第17話 20本の指
茶柱へのセクハラと一般モブへのセクハラでストレスを解消した新聞部一同。彼らは牧場の休憩スペースで自販機で買った飲み物を飲んでいた。
「あれ、彼は?」
真咲は辺りを見渡すが、さっきまで缶コーヒーを飲んでいた男が居なくなっていた。
「なんかトイレだって! ヌイてくるんじゃない?」
「ふんっ、香のお尻ごときでヌクわけないでしょ」
「ふええ、失礼だよぉ……私のお尻は真咲ちゃんやサオちゃんよりエロいよぉ」
「「ああ”!?」」
仲が良いのか悪いのか、本音をぶちまける。
言い合っていた彼女たちであったが、急に違和感に襲われた。
「こ、これって!?」
「うん! 間違いないよ、結界だぁ!!」
「私はさっきのせいでお尻が決壊しそうなんだけどぉ……」
辺りは青紫色の煙に覆われ、人の気配が消えた。
この牧場のすべてを囲う結界ができ、彼女たちは冷や汗を流す。
「取りあえず出るわよ!」
真咲の号令の下、三人は建物の外に出た。
外に出た彼女たちが空を見上げる。そこには紫の雲が覆う、不安を煽る空が見下ろしていた。
「――サオ、どんな結界?」
サオは魔力を纏い、この空間がどういった効果を及ぼしているかを探っている。
「恐らくは闇の勢力の力を上げて、光の勢力の力を下げる効果かな?」
「……最悪ね」
「あ――ごめんなさい。トイレ行ってきます」
真顔でお尻を押え、かつてない抑揚のない声で香はトイレに行った。
「――流石ね香は。空気が読めない子」
「もうドン引きだよ!」
「それはこちらのセリフね」
「「誰!?」」
振り向いた先、牧場の建物の上に三人の女性が立っていた。
「さあ、あなた達の運命を呪いなさい」
「今回は傷つけてくれる相手に出会えっかな?」
「ウフフフフフフ……コロス」
ブロンドヘアーの胸元を大きく開いた魔女のような服を着た女性。
ダークブラウンの瞳を輝かせ、血よりも赤いスカーレットの髪の女性。
全身を真っ黒の包帯を巻いた、小さい女性。
「う、運命の魔女!? それに無敵の魔女、更には死線!」
真咲から見たら圧倒的格上、世界の上位存在。
世界で20本の指に入る実力者の三人だ。特に単純な実力なら、無敵の魔女はあの時空の魔女よりも上である。無敵の魔女より上の存在など、光の勢力には居ない。
「おいおい、まだ戦ってもいないのにギブアップか?」
無敵の魔女は右手を招くように振り、見下した笑みで真咲を挑発した。
真咲もサオも震えていた。これは武者震いではない、恐怖からだ。
「逃げることは出来ないわよ? この結界は時空系の能力者を10人も集めて創った結界だからね。本当は時空の魔女が居ればこれ以上の結界もできたのだけれど」
運命の魔女は豊かな胸を揺らし、腕を竦める。
「コロス――コロスッ!!!」
開いた口は、鋭い牙のような歯が並んでいた。
魔女である二人に、呪術師の犯罪者。闇の中でも幹部の三人が、光の末端の人間を殺しに来たという異常事態。
「よし満を持して俺らで黒野真咲をやっから、お前は貧乳同士で殺しあっとけ」
谷間に指を突っ込み、自身の胸を揺らす。挑発だ。
「――ライト・ルート・ポーズ! て、あれ? 魔法が出な――ぐふっ」
両手を翳して魔法を放ち、向かってくる死線を迎撃しようとしたサオ。しかし魔法は出ずに、腹を思いっきり殴られた。
小さく軽いサオの身体はぶっ飛び、口からは血と胃液がぶちまけられた。
「コロスコロスコロス!!!!」
死線は包帯をガッチガチに巻いた右手でサオを殴り続ける。
サオの顔がどんどん形を変えていく。
数十発の殴りを受けて、ついに顔が破裂した。
こうなってしまったら不死身の魔法少女と言えど、復活に数十分は要す。
「あらあら大変ね、あなたたちの最高戦力が当分使い物にならなくなったわね」
「結界無くても行けそうな実力差だったな。はあ……どうせなら兄の方と白髪のいけすかねぇイケメン野郎が居ればおもろかったのにな」
真咲はどうやって切り抜けるべきか思案する。
二人は手を出してこず、死線とサオの戦いを見ていた。
真咲は道具や武器、果ては物体そのものになにがしかの効果を付与できる超能力者である。単体でも高い身体能力と運動神経を有しているため、武器を強化して戦えばそこそこ強い。
しかしある程度の領域に足を踏み入れた者からしてみたら単体では恐れるに足らない存在だ。彼女の場合、兄の拳と組んで初めて格上に挑戦権があるレベルである。
香もここには居ないが単体ではクソザコである。拳も単体では限界があり、白戸も本人は大して強くない。
ぶっちゃけ新聞部で一番強いのは万能である魔法使い、魔法少女のサオである。
いま目の前にいる二人と同等の存在である紫藤ユカリと戦った時も、5人で漸く数分持ったレベルであった。
つまり勝ち目は無い。
あるとしたら『彼』であるが、結界に入る前にどっか行ったために期待は薄い。
「どうしたら許してくださいますか?」
もう許しを請うしか手は残されていなかった。
「ふーん……なら、結界を解いたら全裸でここの牧場に居る男全員とヤりなさい。そうしたら金井サオ共々許してあげるわ」
「それだけじゃつまんねーから、牛と豚のブツも咥えさせようぜ」
真咲は絶望する。尊厳を壊されるくらいなら、今ここで戦って死んだ方がマシかもしれない。どうするべきか悩んでいると。
「まずは、全裸になって土下座しなさい? ほら、は・や・く♡」
運命の魔女は自分の足元を指しながら、歪んだ笑みを浮かべる。
「く――」
真咲が一歩踏み出した瞬間、空間に割れ目ができた。
「「な!?」」
その割れ目から現れたは――。
「――遅いわよ……後で私のアソコを舐めさせるからね」
涙目の真咲の前に現れたのは――。
「だ、だれだテメー!?」
「あ、あの男は……」
二人の声に、男は答えた。
「通りすがりの一般人だ」
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