第15話 空気読めない子
二クラス合同の課外授業が組まれた五月中旬。
俺と真咲の組とサオと香の組で隣町の牧場に二日掛けての実習だ。泊まり込みであるため、自分の部屋で荷造りをしている。
「明日から居ないんだって? じゃあ私も彼氏の家に行くかなぁ」
居ないくせに見栄を張る茜。
飴っぽいものを舐めているのか、頬が膨れている。
「――ふむふむ、班で行動ねぇ……あんたは誰と組んだの?」
どうせ俺に組む相手なんか居ないだろうと思っているに違いない。
まあ、居ないはずなんだが……どうしてこうなったのか。
三日前――。
「――と言うわけで班を決めろよ。この二組であれば同じクラスでなくてもいいぞ」
サオの組の担任が二クラス集まった教室で説明をしている。
俺はクラスで普通に浮いている。話す相手も居ないし、俺自身が全く話さない男だからな。
前も言ったが空気を読んでいるのか、単純に表立って俺と関わりたくないのか真咲やサオは学校では話しかけてこない。
組もうよ~。
え~、私とぉ。
く、黒野さん、俺と組んでください。
真咲の方を見たら、引っ張りだこだった。
サオちゃーん、一緒に組も!
サオさまおいらと!
組んでくれ。
サオもそうだった。
俺はポツーンと立っている。俺以外にも何人か同じように立っている。大体がボッチのカースト底辺の連中だ。
「――くん、わ、私と組もう、よぉ~、うう」
え!? 茶柱さん!?
誰だあの陰キャ!?
嘘だろ……あの香様が……。
ざわざわと空気がおかしくなる。俺は冷や汗が止まらない。
(何してくれてんの!? アホちゃう!?)そう叫びたかった。
何がヤバいって断っても受けても角が立つ。断ったら陰キャの分際で断んのか! みたいな空気になるし、受けたら香と組みたい連中に顰蹙を買うし。
制服を押し返す爆乳をギャっと挟み込み、腕を小動物の様に縮こませる香はまあ可愛い。可愛いからどっか行ってくれ。
「お、おれ――じゃなかった、僕で良いんですか?」
危ない危ない。
「ふええ? ど、どうしてそんな態度、なの……わ、私のこと嫌いになっちゃたの? うう……ぐすぐす」
死ね、本当に死ね。
あ、あいつ泣かしたぞ!
ええ、そういう仲なの!?
くそが……クソが……糞が……。
誰か助けてくれ! 俺の……俺の高校生活が終わる音がする。
「なに言ってるのかしら香? 私たちが組む約束を破ると思ってるの?」
「そうだよ、みんなに囲まれちゃったけどちゃんと三人で組む気満々だったよ! そんな当てつけみたいなことしなくていいよ!!」
「ふええ? なに言って――ふがふが」
真咲とサオに口を押えられる香。
なんだ、そう言うことか……。
知ってたしー、茶柱さんがあんな陰キャ相手にする訳ねーし。
お前も相手にされねーってことか。
うるせ!
これは二人のファインプレーだ!
どうやら二人にフラれたと勘違いした香が当てつけで陰キャに声かけたみたいな空気にしやがった。
「余ったならあの三人と組みなさい」
「――」
授業終了間近、余っていた俺は担任により真咲たちの班と組まされることになった。なんも解決してなかったわ。
しね……シね……死ね……。
結局かよ!?
俺も余っとけば……。
「ごめんなさいね? 香はああ言うところあるのよ。感応してしまう影響か、他人との境界線が曖昧で、空気が読めないって言うか……」
「ほんとに空気読めないからねーカオリンは」
「ほえ?」
放課後、久しぶりに部室に集まった俺たち。
謝る二人に対し、香はもきゅもきゅとメロンパンを食べている。
それにしてもここまで厨二設定を入れてくるとは。ここまで徹底していると感心するわ。
「こいつはやべーぞ? 俺がオナニーした次の日にオカズネタを当時の彼女に暴露しやがって、結果別れることになったからな」
「ふえええ……だって彼女じゃない人をオカズにしてたから……うう」
「僕が彼女とデートしているときに他の女性のデートの話をされて別れるハメになったこともありますからね」
「だって……たまたま街を歩いていたら、前の日とは違う女の人と歩いていたから、うう……」
どっちも自業自得では?
と言うかモテる奴は死ね!! 俺には彼女とか居ないんだぞ!?
「――サオの彼氏(たっくん)にそんなことしたら殺すよ~カオリン♪」
「――私の彼氏(一般人)に手出したら殺すわよ香♪」
すっごい笑顔。
そうか……こいつら彼氏いるのか。期待した俺がバカだった。
もう何度も身体を重ねたから、ワンチャンあると思い込んでたぜ。そらそうか、俺みたいな底辺の陰キャが付き合える奴らじゃ無いよな。はは……。
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