第11話空を舞う鉄の翼

夢を見た。懐かしい夢だ。村が焼き払われる前のこと、俺は一人の少女と野原を駆け回っていた。文明の発展がまだ届いていド田舎だ。目に見えるものは草原と青空。その頃の俺は何やってたっけ?野原を駆け回ってそれから少女と……アとままごとを。あれ?……アって誰だ?外見は覚えている。だが顔と名前だけが出てこない。


「▽%ィス……ゼフ〇◇」


雑音混じりに聞こえる声。確かに俺を呼ぶ声だった。だが雑音が混じり声色やところどころ言葉が聞こえなかった。


「▽%ィスは*…なりたいの?」


俺は君を……



目が覚める。天井は石でできたものではなく布がアーチ状に貼られたものだった。ここは城じゃない。ならばどこだ。まさか作戦が失敗して捕まったんじゃないだろうな。辺りを見回す。そこにはLエネルギーパックが数個あったり、ティナが買った本が置いてあったり酒瓶が置いてあったりした。本がおいてあるあたり捕まったわけじゃなさそうだ。体を念入りに調べる。身体中に包帯が巻かれ、傷の手当がされていた。荒塊も横に置いてあった。


「ゼフィス、気がつきましたか?丸1日寝てたんですよ」


その声は聞き覚えのある声だった。夢に出てきた少女の声のように昔聴いたではなく、最近よく聴く声だった。目を開けると赤銅色の髪が日光に反射し綺麗だった。


「ああ、おはようティナ。ここはどこ?」


「ここはテレジアの外です。今ガルシアスさんが地図を確認しているところですよ」


そうか助かったんだな。一安心していると疑問が生まれた。ガルシアス?いまティナはガルシアスがいると言ったか?


「すまん、俺の聞き間違えかもしれないんだが、ガルシアスいるの?」


「ええ、気絶しているあなたをこの馬車まで運んでくれて同行するそうです」


俺は増えすぎた情報を呑み込めずに頭を抱えた。まず情報整理からだ。作戦は成功したんだろう。そう信じよう。そして何故かガルシアスが同行していると。うーむ、いくら考えてもわからん。唸っていると外からガルシアスが見えた。


「やっと目が覚めたか。今は昼だぞ。ささ、ご飯と洒落込むぞ」


「まて、色々聞かせてくれ。なぜあんたがいるんだ」


ガルシアスは顎を擦りながら考え込んでいた。


「お前たちの同行人としてというのもあるが一番はお前たちと世界を回るためだ。前にも言ったが俺は3種族と混血の平和を願っている。そのために世界を周り見聞を広めるのがいいと思ってな」


「その願いが俺たちと旅をすることで叶うとでも?」

「わからない。だが実りのある旅になるだろうさ。さ、こんな話はやめだやめ。ご飯にするぞ」


「はい!今日も腕によりをかけました!」


いつ聞いても壮大で到達できないと思ってしまう理想だ。どうしてこの理想を掲げているのか不思議に思った。

昼食を食べ終わったらまた馬車を走らせた。行先は不明らしいがこのまま行けば2日で街に着くらしい。


「今向かっている街はどんな街なんですか?」


ティナが不思議そうに聞いた。


「カンレーヌ街といってな、Lエネルギー発電所があるんだ。そこで働く従業員を養うために作られた街なんだ」


カンレーヌ街。夢幻カンパニー直轄の街として知られている。夢幻はLエネルギーを様々な用途で使いアドラール大陸一の企業へと発展した。カンレーヌは夢幻設立初期に作られた街のひとつで多くの従業員が働いているため、多くの企業がこの街には集まっている。テレジア程ではないが活気のある街だ。しばらく青々とした景色が広がる。景色に和んでいると前方から動物の群れらしきものが見えた。牛か?狼か?ここからでは認識することができなかったが、異変があることは察知できた。認識できる距離に入ると、その動物たちはどす黒い色合いをし、体には無数の傷が見られた。


「前方から謎の生命体多数接近!馬車止めて!」


ガルシアスは急いで馬車を止め、俺は荒塊を装備して防衛の体制に入った。アイツらが何なのかはわからない。だがあの見た目と凶暴化してるであろう痕跡から襲ってくるに違いない。今の俺に剣はない。あの作戦以降武器の調達ができていないからだ。仕方なく、ヒートソードを展開し、防衛に入った。


