第20話 ネタバレ

 今、この普通の牧場に世界の上位者が複数揃うと言う奇跡が起きていた。


 その中でも運命の魔女の魔法は、高いを誇っている。

 この優先度とは何か、それは言うならば世界にその能力が好かれているかの指標である。


 矛盾で例えると解りやすい。

 何でも貫く矛と何でも防ぐ盾、普通はぶつかれば何も起きないが正しい。しかし優先度の違いで結果が変わるのだ。


 その者の持つ矛の方が高い優先度であれば盾を貫け、その者が持つ盾の方が高い優先度であれば矛を防げる。そう言うことである。


 異能者たちの能力にも同じことが言え、例えば茶柱香。彼女の感応能力は相手の感覚や気持ちを共有できる、がしかしそれを防ぐ能力もある。どちらが優先されるか、それはその者の実力では無く、根本的な能力の優先度で決まる。

 茶柱香は大して強く無いが、彼女の能力自体は似た系統の者たちと比較してもかなり高い優先度を持っている。故に大概の者と感応してしまい、結果空気の読めないガールが誕生してしまう訳である。


 運命の魔女は自身が持つ力が、とてつもない優先度であることを知っている。

 

 実際彼女は大概の者の運命や運を操れる。


 しかしここでその優先度を上回る異能者が現れた。

 その者こそ『通りすがりの一般人』だ。


 彼は自分が異能者であると知らない、他者も彼の能力を知らない。


 彼の能力、それは『他人の不幸を吸い取り、自身はその倍不幸になる。吸い取られた者は幸運に見舞われる』と言うものだ。系統で言うと運命操作系で、運命の魔女と同系統の力だ。


 ここまで彼は不幸だった。

 彼女が出来れば寝取られ、両親は死に、意味わからない連中に巻き込まれ、こければ誰かにぶつかり、旅行に行ったらクーデターに巻き込まれ、漫喫で自慰に耽っていたらグラビアアイドルが間違って入ってきて驚いて顔射したりなど。


 この力の優先度は世界で一番高いものだった。

 

 高校に入ってからは天元突破な不運だ。


 新聞部に強制的に入部させられ、そこでたくさんの不運不幸を吸い取った。

 

 金井サオの溜まりに溜まった不幸を吸い取り、彼女にとって最大の幸運である父の救出が運良くなされた。

 黒野真咲のドジっ子不運を吸い取り、彼女の作戦を成功させた。

 

 茶柱香の場合は彼女の周りに効果をもたらした。

 青姦カップルが気付かれずに青姦を為し、女日照りのホームレスが茶柱ほどの美女と事を為し、吸い取った不運を感応してしまい不幸になった茶柱。


 そしてこの場でもそれが起きていた。


 先ず茶柱の不幸を吸い取ってしまい、このような糞状況に巻き込まれた。


 黒野真咲と金井サオの不幸は運命の魔女のせいで、とんでもないレベルにまで達していた。それを吸い取った彼は、あり得ないほどの不幸になった。歩けば簡単に死んでしまいかねないほどに。


 しかしここで運命は悪戯をした。


 運命の魔女の運命操作で運が反転現象が起きていた。その結果、彼はあり得ないほどの幸運を手に入れたのだ。普通なら起きない奇跡だが、彼の能力の優先度の高さが起こした奇跡だった。


 歩き出せば買ったばかりの靴が壊れ、転んだと思ったら無敵の魔女を撃退した。

 彼女の力は一見無敵に思える、実際そうだろう。しかし実は身体に向かってくる物を反転させる力と自身が触れた物を反転させる力は別なのだ。


 切り替える一瞬、コンマ何秒の間だけ能力が反映されない時間がある。これは彼女自身すら知らない、狙っては絶対に無理な隙だ。

 その一瞬の隙を彼の踵がさく裂したのだ。


 こんな冗談みたいなことで、彼は世界の上位者たちをひれ伏せさせた。


 実は運命の魔女が能力を解除すればいいだけである。そうすれば彼は不幸のまま死んでいくだろう。

 しかし能力を発動してこれなら、解除したら……そう考えざるを得ない彼女には解除の選択肢なんぞ無い。




 彼にとっての最大の不幸とは何なのか。

 先ず高校に入ってからの不幸は、超地雷女に好かれてしまったことだろう。


『超束縛系地雷女、金井サオ』

『超どM系地雷女、黒野真咲』

『超ど変態地雷女、茶柱香』

『人妻、金井母』


 もうすでにこれである。


 そしてこれ以上は一つしかない。誰も彼の前で『見た瞬間に否定材料が無いほどの異能を見せない』ことである。

 タネや仕掛けがあるのでは? ただの手品やんけ、言ってるだけ、そんなふうにしか思えない物しか見せていない。


 異能者は自分の能力を簡単には見せない、彼は世界でトップクラスの異能者であると言う勘違い、この二つが合わさってこういった状況になっていた。


 もし本当に異能があると、彼女たちが異能者だと気が付けば彼は誤解を解いて謝って距離を取るだろう。そうすれば――。


 彼は間違いなく、このまま行けば高校卒業までは生きられない。


 でも良いのかもしれない。


「タク!!」「たっくん!!」

 美少女二人に抱き着かれる彼を見たら、誰だってそう思うだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る