見渡した僕の視線が、窓際の一番後ろの席に座る小川結衣へと向けられる。

大半の生徒が担任の話を適当に聞き流すなか、彼女は至って真剣に話を聞いていた。


塩月と小川結衣が一緒に暮らすことになったあの日、家に帰ると親父がお寿司を用意していた。


彼女が家を出ていくことはもちろん、塩月と会うことすら伝えていなかったので不思議に思ったが、親父は最後まで理由を教えてくれなかった。


親父の部屋に隠すように置いてあったゴルフクラブが無くなっていたので、僕が気づいたことに気づいたのかもしれない。


理由はさておき、小川結衣の好物でもあるお寿司を食べながら、この日は3人で語り合った。

その翌日から、彼女は塩月家で暮らしている。


「いろいろあったな・・・」


ここ一ヶ月程の濃密すぎる出来事の数々を思い出し、苦笑を浮かべながら呟く。


クラスのいじめられっ子が実はロボットで、その背景には親父の存在があった。

クラスのいじめっ子が初めて行ったいじめの相手が、親父に策を提案した男の娘だった。


複雑な人間関係を紐解きながら、自分を守ってくれていた女の子に恩を返すために、ただひたすら奔走していた日々。


そんな生活も少し前に終わりを告げ、ここ数日は平穏な暮らしを取り戻していた。


そして、


「というわけで、また来年元気に登校するように!良いお年をー」


担任の挨拶を合図に、僕たちの冬休みが始まった。



「じゃあ、帰ろっか」

「・・・うん」


教科書などをリュックに詰めていた小川結衣に声をかける。

明日からの予定を話し合う生徒たちを残して、僕たちは教室を後にした。


ちなみに、塩月家は学校と僕の家との間にあるため、降りる駅が変わったくらいで、帰り道は以前とほとんど一緒だ。


「ついに冬休みだね」

「・・・そうだね」


学校から駅までの限られた時間。

その間に伝えなければいけないことがあるのに、他愛もない話をしてしまう。


本来嫌いなはずの、本題に入る前の中身のない会話。僕自身がそれをしてしまっているのには、理由があった。


「そういえば、25日って・・・予定あったりする」

「・・・別に無かったと思うけど」

「そっか・・・」


小川結衣の返事で高鳴る鼓動。

それを抑えるように大きく息を吸いこむと、僕は続けてこう言った。


「よかったら、その日に遊園地行かない?」


12月25日。

キリストの生誕を祝うはずのこの日は、商業戦略やメディアの影響を受けた結果、日本人にとって恋人と過ごす日となっている。


その日に女の子を誘うという行為は、愛の告白と同義と捉えられてもおかしくはない。

まあ、彼女がそんな風に意識しているとは思えないが。


「・・・いいよ」


両手を胸の前でもじもじとさせ、恥ずかしそうにうつむきながら答える彼女。

その予想外の反応に、僕の体温がみるみる上昇する。


プルルルルルル。


「・・・あっ」

「やべ、急がなきゃ」


電車の到着を知らせる音が聞こえたことで、会話が途切れる。


脳裏に浮かんだ邪な妄想をかき消すように、僕は駅のホームへと駆けた。



「間に合った・・・」


ギリギリ乗れた電車の椅子に腰掛け、僕は上がった息を整える。

その横で、何事もなかったように、彼女は本を読んでいる。


彼女を誘うタイムリミットを、駅に着くまでに設定したのはこのためだった。

最初は電車を珍しがっていた彼女だが、乗る回数が増えるたびにその興味は薄れていき、今ではすっかり読書時間になっていた。


「「・・・」」


電車が奏でる一定のリズムだけが響く車内。


僕は、読書中の彼女には話しかけないように心がけていた。

というのも、彼女のことを知るために読書に励んでいた時期、やたらと話しかけてくる親父がうざかったからだ。


時と場合、話しかけてくる相手によっても変わってくるだろうが、集中している人に話しかける時は、ある程度の覚悟と思いやりが必要とされる。


決して、先ほどの反応の意味を聞くのが怖いわけではないのである。


『次は豊南駅。お降りのお客様は・・・』


アナウンスがあった駅は、塩月家の最寄り駅だった。


隣に座る小川結衣が、読んでいた本をリュックにしまい、立ち上がる。

電車が止まり扉が開かれると、彼女は僕の方を振り返り、こう言った。


「・・・25日、楽しみにしてるね」


少し照れ臭そうに言い残し、小川結衣が走っていく。


不意打ちの笑顔にやられた僕を乗せて、電車は再び動き出した。




クリスマス当日。


小川結衣と初めて出かけた時と同じ時計台の前で、僕は彼女を待っていた。


「マー君、今日はどこに連れてってくれるの?」

「んー、内緒。でも、ミーちゃんが行きたがってたとこだよ!」

「ほんと!?うれしー!!」


僕の目の前で、絵に描いたようにいちゃつくカップル。

その様子を見た通行人たちが、嫉妬と嫌悪の眼差しを向けている。


(僕もあんな感じだったな・・・)