「ティナ援護お願い。たぶんひとりじゃ捌ききれん!」

「わかりました!まだ起きたばかりですから無理はしないでください」


俺は手を挙げて応えた。近くでこの怪物たちを見ると恐怖感が俺に宿った。自分に立ちはだかるものは全て食らいつくすかのような勢いで突進してくるのだ。とにかく早い。これが野生というものかと思いつつ、一体一体仕留めていった。だが全部を相手するのは不可能に近い。ティナは援護と言っても殺すほどの質力は出さないし、何より剣が欲しい。剣さえあれば魔法と剣を使いながら有利に戦況を変えられる。これがありがたみというものなのか今の俺にはわからないが、いつもあるものの大切さは理解した。このままではカズの暴力によって全滅してしまう。ここはふたりだけでも逃がすか?そう考えているとどこからか銃声が聞こえた。銃声は連続して鳴り響く。恐らくマシンガンタイプのものだろう。辺りを見回すと空から聞こえてくることがわかった。刹那、雨のように弾丸が降りそそいだ。まさに鉄の雨と言うべきか正確に怪物たちに当たっていた。怪物に全弾命中し肉片が辺りに散らばった。咄嗟に回避行動を取り、蜂の巣にならなくて済んだが疑問が残った。なぜ空から弾丸が降ってきた?空を飛ぶ兵器でも開発された?それとも遠距離から拡散弾のようなものを撃っているのか?だが銃声は短く連発されていた。その時点で拡散弾はない。俺は目を凝らしながら空を見上げた。透き通る青の中に一瞬光りが見えた。その光は段々と騒音を立てながら俺に近づいた。本能が悟った。避けないとまずい!急いで横に避けると予想が的中したのか、蹴りの体制で人間が勢いよく落下してきた。銀髪のロングヘアに銀色のカチューシャのようでアンテナの着いた髪飾り。そしてラバースーツに下半身はゴツイ足回り。


「ち、避けられましたか。」


「あなたが飛んでいた人ですね?さっきはお助けしていただきありがとう。で、何者ですか?」


何よりも先に目に着いたものは腰に着いている2機のジェットエンジンだった。さっきまで飛んでいた分の余熱を逃がすためか廃熱機構が開き、白い煙が当たりを包み込んた。


「あなたに名乗る名はありません!」


早い!ジェットエンジンと太もも部分に着いたスラスターの加速によって素早い蹴りが飛んでくる。防御の体勢をとるが、虚しく加速力に負け、貫通された。


「ほう、防御をしましたか。人間みたいな言動、瞬発的防御。モンスターもここまできましたか。」


「あの、私たち、ただの人間なんですけど」


俺はティナの言葉に頷いた。モンスター?恐らくあの怪物のことだろうか。俺はヒートソードを振りかざし反撃をする。間合いは完璧だったはずなのに、ジェットエンジンの逆噴射によって避けられてしまった。


「普通の人間なら攻撃する前にまず対話では?」


「あんたが言うな!」


しかし、あのジェットは厄介だな。間合いに入れても避けられるし、こちらが防御しても即座に避けられる。厄介この上ない存在だ。


「では、ここで死んでいただきましょう」


少女はジェット噴射で間合いを一瞬で詰めた。攻撃は右ロウキック、避けれない攻撃じゃない!


「甘い!」


攻撃が空振ると同時にスラスターを噴射させ、また蹴りをかましてきた。崩れた体勢からの攻撃。予期せぬ攻撃に俺の反応は追いつくこともなく、攻撃を顔に食らった。


「一撃目を避けるとは。私は正直驚いています。普通のモンスターなら両方喰らっているというのに」


「そりゃ、普通のモンスターなら光栄だろうが、何度も言うが俺たちは普通の人間だ!」


攻撃を受けつつ俺はやつの足をカウンターとして蹴りあげる。だが攻撃先は足じゃない。狙うのは腰だ。アラクレを発動し事象の固定、そして解放。狙いを腰に集中。アラクレの能力は防御不可で回避をしても意味がない。蹴りあげた際崩れた少女の体勢は空中で跳ね上がった。だがジェットの噴射によって体勢は元に戻り、地面への激突を防いでいた。


「いたた……なんですか、今のは蹴り挙げられたと思ったら次は空中で見えない攻撃。その腕の幻式の仕業だと考えるのであれば、恐らく荒塊でしょうね。ならば反動があると予想」


荒塊を知っているだと?過去にあったことのある奴か傭兵団関係の人間か。謎が深まるばかりだ。そして顔と足がめちゃくちゃ痛い。相手はそこまで怯んでないように見える。


「あんた何者だ……」


「名前を聞くときは自分の名前から名乗ると習わなかったのですか?まぁ、いいでしょう。私はミホノ·アオガネ。夢幻カンパニー、カンレーヌ支部、空中戦闘可能型幻式開発部門所属。テストパイロットです」


夢幻カンパニーの社員!?確かにここの近くに夢幻の支社があると聞いていたが、そこの社員だと?そして空中戦闘可能型幻式というのはあの腰に着けたエンジンのことだろうか。


