第12話静まり返った少女の街

カンレーヌに向けて馬車を走らせた。道中はモンスターに襲われることなく順調に旅を続けていた。


「そういや、ゼフィスが寝てた時に待ってとか行かないでくれとか言ってたがまさか女か?」


「いやいや、違うって。なんかこう故郷の夢というか、懐かしい夢でした。忘れちゃいけない人のはずなのに思い出せないんですよね」


「なんです、恋バナですか?あなたには縁がないものだと思ってましたが」


「違う!」


ミホノが割って入る。だが夢に出てきた少女が俺にとってどんな存在だったのかわからない。だが大切な存在だったというのは確実だろう。たぶん。快調に走る馬車。モンスターの総数がまだ少ないのかミホノの仲間が駆除しているおかげか今日のうちに着く気がした。


「なんで、なんでこんなに多いんだよォ!」


モンスターの数は10数体じゃない。数えただけでもあ20〜30体いる。剣がない分、ミホノが持っていたマシンガンを一丁借り、戦闘に参加した。ティナの幻式のおかげである程度は対応できている。しかし、慣れない武器で戦うことがこんなにも苦しいことだとは!一度、休憩のために後ろへ下がった。


「やはり慣れない武器は辛いですか」


「ああ。特に銃は使い勝手がな。いちいち弾切れになったら弾倉を切り替えないし、切り替える間に狙われる。なんとか接近戦はヒートソードで対応できているがキツイな」

ティナが心配そうに言った。俺は銃を使うのに慣れていない。いや、相性が悪いと言うべきか。癖のせいで戦いにくい。くそ、剣がほしい。


「ダガーならありますよ!」


ミホノは俺にダガーを投げた。それを受け取り、銃と入れ換えた。いつも通り近接戦を繰り広げられる。だが、重さがない。長さが足りない。近接戦ができるだけマシだが肝心なところまで刺さらないのが難点だ。ミホノのように体術で攻めるか。いや、慣れていない攻撃をするのはもっと危険だ。


「私が前で戦います。マシンガン返してもらってもいいですか!」


俺はミホノに向かってマシンガンを投げた。それをスラスターの機動で取り、宙を舞いながら乱射で次々と倒していった。彼女の幻式である『ツインターボ』は燃費がめちゃくちゃ悪い。メインにパックをひとつ、そして両ジェットエンジンに2つ必要なのだ。そのため、ジェットエンジンにはLエネルギー入れず、メインエンジンにのみエルエネルギーが入っている。空中からの攻撃はできないものの、スラスターを使った擬似飛行は可能だ。

勿論、スラスターの噴射と足技を併用した攻撃も可能だ。


「このままじゃ埒があきませんね。ならば見せてあげましょう私の必殺技を!」


そう告げるとモンスターの集団目がけて勢いよくジャンプした。


「必殺!」


スラスターでジャンプの飛距離を上げ、空中で蹴りの体勢に入る。踵と足先に着けた短剣が足裏に立つ。まるで鷹が獲物を捉えるために爪を立てるのように尖っていた。足に電気が帯びる。

「かーみーなーりー、キーック!」


「ネーミングー!」


技名を叫ぶと足から銀色のちりが展開され、足の帯びた電気を反射させ周りのモンスターに流れる。チャフだ。チャフは電波や電気を反射する。それを利用して強力な電気を反射させ広範囲攻撃を可能とさせたのだ。


「どうです!頭がいいように見えるでしょう!」


サムズアップをしながら決め顔で言った。普段の言葉とその言葉とネーミングがなければなければ頭がいいように見えるんだが。言動はアホの子のように見えるが恐らく頭がいいのは事実だろう。まぁその必殺技のおかげか敵は全滅し、戦闘を終わらせることができた。


「ミホノさん、ミホノさんの着けている空飛ぶ幻式はカンレーヌの兵士さん方はつけているんですか?」


「いいえ、これはまだ試作機なんです。この子は3世代機ですし、実験機だったものを無理やり使えるようにしただけですので」


試験機を無理やり使うほど追い込まれている。ということか。


「なぜ飛行機能をつけたんだ?」


「空からであれば索敵も簡単ですし何より攻撃を察知されにくいですからね。この幻式は3世代機ですから脳波でジェットとスラスターを操作してますから自由に舞えまし両手が開きますから両手で攻撃もできます」


空からの攻撃の利点と彼女の足技との応用があるため、戦闘では有利らしい。


到着した時はもう日が落ちかけていた。


「皆さん、ミホノ今帰りました」


「おお、ミホノ生きていたか!『ツインターボ』はどうした!」


「エンジントラブルはありません。やはり、エネルギー量に問題がありますね」


ミホノが門番と話している。門番は嬉しそうに話していたが、ミホノは悲しそうにしていた。門の先を見ると人がいなかった。


「あなたたちがミホノを助けてくださった方々ですね?ありがとうございます。とりあえず会社までご案内します」


会社まで案内される際街の様子を観察していた。街に人はいなかった。建物には光が灯っていた。なぜ外にでない。この街は活気があるはずだ。だが人が外に出ていない。時間の問題もあるかもしれないがそれでもおかしいと思う。夢幻に着くと数十人の社員が待っていた。


