第18話 最強の布陣

 彼女たちは最強の布陣だ。

 運命の魔女の運命操作による敵への妨害、接近戦最強の死線、最強無敵の存在である無敵の魔女。三人に敵うはずもない、闇の勢力で最も勢いのあるチームだ。


 彼女たちが光の勢力でも末端である新聞部に狙いを定めたのも、奴らに『通りすがりの一般人』が居ると噂されていたからだ。

 三人ならあの男にも勝てる、そう確信していた。


 結界内では絶対的に自分たちが優勢。更に運命の魔女による魔法は、

 死線は呪いの力で獣の特徴を有している。


 そして無敵の魔女は正しく無敵。反転系という系統の異能者で、その魔法使いの中で最も強いのだ。自身に向かう攻撃はすべて跳ね返し、自身が触れた物は内側から外側に弾け飛ぶ。


「まったく空気が読めねーなぁ一般人よお? こっからそこの雌豚が全裸で土下座して、男どもに腰振って牛豚に媚び諂う楽しい宴が始まるってのによぉ!」

 両腕を広げてあざ笑う無敵の魔女。


「それは残念だ。もう少し遅く来るべきだった」

「何言ってるの!? 私のピンチだったのよ!?」

「――見たかった」

「アホ! どんな性癖してんのよ!?」

 イチャつく二人。


「まあ、いいぜ? こっからお前を殺して、始めっからなあ!」

「うふふふふ、私たち二人に勝てるかしら?」


 運命の魔女によりこの空間内でになった。

 サオが魔法を使えなかったのも運が悪く魔力が暴発したためだ。この空間内では運が悪く攻撃が発動しなくなる。


 真咲の運が最悪になっている。


「――じゃあ、死ねや!」

 無敵の魔女が踏み込んで、一気に距離を詰めてきた。

 そして一般人も踏み出した。


「――ぷべ! ぐふっ、がはっ」

 何が起きたのか、無敵の魔女が途中で何かにぶつかったかのように後方に吹き飛んだ。


 倒れ込み鼻血が出て、無敵の魔女は手で拭い、血の付いた手をまじまじと見る。彼女の少し前には下を向き、「思っていたより脆かったな」と言う一般人がいた。


 彼の靴の踵部分には彼女の鼻血が付いていた。つまり彼女の顔面を逆サマーソルトキックの要領で蹴ったのだ。


「血? 俺が――私が……血? いや、いやああああ!!」

「ヴィリ! 落ち着きなさい!!」

 彼女にとって病気などによる内部の痛みは経験があった。しかし外部の痛みは生まれて初めての経験だった。


 あまりのショックに本来の弱い心が出てしまった。


「脆かった……ですって? 見抜いていたの、彼女の心の弱さを」

 無敵の魔女を支えながら下を向く一般人に問いかける。


 何かを考えるようにした後、一般人は彼女たちを見る――見下す。


「心が弱いから、力を持ったんだろ?」

「――!? そう、そうね……その通りだわ」


 弱いからこそ、こんな力がヴィリに宿ったのだろう。無敵の力が。


「でも、私は弱く無いわ!! 神の魔弾ディスダイン・バレット

 指を鉄砲の様に構え、魔法を放とうとした。が――。


「なぜ……なぜ魔法が出ないの!?」


「出る訳ねーだろ。アホか?」

 それはまるで、俺の前で好きに魔法が放てるわけ無いだろ? と言われている様だった。


「あ、そうそう。あれどうするん?」

 一般人が指す方向を見る。


 そこには顔が弾け飛んだサオと、右手を押えて涙ぐむ死線がいた。


「ど、どうしたの死線!?」

「ミギテガ――イタイ!!!」

 何をしたのか解らない、だから怖い。彼は何も動いていない、やったのはヴィリを迎撃したくらいだろう。なのになぜ死線が。


 運命の魔女は魔法が出ず、無敵の魔女は心が一撃でやられた。死線も謎の攻撃で右手を封じられた。たった一瞬の攻防で、世界でトップクラスの者たちが無力化された。


「――これが……通りすがりの一般人……そんな……」

 運命の魔女の心すら、折れる音がした。

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