「その腰に着けているのが空中戦闘可能型か?」


「何故それを?まさか、他企業からのスパイ?」


ん?まて、この子は何を言っているんだ?自分で言っていた気がするが。


「自分で言ってなかったっけ?」


「はっ、またやってしまった。仕方ありません、あなたたちが人間だろうがモンスターだろうが死んでいただきます!」


む、無茶苦茶だ……なんだ、この子はアホの子なのか?そう思った矢先ミホノがターボ全快に蹴りを入れてきた。が、


「Lエネルギー残量0%。お腹減りました」


バタ……倒れた。燃料切れと空腹で倒れやがった。とりあえず、このままにしておいては可哀想だし、馬車で寝かせるか。


夜、夕食の用意をしていると馬車の中から寝ぼけたようにミホノが出てくる。


「おはよう。いや、こんばんわか。体は大丈夫?」


俺が挨拶をする眠たそうな目で俺を見た。


「はい、こんばんわ……最近、連続の出動で寝れな……は!あなたたちは!昼間の!」


彼女は重心をおとし、戦闘態勢に入った。


「待て待て、お嬢さん。こっちは戦うつもりはない。俺はガルシアス。こっちはゼフィスだ。どうかね、一緒に夕食でも。それとも空腹で尚且つ、幻式なしで戦うつもりか?」


彼女は舌打ちをした。数分後。食べる。よく食べる。人の何倍も食べる。どんだけ空腹だったんだと思うほど食べるのだ。


「モキュモキュ……おかわり!」


「あははよく食べる人ですね」


そう言い、笑いながらティナが空になったお椀にシチューをよそう。その顔はどこか満ち足りた顔で口角が上がっていた。表情は一切変えていない。だがその食いっぷりはこちらを空腹にさせるほど気持ちいい食べっぷりだった。


「俺たちが人間だってわかってくれた?」


「ごちそうさまでした。ええ、ごはんを分けてくれる人はいい人と相場が決まっています。」


どういう基準だよ。


「一つ質問していいかい?カンレーヌで何があった?」


ガルシアスは真剣な質問をした。確かに考えてみればそうだ。カンレーヌ方面から現れたモンスターの集団、それを駆除すべく来たミホノ。カンレーヌに何かあったに違いない。モンスターたちは一般的な動物の形をしていた。だが体色はどす黒く、凶暴化している。人為的なものとみて間違いはないだろう。


「それは……いえ、あなた方になら話しても問題ないでしょう。カンレーヌは発電所から漏れだしたLエネルギーの影響で、周辺で生息する生物をモンスターに変えてしまったのです」


Lエネルギーによる変化?Lエネルギーが作用してああなったとでもいうのか。なら俺たちが使っている幻式はどうなるんだ。そしたら俺だってモンスターに。


「Lエネルギーって有毒なんですか?」


ガルシアスとミホノは唖然とした。俺はその光景を見てぽかんとした。え?知らないの俺だけ?


「うーん。ゼフィス、まさか君はLエネルギーが便利な燃料と思っているのか?」


俺は首を縦に降った。そうするとガルシアスは大きくため息をついた。


「馬鹿なんですね」


「お前に言われたくないわ!」


「あの、私もそのエネルギーについて知らないです」


「まぁ、知らない人もいるだろうな。専門的なものだし。Lエネルギーは有毒な物質だ。それを俺たちは魔石から発せられる魔力とLエネルギーを打ち消し合わせることで綺麗な魔力を生み出している。綺麗な魔力で動いているのが幻式なわけだ」


なるほど、少しわかった気がする。魔力はそのままでは有害だがLエネルギーもそのままでは有害。だがふたつを組み合わせると有害同士がお互いを打ち消し合うということか。


「で、Lエネルギーは生体を、急激に変化させる。恐らくモンスターは変化の成れの果てということだろう」


「はい。なぜ漏れているのか、どこが故障しているのかはまだつきとめれていないのです。そのため、今は駆除を行うしかないのです」


「魔石を持った状態でなら多分変化は起こりませんよね?」


「ああ。だが魔石とエネルギーの強さにもよるな。」


いつも使っているものが危険なものだったとは。だが、これは見過ごせないな。このままでは人体に害を及ぼすかもしれない。さらに、生態系の急激な変化も起こすため、状況が悪化してしまう。


「毎日点検はしていたんだよな?」


「ええ、ですが何故かエネルギーが漏れ出す。私は何者かの反乱と見ています」


誰かの反乱か。モンスターの出現が意図的なものだとするならば首謀者は何を企んでいる?Lエネルギーは、重要な品のひとつで、抽出するには従業員が必要でその従業員たちを支える街も必要だ。デメリットしかない。ならなぜそんな行動をする?俺は燃える火を見ながら考え込んだ。

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