第19話 厨二ごっこはほどほどに
「腹痛えからトイレ行ってくるわ」
俺はサオに言ってトイレに向かった。休憩スペースで真咲と香が姦しく喚いている。
「く……あの牛乳が中ったか」
搾りたて、美味しいよ! って広告に騙されたか。
ぐぎゅるるると暴れる腹を押えて個室で踏ん張っていた。
「ふええんんん……」
な、なんだ!? 声もそうだが、俺の音すら生易しく聴こえるほどのやべえ音が聴こえてくるんだが。こいつも中ったか?
てか……この声。
「おまえ、香か?」
「ふえ? そ、そうでしゅ……」
「な、なんで男子トイレに?」
薄い壁を隔てて、会話する俺たち(どっちも腹下し中)。
「え、えとえとですね……」
干支?
「ピンチなんです、ううう……」
その音聴けば解るよ。
だったら尚の事女子トイレ行けや。
「真咲ちゃんたちが大ピンチなんです、うう、助けてあげてほしいんです」
あいつらも腹下したのか。
俺にはスカ〇ロの趣味は無いから、できれば勘弁願いたいが。
「敵が来て……でもでも、うう、私が、う……居ても何も、うううう」
バイブか何かなのかこいつは?
しかし敵ね……便意の事では無いとしたら、紫藤会長みたいな別系統の厨二病連中にいちゃもんでも付けられたか?
「解った……俺が行こう」
「タクさん! 何もできない私の代わりにお願いします!!」
俺はケツを拭きながら思う。
(タクって俺の事?)
牧場を歩いていると、人の気配がしなかった。
他の生徒たちはどこに行ったんだ? トイレ中に別の場所に行ってしまったのか?
いつの間にか空は暗くなり(紫っぽい)、霧が立ち込めていた。
肌寒い、空気が悪い。
とかなんとか思っていたら、目の前にいきなり真咲たちが現れた。
(え? 上ばっかり見てたから気づかなかったわ……)
どういう状況だこれ?
真咲が女の子座りでへたり込み、サオが全身包帯ウーマンにマウントを取られている。ウーマンの背中で顔などが見えない。
そして十数メートルほど離れたところで、美女二人が俺と真咲を見ている。
どちらも外国人なのは分かる。正直言って真咲よりも美人だ。胸だって香以上だし腰のクビレも美しい。脚が長くてお尻のラインも完璧。これが白人のポテンシャルか……どう足掻いても勝てねえな。
彼女たちは何やらグダグダ言っているが、一つ分かるのはこいつらが痛い系の厨二病であるってことだ。格好も悪の女幹部みたいだし。
しかし来るのが早すぎた……もう少しで真咲の痴態が拝めたのに。
どうやらヤンキーっぽい女が向かってくるようだ。なら俺も向かわねば。最近買ったばかりの運動靴が火を噴くぜ!
久しぶりに厨二病の血が騒いだのか、俺のテンションは振り切っている。
こんなエキストラを雇ってまで遊ぶとは……恐れ入った。
真咲やサオが金持ちなのは知っていたし、香はお金の稼ぎ方を解っているだろうし。金の掛け方が天元突破だ。
俺は二、三歩踏み出した瞬間に、靴の紐が思いっきり千切れて前のめりに倒れた。
(すげー俺今一回転したよ!?)
しかし、高かったのに一瞬で壊れやがってこの糞靴が。サオの母親に買ってもらったのに。……これって逆援交なのでは?
ムカついた俺は靴を見ながら言った。
「思ったより脆かったな」
「「「!?」」」
なんか三人が驚愕している。
しかもいつの間にかヤンキー女が鼻血を垂らして、青ざめている。
なんかもう一人の女が叫んでいる。なんか俺の指して言ってるわ。
「魔法が――」
やべー奴だったわ。魔法とか……サオとか紫藤系列の厨二かよ。
思わず素でつっこんでしまった。
どうしよう……せっかくみんなで厨二病ごっこ中だったのに、俺の空気読めない素のツッコミで場が白けちまった。
せっかく金を掛けた真咲たちにも、来てくれたエキストラのお姉さんたちにも失礼だったか。なんとかしなくては、香も俺なら何とかできると踏んでここに寄こしたのだろうし。
そのときふと、マウント(され)ガールとマウント(する)ガールを見た。
なんか右手を押えている。これはまさか……おいおい、そのネタで行くのか!? この状況で!? ありがてえ、挽回のチャンスをくれたってことか。
右手に宿る力ってのはお約束だよな。
「くっ……右目が……」
俺は敢えて右目を押えた。
「まだ、何かするつもりなの……?」
「や、やめて……私は、もう……」
美人なお姉さん二人が驚愕している。いい演技だ。
ヤンキーねーさんが急にキャラチェンしてるのが気になるが。
「行きなさいタク! 貴方の力を魅せて!!!」
迫真の演技。
だからタクって俺のこと?
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