第9話混沌(ルイス視点)
私とティルナシアさんは王が眠る寝室へ向かった。寝室に続く道には多数の魔道具が設置されており、切り抜けるのが困難だった。だがティルナシアさんのビットが全て破壊し尽くした。白に侵入した時も思ったが彼女の魔力は尋常じゃない。ビットを遠くまで飛ばすことや数百個の魔道具を壊し続けていることから魔力量は尋常じゃない。彼女の幻式のエネルギー量が多いのか疑問だが今は王を助けることを考えなくては。
「もうすぐです!ティルナシアさん。体力的に大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ大丈夫です。まだ戦えます」
明らかに疲れていた。ここからは私が頑張らなくては。寝室前に着くと2人の傭兵が立っていた。
「その甲冑にその顔、貴様がルイスだな」
「名も知れぬ傭兵よ、ここを通していただきたい」
「おおっと、それはできない。こちとら仕事できてんだ通してしまえば契約違反だろ!」
いきなり斬りかかってきた。私は素早く抜剣し防御した。剣筋がいい。恐らくエントランスにいた傭兵団の中でも腕利きの兵だろう。武装はサーベルと幻式か。恐らく幻式は第1世代だろう。ゼフィスさんのような第2世代を極限まで軽くしていれば第2世代かもしれないが幻式をいじった痕跡が見あたらない。彼のような近接型が使う兵装は第1世代と決まっている。私が使っている幻式も第1世代のため一安心している。第2世代が相手では部が悪すぎるからだ。彼らの防御は厚かったが俺の部下ほどの防御ではない。サーベルを持った腕を二の腕から切り飛ばし防御が手薄になったところでトドメを刺しに行った。兵士は無属性魔法で応戦してきたため、私も無属性魔法で打ち消しに行った。私の刃が首元を切り飛ばす。その光景を見てもう1人の兵士は立ちすくんだ。私は殺した兵士のサーベルを投げつけ無力化した。ティルナシアさんの方を見ると彼女は目を手で覆い隠していた。
「大丈夫ですか?」
「私、人が死ぬのを見るのが嫌で」
さすがに腕を切り落としたりサーベルを投げて殺すのはやばかったか……
「目を開けずに私の手をとって歩いてください。寝室内までエスコートしますので」
そう言うと彼女は手を掴んだ。なるべく血の上を歩かせないように進んだ。寝室に入ると王の眠る姿が見えた。
「エルドラ王!」
私は王の元へ駆け寄った。王は衰弱していた。このままでは危ない。私はデルクーイ師匠から渡されたポーションを王に飲ませた。
「貴殿は……ルイスであるか……」
「はい、ルイスにございます。王よ、そのままご安静に。今、第一王子の反乱を抑えるべくデルクーイとその仲間が動いています」
「あのデルクーイがか。儂はあやつに何度助けられればいいのやら」
私と王が話をしているともう一人部屋に入ってきた。その男の顔はけして忘れることはない、この国を貶めた商人だった。
「おやおや、エルドラ王お目覚めになられましたか。そこにいらっしゃるお方はルイス兵長殿では無いですか。初めまして私メイレストと申します」
メイレストと名乗る男は深深とお辞儀をしたあとお辞儀をしたあと不気味な笑みを浮かべた。
「なぜ商人がここにいる。いや、聞かなくてもいいですね。なぜあなたはザイン第一王子とともにこの国を貶めた!」
メイレストは考え込んだ仕草をした後疑問を持った顔をした。
「私はこの国を貶めた覚えはありませんねぇ。私はザイン王子の願いを手っ取り早く叶えただけですが。」
悪意がない。この男には悪意がないのだ。
「では、なぜ王に毒を盛った」
「王子の計画に邪魔だったからです。彼が生きていてはいくら経っても違法魔道具をこの国で商品展開できませんから」
私の怒りは臨界点を突破し、距離を速攻で詰め剣を振りかざす。その攻撃は奴の短刀で難なく防がれてしまった。
「おやおや危ないですねぇ。ま、防げない攻撃ではない。とだけ言わせてもらいましょうか。怒りに呑まれた人間ほど単純な生き物はいませんからね」
俺にその言葉は届かなかった。力任せに剣を振るい続けた。この男を生かしてはいけない。この男に笑顔をさせてはいけない!切ると言うより殴ように、叩きつけるように剣を振っていた。攻撃は一度右脇腹にあたりはしたものの、ほかの攻撃はするりするりと避けられ距離をとられてしまった。
「はぁ、あなたはつまらない。デルクーイ殿が兵長だった方がもう少し楽しめたかもですね」
メイレストは短刀は私を真っ直ぐに刺殺しにきた。動きは素早く回避が不可能だった。
「危ない!守って『銀の翼』達!」
その声は優しさと勢いに溢れた声だった。その言葉に応じるかのように3機のビットは俺の目の前で三角形の魔力で形成したバリアを形成し、短刀を受け止めた。バリアの光はピンク色に発光していた。その光を見た俺は落ち着きを取り戻した。剣は何度も殴り付けるような攻撃のせいで刃こぼれを起こしていた。
「冷静になれとは言いません。私もこの男には苛立ちを隠しきれません。ですがこの男の言葉に惑わされないでください。あなたはこの国を元の形に戻すために立ち上がった騎士でしょう!ならばその怒りを貴方の剣に乗せてください!」
その声は力強いものだった。この身を奮い立たせるほど強い力だった。腹の底からの声というわけではない。どちらかというと震えているようだった。戦いを好まない少女の声だった。
「ありがとう、ティルナシアさん。あなたのおかげで吹っ切れました私はこの怒りを奴にぶつけきってみせましょう!」
「話は終わりましたか。では、もう一度あなたの命を頂きましょう」
私はもう一度攻撃を試みた。剣の振るい方を1から確認しデルクーイ師匠に教えてもらったことを思い出しながら攻撃した。攻撃は避けられ続けた。だが攻撃を避ける姿は必死なように見えた。私の実力は低くない!