去年までの寂しいクリスマスを思い出し、同情に似た感情を抱く。


『リア充爆発しろ』という思いは、最近の出来事のおかげか薄まっており、今では『リア充タンスの角に小指ぶつけろ』くらいにしか思っていない。


「・・・おまたせ」


不意に声をかけられ顔を上げると、そこには可愛いと綺麗を兼ね備えた、最強の女の子が立っていた。


「・・・佳織さんのおさがりなんだけど、どうかな?」

「似合ってる・・と思うよ」

「・・・ありがと」


塩月から貰ったヘアゴムで髪を結び、子どもの愛らしさと大人の色気を兼ね備えた小川結衣。

そんな女の子に「可愛いね」と声をかける勇気が僕にあるはずもなく、無難な言葉でその場を収める。


「行こっか」

「・・・うん」


心の葛藤を悟られないように話を切り上げると、僕は彼女を連れて遊園地へと向かった。



「すごーい!広い!!」


クリスマス効果により行列ができていた受付を乗り越え、園内にたどり着いた僕と小川結衣。

初めて見るアトラクションの数々に、彼女の目は輝き、口調はいつもより早くなっている。


「初めは何乗りたい?」

「うーん」


受付で貰ったパンフレットを一緒に見ながら、小川結衣の希望を訪ねる。

今日は彼女のしたいことにとことん付き合おうと、僕は密かに決めていたのだ。


「ここはどうかな?」

「それは・・・」


彼女が指差したのは、ここに来てからずっと視界に入っている、いわゆるメインアトラクションだった。


「・・・だめかな?」

「そんなことないよ!行こ!!」


元に戻ってしまった彼女の口調を見兼ねて、希望のアトラクションに向かうことにする。


彼女の期待に応えることこそが、今日の僕の勤めなのだ。




「「いやあああああああああ!!」」


小川結衣の楽しげな歓声と、僕の断末魔のような悲鳴が園内に響き渡る。


人は何故ジェットコースターに乗るのか。


そもそも乗り物とは移動手段の1つに過ぎない。

それが公共機関であれば、対価を支払い、目的の場所まで運んで貰うという構図だ。


にも関わらず、ジェットコースターはお金が必要な上に、スタート地点とゴール地点が同じであるものがほとんどだ。


移動距離はプラスマイナス0であり、得られるものといえば『恐怖』くらいだ。


そんなものに並ぶなんて時間の無駄だ、というのが僕の考えだった。


「楽しかったね」

「・・・・・そうだね」


この遊園地のメインアトラクションであるジェットコースターから降り、足取りがおぼつかない僕に、彼女が笑顔で語りかける。


(恐怖の『共有』か・・・)


1人でするのは微妙でも、複数人ですると楽しいことはたくさんある。


ジェットコースター好きの気持ちが、少しだけ理解できた僕だった。




「「いやあああああああああ!!」」


この世の終わりのような、2人の悲鳴が屋敷内に響き渡る。


人は何故お化け屋敷に入るのか。


そもそも、暗い場所は人間にとって天敵であるはずなのだ。

故に電気の発明は偉大であり、一般的な活動時間は未だに日中とされている。


にも関わらず、お金を支払ってまで暗所に入り、得られるものは『恐怖』だけ。


そんなものに並ぶなんて時間の無駄だ、というのが僕の考えだった。


「・・・怖かった」

「・・・・・そうだね」


お化け屋敷から出て、顔面蒼白の僕に、同じく震えている彼女が語りかける。


(恐怖の『強行』か・・・)


