平根の鏃《やじり》
其乃日暮ノ与太郎
それはここから始まった
(おとり捜査はマズいんだが)
湊町署に勤める警部補のA男がガード下で生活していたホームレスの協力で郵便局留めの銀行振込で入手したインターネットプロトコルを使うIP電話番号の050から始まる通話料3,000円を即時リチャージしたプリペイド式の一切装飾されていないスペースグレイのiPhone8を上着から取り出した時、高靭強化TPU素材の保護カバーを付けたスマホが鳴った。
「え、
(何だよ、もうこの
そう呟いた警部補が或る人物に連絡を取る。
(コレで商売の幅が広がる)
翌日、繁華街でシャブでシノギをしていた売人のB太が昼間に半ば強制で買わされたプリペイド携帯を
「え、組事務所にガサが入った?」
(ダメだ、もう
そう考えたヤクザ者が或る男のアドレスを調べる。
(これガアレバ、デナカマトレンラク、トリヤスクナルヨ)
次の日の朝、偽造したナンバープレートを付け替え終わったCナパーが少し値が張ったが欲しがっていたIP電話を手にしていた時、アクリル素材基板材を使用しシルバーで囲われたクリアカバーを被せたスマホの着信音が聞こえた。
「エ、ミナトガフウササレタノ?」
(ジャアモウこれイラナイヨ。カレナラカッテクレルハズダカラウロウ)
そう思い付いた外国人が或る知り合いに電話する。
(コレを追加して効率アップだ)
その日の夕方、不法滞在者からスペースグレイのブツを仕入れた振り込め詐欺のリーダーD次郎が今夜のクラブ活動先を決めかねていた時、ゴールドで覗き見防止フィルター機能を備えた両面ガラスのカバーが装着されたスマホが震えた。
「え、出し子がパクられた?」
(この稼ぎはもう潮時かな。じゃ、コレ要らねぇからあの子に活かしてもらうか)
そう閃いた主犯格が或る女にメールを送信する。
(コレを駆使してコンサートチケットを高額で捌こう)
翌日の太陽が昇る前、アフターから解放されたキャバ嬢E美がオートロックマンションのエレベーター内で裸のiPhone8をバッグに戻した後、ピンクゴールドのハート型バンカーリングに指を通してネットニュースを閲覧していた自前のスマホ画面に吠えた。
「え、あのアイドルって不祥事で謹慎したの?」
(えぇ~、マジ最悪。もうコレ使えないじゃん。あ、あの人に相談されてたっけ)
そう記憶の糸をたぐった夜の蝶が或るサラリーマンにLINEする。
(あのクソ上司に大量の宅配ピザをお見舞いしてやる)
その日の昼下がり、F悟が出勤前に顔見知り価格で購入した050から始まる携帯を使って本日病欠の独身部長から常時受けていたパワハラに腹を立て、悪質な嫌がらせを決行しようとした時、カードスロットとサイドポケット、カラビナリングが付属されたブルーケースの中のスマホに応答を促された。
「え、私が昇進?」
(このテロがバレたらマズい。コレは前に入手方法を聞かれていたアイツに譲る)
そう想い浮かべたアラサーが或る元同僚との履歴を辿る。
(コレで練炭自殺する同士を募ろう)
それから数時間経過した晩、公園のベンチで一年前にリストラされ、離婚が成立してから三カ月になるG紀が通話料が課金された携帯で闇サイトを検索していた時、黒のスクエアで両利きに対応したケース内のスマホから受信の知らせが来た。
「え、娘も一緒で食事したい?」
(別れてから初めてだ、こんな俺だけど会ってくれるのは。コレはもう無用だからお世話になっていたあの方に役立ててもらおう)
そう心変わりしたロスジェネ世代は或る先輩に直電してお伺いを立てる。
(コレで会社を傾かせてやる)
次の日、通勤ラッシュから逃れ準大手会社に出勤途中のH彦が大学当時の後輩から真夜中にプレゼントされたインターネットプロトコルを使う携帯を懐に収め、重大な内部告発を画策しながらコーヒーチェーン店の席を立とうとした時、テーブルでネイビーのレザーケースで横置き機能を利用して再生していた動画を止めた矢先に二つの受話器アイコンがスマホに現れ、緑に触れてドラッグする。
「え?今の年収の倍で雇いたい?」
(ライバル会社から願ってもないヘッドハンティングが迷い込んで来た。立つ鳥跡を濁さず、だ。コレはあの……)
I也「で、その踏み
J香「まさかぁ、そんな都市伝説聞いた事無いけどなぁ」
I也「もしこの話が本当だったらどうする?」
J香「それはねぇ……」
K輔「お~い、昨日姉ちゃんの彼氏からこのプリペイドのスマホ貰ってさぁ……」
平根の鏃《やじり》 其乃日暮ノ与太郎 @sono-yota
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