「ミホノおかえりー!」


「よく戻ってきた!」


「大丈夫か?怪我は?腹は空いてないか?」


「みなさん、お出迎えありがとうございます。私は無事ですし、お腹も空いていません。ミホノ·アオガネ、ただいま帰還しました」


恐らく空中戦闘可能型幻式開発部門の社員だろう。ミホノは報告書をまとめるために一度別れ、俺たちは別室に案内された。


「みなさん、ミホノを助けてくださってありがとうございます。あと、いきなり攻撃させてすみません。根はいい子なので許してやってください」


元からああなのね。


「質問いいか?俺たちはテレジアからこの街に向かうときモンスターの集団に出会った。ミホノの説明では発電所から漏れだしたLエネルギーによるものらしいがどういうことだ?」


ガルシアスは俺たちが気にしている問題を聞いた。


「ええ、被害は発電所からで間違いはないです。原因はわかっているのですがどこから漏れだしているかわからず、発電所に近づこうにもモンスターたちに阻まれ対処できていないのです。」


恐らく街の人々はモンスターを恐れ立てこもっているのだろう。


「そこであなたたちにお願いしたいことがあります。どうか、発電所の異常を止めてきていただきたい」

俺の思考は完全にその言葉で止まっていた。隣のティナも顔色をひとつ変えていなかったがついていけてない感じがしていた。確かに見過ごせないと思った。しかし、俺たちを頼る理由がわからない。


「あなた方は数十体のモンスターを倒したとミホノから聞きました。その実績からのお願いです。報酬はいくらでも出します!どうか、どうかぁ……」


「ちょ、頭をあげてください。急に言われても困ります」


ティナが応答をした。ティナの言葉通り俺たちには無理な頼みだ。出くわしたほとんどのモンスターはミホノが駆除したわけで、俺たちだけでは死んでいた。


「どうする。俺とゼフィスならともかく、ティルナシアには危険だと思うが」


「いや、俺も危険でしょうが」


俺は悩んだ。モンスターの強さ、発電所内での戦闘の危険があるため安易に答えることはできない。受けなかったとしてこの街だけでなく近隣の国にも被害が及ぶ可能性だって有り得るだろう。


「ゼフィス、私はこの以来受けるべきだと思います」

ティルナシアは真剣な顔でそう言った。なぜ?さっきまではムリだと言っていたはずなのに。


「私はこの街の問題を見過ごしたくありません!」


「ああ、俺も同意見だ。このままではモンスターは増える一方。選択権はお前に任せる。」


ガルシアスまで。この時、ベルゼハード団長ならどう答えるか。いや、団長ならじゃない。俺自身が決めなければいけないことだ。


「わかりました。その依頼お受けします」


「ありがとうございます。ありがとうございます!」


決めた理由は二人の意見を聞いたからだけではない。周りに及ぶ被害を考えたからだ。なにより、この街の活気を戻したい。外に出ず、ただ家にひきこもり怯える日々。友人や仕事仲間に合わない日々を送り、命の危機に脅える日々は苦痛だ。

話が終わり、ミホノと合流した。その顔は少し柔らかくはなったものの、まだ不安が残る顔だった。


「お受けしてくださりありがとうございます」


「別に構わない。で、そんな暗い顔をしてどうした?」

ミホノは驚いた顔をした。なぜ?と言いたそうな顔をした。見ればわかるさ。


「街の人や同僚が無事だったことに安心はしていたのですが、皆さん家に籠ってしまっている現状にやるせなさを感じているんです」


やるせなさか。街を守っていたからこその感情なのだろう。自分が街から離れた間に街の景色や活気が変わる。しかも悪い方向にだ。俺だって村が焼けた時は……


「お前も一緒に来ないか?」


「え?」


自然と出た言葉だった。俺の故郷はもう帰ってこない。友人や隣人、両親だってあの少女だって。だがミホノの故郷はまだ間に合う。だからこそ、そんな顔はしてほしくない。


「発電所の原因さえ何とかすればこの街は、お前の街は助かるんだ。なら一緒に来てほしい。俺たちだけじゃ無理だ。だがモンスターに慣れているお前ならきっと止められる」


「ええ、来てくださいミホノさん。私はあなたやゼフィスみたいに前線では戦えません。もしかしたら足手まといになってしまいます。ですがあなたは強い。だから私からもお願いです。一緒に行きましょう」


「そうだな。戦力は多いに越したことはない。しかも発電所を歩くなら夢幻の人間が必要だ」


「みなさん。わかりました。ミホノ·アオガネ、これより皆さんと同行します!」

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