第8話 魔法少女の思惑

 私、金井サオが魔法少女になったのは九歳の時だった。

 

 イギリスで舞台女優をやっていた母と、とある研究機関に属していた父から生まれた私は、それはまあ可愛がられ大事に育てられた。

 母親似で美しく、父親から引き継いだ頭脳で完璧な子供だった。


 あの事件が起こるまで――。



「金井博士、我々に付いてきてもらおう」

「な、何だね君たちは! ま、まさか魔術研究会か!?」

「その通りです、ですがご安心を……我々は光側です」


 白いローブと木の杖を持った老人たち、彼らに連れていかれたのは父だけではなく私もだった。


 連れていかれた場所には真っ白の建物だった。森の中に佇む真四角の豆腐のような建物、入り口すら見受けられなかった。

 当時は本当に驚いた。老人の一人が壁に杖を付けると、ブオンと音が鳴り入り口が出来たのだ。




「――放して!! 止めて!! 何するの!? お父さん、助けてっ!」


 手術室のような場所で、私は横になり四肢を拘束された。


「安心したまえ、この子と適合させるだけだ」

「きゅるるる……」


「この子を? 私は何をされるの?」

 白衣の男が持ってきたのは猫の身体に翼と角を付けた、魔法の力を凝縮させた使い魔と言われる存在。


 私の顔の横に置かれたそれは、恐る恐るチロチロと私の頬を舐めてくる。

 ざらざらしているが、確かに生きている体温を感じた。


「君も……生きたいの?」

「きゅるる……」


 私には何となく分かった。この子が死にそうなほど衰弱しているのが、私が一緒にならないと死んでしまうってことを。


 後で知ったことだが、使い魔は既存の生物に魔力を注ぎ込み生み出される。人間とは違い他の動物は魔力を普通にため込むことが出来る。

 しかし、使い魔は自分では魔力を放出できない。故に限界以上に溜まってしまい、いずれ死んでしまうのだ。


「小学生の君に説明したところで全ては解るまい、がこれだけは教えておこう。使い魔は言うならばバッテリー、それを装着し魔法を扱う電化製品のようなものが魔法少女――君がなるものだ」


 使い魔――後にルビイと名付けたこの子は、光ると指輪になった。それを白衣の男に無理やり付けられると、私の身体に激痛が走った。


「は、うぎゃぎゃああ! あばっばがが――」

 涙も鼻水も涎もすべてまき散らし、私は激痛に必死に耐えた。


「失敗か――いや、この反応は!?」


 私は失禁した。

 しかし痛みは引き、指輪は赤色に染まった。


「成功だぁ、素晴らしい……新たな魔法少女の誕生だ」





 研究機関で拘束され、父は何かの研究を強要された。

 私も魔女を狩る仕事をやらされた。


 来る日も来る日も、気持ち悪い魔女の創造生物やその魔女と戦わされ、機関に戻れば身体をいじられる日々。


 四年が経ち、中学生の私にはある程度の自由が与えられた。

 家に戻ると、母は泣いて抱き着いてきた。




「――一般人?」

「そう、最近よく耳にするんだよねぇ」


 触手の創造生物に巻き付かれ、ぐちゅぐちゅと未成熟の身体を弄ばれる私と同僚の魔法少女。

 最早慣れたもので、私も彼女も会話の余裕がある。


 じゅるる、ぐちゅちゅ――ぐい、ずぼぼ。

 いろいろな場所を擦られ、入れられ、弄られる。しかし魔法少女の力の一つで、拘束されてから一時間を過ぎるとパージ魔法が自動発動される。それを私たちは触手を受け入れながら待っていた。


「例の魔女が噂してたよ」

「漆黒の魔女……」


 彼女からもたらされた情報は眉唾物だった。荒唐無稽、信じられるものでは無かった。


 何でもない、光にも闇にも属していない一般人がどちらの勢力も潰している。

 

 ミチミチ――ぶちゃっ!