他人のことを100%理解できる人間はいない。


お化け屋敷好きの気持ちは、永遠に理解できないと感じる僕だった。




「お腹空いた・・・」

「そうだね。そろそろご飯にしようか」


空腹を訴える彼女を連れてやって来たのは、園内にあるフードコートだった。


焼きそばやソフトクリームなど、遊園地の雰囲気にぴったりな出店がたくさん並んでいる。


「どれが食べたい?」

「うーん。あれは何?」


彼女が指差したのは、日本のソウルフードである『たこ焼き』だった。


「そっか、食べたことないのか・・・。よし、あれにしよう」


運良く空いていたベンチに彼女を座らせ、たこ焼きを売る屋台へと向かう。


何を隠そう、たこ焼きは僕の大好物なのだ。


タコを生地で包んで焼くという、シンプルな工程から生まれる綺麗な球体。

シンプル故に、作り手によって自在に変わる味。


トッピングも地域や人によって変わるため、たこ焼きとの出会いはまさに一期一会なのである。


「お待たせ」


12個入りのたこ焼きを2パック持って、小川結衣が待つベンチへと戻る。


それを見つけた彼女が、エサを前にした猫のように目を輝かせた。


「おいしい!」


たこ焼きを口にした彼女が、感嘆の声を口にする。

それを耳にした僕は、自分が褒められたようで鼻が高かった。


今では見慣れてしまったが、ロボットが食事をしていると思うと、少し不思議な気持ちになる。

塩月曰く、この機能はロボットであることを周りの人間に悟られないために実装したものであり、食事をしなくても活動が停止するようなことはないらしい。


しかし、その理由は建前であると、僕は勝手に思っている。


何故なら、周囲を欺くためだけの機能なら『味覚』や『空腹』といった類のものは、搭載する必要性がないからだ。


きっと、塩月は小川結衣の開発段階で、彼女に娘の面影を見ていたのだろう。

その想いが、機能という形で具現化されたわけだ。


「鈴木くんは食べないの?」

「ううん。食べるよ」


猫舌気味の僕に最適な温度になったたこ焼きを、丁寧な所作で口にする。


彼女と一緒に食べたからか。

このたこ焼きは、今まで食べてきた中で一番美味しく感じられた。



「暗くなってきたね」

「・・・そうだね」


昼食後も様々なアトラクションを楽しんだ僕と小川結衣。

楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、辺りはうっすらと暗くなり始めていた。


「そろそろラストにしようか。何が良い?」

「あれに乗りたい」


彼女は一切の迷いを見せず、あるアトラクションを指差した。

それはジェットコースターに並ぶこの遊園地の顔であり、デートの最後にふさわしいと思えるものだった。


「じゃあ、あれにしようか」

「うん」


名残惜しさを感じつつも、トリとなるアトラクションを目指す。


遊園地のど真ん中で圧倒的な存在感を放つ。

そのアトラクションの正体は、観覧車であった。



「幻想的な夜の世界へ行ってらっしゃい」


スタッフの掛け声を背に受けて、ゴンドラに乗り込む。


『締めは観覧車』と考える人は多いらしく、辺りは真っ暗であるのに、かなりの待ち時間を要した。



現代社会を模しているように、規則的に回る観覧車。

その一部を担うゴンドラからは、その全容が見えることはない。



密室に2人きりという特別な状況を意識しないために、僕は詩人のような事を考える。


そんなことをしていると、僕たちを乗せたゴンドラは、いつの間にか頂上付近まで来ていた。


「綺麗・・・」


夜景を眺め、子どもをあやすような優しい顔で彼女が呟く。


仕事に励む会社員たちがつくりだす、遊園地のスタッフ曰く幻想的な夜は、皮肉なことに確かに綺麗だった。



「鈴木くんにお願いがあるの・・・」


ゴンドラが頂上に到着したのとほぼ同時に、遊園地に誘った時に見せた恥じらいの表情で、小川結衣が唐突に話を切り出してきた。


「な、なに?」


思わず上ずった声で返事をしてしまう。

というのも、彼女に借りた本にあった告白のシーンと、今の状況がそっくりだったからだ。


「わたし・・鈴木君に・・・」


今にも泣き出しそうな勢いで、何かを必死に伝えようとする彼女。

僕も、その先の言葉を聞き逃さないように、耳の穴が張り裂ける勢いで必死に待った。


「名前で呼んで欲しいの!!」

「・・・・・え」


クリスマス。綺麗な夜景。観覧車に2人きり。


プロポーズにぴったりなこの状況で、彼女が言い出したのは『名前呼びの提案』だった。


「良いけど・・なんで今なの?」

「仲が深まったら名前で呼び合うって、本に書いてあったから・・・」


それを聞いて、僕の中で話が繋がった。


以前、小川結衣のことを知るために、彼女に借りて読んだ本。

その中で特に印象に残っていた、告白のシーン。


たった今彼女の話に出たのは、それよりも前に描かれていた内容だった。