「冷静さを取り戻しましたか。まぁいいです。私にはまだ手があるのでね!」
そういうと煙幕をはられ晴れた頃にはそこにメイレストはいなくなっていた。どこに行ったか俺は探した。ドアは開けられており、廊下には血が一直線に続いていた。
血をたどって行くと城のエントランス辿り着いた。
「ち、皆さん使えませんねぇ。大金はたいて雇ったというのに!」
「メイレスト!お前を国王暗殺と、違法魔道具持ち込みで逮捕する!」
「やれるものならやってみなさい!」
私は兵士たちから弾いた剣を持ち二刀流の構えを取った。1発1発の威力や防御は下がるが奴の動きを捉えるためには一撃ではなく連撃が必要だ。
「はぁ、冷静なあなた相手には短剣1本では心許ない」
そういいながら2本目の短剣を取り出し斬りかかってきた。2本の短剣は性格に俺の関節部を狙ってくる。連撃は素早く防御に手一杯だった。何度か攻撃のチャンスが生まれるも素早い身のこなせいで当たらない。
「援護します!」
ティルナシアさんの援護のおかげでヤツの連撃は弱まり攻撃を与えるスキが生まれつつあった。
「ち、あなた相手は本当に骨が折れますね。あそこで決めきれていたら良かった!」
奴は左手に持った短剣を何故か真上に投げた。その隙を見逃さず、私は奴の体をやっと捉えた。剣は右肩から勢いよく切り込んだ。
「ははは……ここまでとは。ですが私は寂しがり屋でね。ひとりで……死ぬのは嫌なんです。だからあなたに付き添い人となってもらいましょう」
何を言っているんだ。私の剣は死に至る域まで達していない。私は真上を見上げた。メイレストの投げた短剣はシャンデリアの鎖を壊し、シャンデリアを落下させていた。メイレストは私の剣を離さず、私の足に短剣を刺し動きを封じた。ああ、これで終わりか。
「ルイスさん危ない!ファレイク!」
ティルナシアさんは中型魔法を使ったようだ。無駄だ。いくら魔法でもあのシャンデリアを壊すことはできない。そう思っていた。火球は人間が幻式放つ火球よりも大きかった。シャンデリアは火球によって破壊された。なぜ、あんなにも大きい火球を撃てたのか不思議に思い彼女の方を見た。彼女は青く光る石をつけた杖を持っていた。まさか、そんなはずはない。人間が、人間が魔法の杖を扱えるはずがない!
「ティルナシアさん。あなたは一体……」
「この杖を見られてしまってはもう嘘はつけませんね私は……人間と精霊の混血なんです」
その言葉を聞いた私は耳を疑った。彼女が混血?そんなはずはない。だって彼女は紅色の紙をしていたはずだ。それに耳だって人間のような……私は理解した。ビットを長距離、長時間飛ばしながら攻撃もできる魔力量、彼女の黄金の目、中途半端に尖った耳、そして魔法の杖が使えること。嘘ではない、彼女は混血なのだ。殺さなくては。混血である以上存在自体が悪だ。生かしておけば世界に最悪をもたらす存在だ。生かしてしまっては……私は彼女を刺し殺そうとした。しかし、腕が動かなかった。けして怪我や疲れではなかった。助けてもらったこと、私の目を怒りから覚ましてくれたこと。それが俺の手を引っ張り続けた。殺さないといけないのに、悪魔だと言われているのに。俺は殺せなかった。疑問が生まれてしまったのだ。悪魔だと教えられた存在が俺を助けてくれた。本当に悪魔なのか。殺さなくてはいけないのか。わからなくなった。常識と感情が入り乱れた。
「殺さないのですか」
「…れ」
「去れ、悪魔。私の目の前から去れ。私にあなたの命を奪わせないでくれ」
なぜこのようなことを言ったのかわからなかった。命の恩人に悪魔と言ってしまったこと。悪魔を逃してしまったこと。あれ?なぜ私は悪魔と……
「わかりました」
彼女は王の間へ向かった。多分ゼフィスさんを迎えに行ったのだろう。メイレストを担ぎながら私は体を揺らしながら城を出た。外に出た後青い照明弾を空に撃った。空を見上げれば赤い照明弾も上がっていた。見上げたあと真っ直ぐにデルクーイ師匠の元へ向かった。
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