第8話アラクレ

アラクレ、解放。紅い光を発し始めた瞬間、俺はザインめがけ走り出す。構えも一切なく剣を納刀し、両手を自由にして走った。攻撃を避けつつどれだけ能力を使わずにザインに近づけるかが重要になる。


「策もなく俺様に突っ込むだと?舐めておるのか!」


舐めるはずないだろ。これは俺が勝つ布石のひとつなのだから。左右からはヴリトラとDINOSAURの剣撃が襲いかかってきたが五体を上手いこと使い回避に徹しし続けた。残り4mというところでザインが動きに慣れたのか回避と同時にヴリトラを振るう。これは能力なしでは回避不可能だ。ここで能力を発動するとしよう。剣が俺に触れた瞬間、


「アラクレ!」


と、叫ぶと共に俺の体はヴリトラの真上に移動し回避に成功した。


「瞬間移動がお前の幻式の力か!」


「そうだ!」


違う。そんな単純なものじゃない。この攻撃を回避すると難なく拳が届く距離に入った。俺は拳を思い切り握り、恨み辛みを込めた。


「ここからは俺の反撃だ!」


俺はザインの顔めがけジャブを繰り出した。もちろんヤツは顔で防御の体勢をとった。攻撃が当たる瞬間、彼の顔は逆サイドから殴られたように顔の筋肉を皺くちゃにふるわせた。


「なにぃ!」


続いてアッパー。もちろん防御をしてくるだろう。しかし防御虚しくブロックの内側から殴られたような顔をした。見えない攻撃によって王子は当たりを見回すほど焦っていた。


「貴様ァ、何をしたァ!」


「種明かしをしましょうか。荒塊の真の能力は事象の固定です」


事象の固定。俺の行動、攻撃したという事象を固定し、好きなタイミングで解放する。この事象は対象に触れさえいればどこにでも発動する事ができ、さっきのジャブやアッパーのように相手に攻撃する方向、防御の内外関係なく攻撃することができる。 俺の言葉を聞いた王子は唖然とした。そんなことお構いなしに俺はアラクレを絡めながらの連続攻撃を行った。ほぼ全ての攻撃がクリーンヒットし、王子の立つ姿はよなよなしかった。


「防御も無意味なこの攻撃。降参なさるなら今のうちですよ」


「たわけぇ!貴様なんぞに降参などするか!」


ちっ、長引かせたくないんだ。できればこの能力を公開して絶望フェイスで降参してほしかったのだが。この能力には致命的な欠点がある。それは固定した事象を発動する際、固定した事象を使う部位や武器に反動が帰ってくるのだ。正直めちゃくちゃ腕が痛い。骨が軋む感覚が連続して流れる。しかも連続攻撃や特定の部位を狙う攻撃が複雑で、ピンポイントであればあるほど反動は強くなりLエネルギーの消費も大きくなる。つまり内臓を狙おうものなら腕が吹き飛ぶほどの反動が帰ってくるのだ。そのため長期戦や乱用をすれば不利になりやすい。便利ではあるが同時に自分に反動が帰ってくる諸刃の剣なのだ。再び距離をとられるとヴリトラによる攻撃と幻式の魔法攻撃を繰り出される。見た限り全て小型魔法で簡単に防ぐことが出来るが数が多くヴリトラを見ながらの防御は少々きつい。ここは少しの反動が大きくとも剣の対処をするべきだな。俺はヴリトラの剣先を思い切り殴った。アラクレに距離は関係ない。どんなに離れていたとしても攻撃した物質が続いて入れさえすればどこにでも攻撃できる。。ヴリトラの場合刀身が伸びているため、剣のあらゆる部位に攻撃することができる。狙うはグリップ全体だ。距離が離れればその分反動は大きくなるし場所も明確にしているため反動は更に大きく、声を上げてでも痛みを叫びたかった。顔に出すな悟られるな。相手にこの力の代償を匂わせるな!強打したという事象はグリップに発動し、その痛みが原因かザインは剣を手放す。俺はその隙を見逃さず、すぐさま無属性魔法で落ちた剣を吹き飛ばした。


「くそ、おのれ下民がァ!」


DINOSAURを鎖のように伸ばすが俺はその攻撃を避け、もう一度近づいた。次は剣で攻撃するとしよう。


「さて、剣で攻撃すればどうなるでしょう」


俺の攻撃に対して彼は幻式で防御を試みた。これを待っていたんだ!俺は斬ったという事象を固定し幻式の心臓とも言える魔石に攻撃を集中させた。そうすると幻式は活動を停止し、ザインの肩から勢いよく落ちた。全ての攻撃手段を失った王子は何度も殴ったことのあるような拳で俺に襲いかかってきた。最後に信じるは己の拳ということだろうか。それともただがむしゃらに攻撃をしかけてきただけだろうか。俺は拳をつかみ関節を逆の方向へ曲げた。腕は普段曲がらない方向へ曲がり、王子は言葉にならない悲鳴をあげた。その声はアラクレによる攻撃によるものでも幻式を破壊されたことでもない、あらゆる手段を試してもかなわないという心の芯が完全にへし折れた声だった。これに関してはやりすぎと言われるだろう。だがこれは俺の個人的な恨みだった。


「さ、降参を」


「や、やめろォ!わかった俺の配下にしてやる。騎士団の兵長にだってならせてやる。それだけじゃ不満なら貴族の地位をやることを約束する!か、金だっていくらでも出す!だから頼む!」


「なるほど、それはいい条件だ。俺以外の奴ならな」


ザインを気絶させ、身につけていた布と幻式の部品で折った腕を固定した後、手足を縛り付けたあと宝玉を探した。


「これか」


これが怠惰の宝玉。薄紫色に光るその玉は不気味さを醸し出していた。俺は勢いよく殴り破壊した。そうすると宝玉ないから光が発した。多分これで怠惰の効果と制約はなくなっただろう。そうすると俺の剣は切っ先から崩壊を始めた。幻式の魔石をピンポイントで狙ったんだ、崩壊してしまうのも無理はない。ありがとう。無理させてごめんな。俺は剣の崩壊を見届けた後俺はアラクレの反動で砕け散りそうな身体にムチを打ち、ベランダに向かった。成る可く街が見渡せるところの方がいいな。ベランダに到着するとデルクから渡された照明弾を空に向けて撃った。光は真っ直ぐに空へ上がり星々と同じように光った。それを見届けると体を支えるために入れた力は一瞬にして抜けきりその場に倒れ込んだ。しばらくこのままだな。目に見えるものはいく千もの星々と光り続ける照明弾だけだった。まるでこの国を覆い尽くした鍍金を照らし出すように。

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