確か、物語の中で2人が名前呼びになったのが、2回目のデートの時だ。


つまり、彼女を遊園地に誘った時の意味深な反応は、クリスマスだからではなく、2回目のお出掛けだったからなのだろう。


『デート』ではなく『お出掛け』と称したのは、彼女にデートという意識があるかすら怪しいからだ。


「それなら・・僕のことも名前で呼んでよ」

「・・わかった」


何も焦る必要はない。

これからたくさんの思い出を作って、ゆっくりと距離を縮めていけば良いのだ。


時間はたくさんあるのだから。


「ゆい・・・」

「りょうた・・・」


特に用事も無いのに、お互いの名前を呼び合う。


慣れない響きに、先生をお母さんと呼んでしまった時のような気恥ずかしさが全身を襲った。



「そうだ。これ・・・」


僕らを乗せたゴンドラが、もう少しで一周しようとしていた頃。

僕はポケットから小さな紙袋を取り出して、小川結衣へと差し出した。


「なに、これ?」

「開けてみて」


綺麗に包装された紙袋を、彼女が丁寧に開封していく。


「これって・・」


紙袋から顔を出したのは、少し変わったストラップだった。


「覚えててくれたんだ・・・」


猫なのか狸なのか、モチーフがよくわからないストラップ。

それは、初デートの際に彼女が見つけ、可愛いと呟いていたものだった。


「喜んでくれたみたいで良かった」

「うん。大事にするね」


ストラップの可愛さは未だに理解できないが、喜ぶ彼女も理解できないほどに可愛かった。



「ご乗車ありがとうございました!足元にお気をつけください」


スタッフの慣れた手つきで、密室を作り出していたゴンドラのドアが開かれる。

それによって入り込んでくる夜風が、やけに冷たく感じられた。



「信じらんない!もう帰る!!」

「ちょっと待ってよー!」


1つ前のゴンドラから、怒った様子で飛び出した1人の女性。

その女性と一緒に乗っていたであろう男性が、慌てた様子で後を追う。


一際大きな声と、うっすらと見覚えのある顔に、気づくと僕は視線を奪われていた。


「婚約指輪が入らないなんてありえないでしょ!」

「でも、前に測ったのを伝えたのに・・・もしかして」

「私が太ったって言いたいの!?最低!!!」


腕を掴んで引き止めた男性を、女性がビンタで再び引き離す。


俗に言う修羅場を迎えていたのは、時計台で小川結衣を待っている時に見かけた、あのカップルだった。


「マー君がこんなデリカシーのない人だと思わなかった!」

「違うんだ、ミーちゃん!話を聞いてよー!」


マー君を置き去りにして、ミーちゃんはスタスタと歩いていく。

今のミーちゃんに何を言っても焼け石に水と悟ったのか、マー君は項垂れて動かない。


お互いにとって不幸な事故だと思うが、気持ちがわかる分、僕は男のマー君に同情してしまう。


『まもなく閉園のお時間です。本日は・・・』


無情に鳴り響くアナウンス。


(頑張れマー君。きっとまだチャンスはあるぞ)


本名も知らない年上であろう男性に、心の中でエールを送る。

それから僕と小川結衣は、遊園地を後にした。




遊園地からの帰り道。


「ちょっと休んで行かない?」


時計台が遠くに見え、駅までもう少しという所で、突如、小川結衣が休憩を提案してきた。

少し不思議に思いながらも、断る理由も特になく。言われるがまま、少し寄り道をすることにした。


「星が綺麗だね」

「そうだね・・」


近くにあった公園のベンチに腰掛け、夜空を見上げる。

ホワイトクリスマスとはいかなかったが、満点の星空がロマンティックを演出していた。


「今日はありがとう。とても楽しかった・・・」


今日あった出来事を1つ1つ思い出すように、小川結衣が話す。

その言葉に嘘偽りはないと思うが、心の奥底では違うことを考えているようにも見えた。


「・・・実は、すず・・凌太に言わないといけない事があるの」

「・・・なに?」


観覧車の時とは、また違った様子で話を切り出してくる。

どこか怯えているようで、伝えるかどうかをまだ迷っている様子だ。


「私の・・は・・・」


震える彼女の手を握り、「ゆっくりでいいよ」と声をかける。

しばらくすると震えが止まり、悴んでいたお互いの手が温もりを取り戻していく。


それから一呼吸置き、「よし」と小声で呟くと。

僕の目をまっすぐに見つめて、彼女ははっきりとした口調で、確かにこう言った。




「私の命は卒業までらしいの」




温かくなったはずの手の感覚がなくなり、頭が真っ白になる。


様々な困難を乗り越え、やっとの思いで勝ち取ったクリスマスデート。


そのラストを飾る、聖なる夜に彼女から告げられたのは。


『愛の告白』などといった、希望に満ちたものではなく。


『寿命の宣告』という、絶望に満ち溢れたものだった。

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