「アンっ――はあ、はあ、もしかしたら彼は救世主かもね」

 股間を貫かれた彼女は血を流しながら、ニッコリ笑って私を見る。


 馬鹿馬鹿しい。そんな者が存在するはずがない。

 裏の力は個人でどうこうできるものでは無いのだ。


 私の身体は光輝き、触手は消滅した。パージ魔法が発動したのだ。

 貫かれ、絶命した魔法少女の肉体も再構成された。


「ふっかーつ! 不死身の魔法少女ちゃんでーす! ぶい」

 テンション高いなこいつ。



 高校生に上がり、一般人の噂は留まることを知らないレベルで裏に流れていた。


 闇の勢力に光の勢力。どちらにも属さない彼は、表の人間に害をなす全ての裏の勢力を粛清していった。


 彼がここまでやった所業でも、群を抜くのがとある小国を救った事件だ。

 その小国は裏で闇の勢力の力を蓄える、闇の最大の基地と化していた。


 彼はその国の王女と協力し、その国を解放した。



「え……一般人が、この学園に!?」

「ええ、そうなのよ……しかも私のクラスメートよ」


 学園に入学して一週間が経ったある日、光の勢力最大の組織ライトロードの構成員である黒野真咲が言ってきた事実に理解しようと必死に頭を回した。


 あの『通りすがりの一般人』がこの学園に……。


 何人もの人間を救い、いろいろな組織を滅ぼした彼が名乗った。

 誰もが最後には彼に聞く「何者だ?」と。


「通りすがりの一般人だ、覚えなくていい」

 彼はそう言って去っていく。




 真咲ちゃんが連れてきた彼は、言い方は悪いが何の特徴も無い普通の人だった。だが一瞬で分かった、そう言う演技だと。


 この業界ではよくあることだ、自分の姿を隠すためにモブを演じるのは。



 私は彼の力を利用しようと決めた。

 父を救うために。



 一緒に行動するようになってより理解した。

 予想以上に彼は演技派で、想定以上の力の持ち主だということを。


 まさか射精してまでモブ感を出すとは。



 家に連れていき、協力を要請する。

 しかし彼は首を縦には振らない。まあ、想定通り。


 彼の力は個々の力も強いが、どちらかと言うとサポート系と言うのが裏側の共通見解だ。


 今までの戦いでも彼は一緒に居た味方をサポートして、なかなか自分で戦おうとしなかったらしい。


 なら、自分に戦闘力に分があるのでは。

 

 脅すと、彼は指を鳴らした。

 何を?






「そうか、あの通りすがりの一般人が……」

「そうなのパパ!!」


 滅びた機関に居た父に抱き着いた。連絡を受けて、飛行能力を全開にして飛んできた。


 父の見解では、彼が何かをして機関が滅んだのでは? とのこと。


 不思議では無い、彼ならそれくらい出来ると踏んで協力を要請したのだ。しかし彼は断ったはずだ、自分は誰にもどこにも属さないと。






「どうして助けてくれたのです?」


 次の日、連休の初日に彼に問い詰めた。家に帰ると彼と母は入浴を済ませていたようで、一緒にご飯を食べていた。

 父も感謝の気持ちにと、彼を泊めた。


「ふん、何の事かな?」

 彼はとぼけてみせた。


「ふざけないで! だってパパが、パパだけが助かっていたのですよ! 貴方言ったじゃないですか、属さないと」


「闇や光になど属さん、しかし今の俺は新聞部の部員だ。その仲間を助けるのに理由が要るのか? 新聞部の金井サオ」


 たっくん……。

 や、やばい、格好いい……。


 私は彼に抱き着いて、言った。


「私ね……無理やり初めてを奪われたの。それからもいろいろと弄ばれたの、そんなキタナイ私でも……抱いてくれる?」

 自分の身体が震えているのが分かる。拒絶されたらどうしよう。


「俺も初めてでは無い、そんな俺がキタナイか?」

「ううん……だいすき」


 その日、連絡が山の様に来ていた。新聞部で活動する予定があったのだ。

 でも私は全部無視して、彼と交わった。


 何故か途中で両親もやってきて、四人で交わった。


 冷静になって思い返すと、何をやっていたのだろうか?

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