第5話 少女の妄想
新聞部に強制入部させられた次の日、俺は覚悟して教室に入った。
カーストのトップ層の集まりである新聞部に入ったことで、俺に対する嫌がらせなどが起きないか心配だった。が、結局は杞憂に終わった。
どうやら新聞部に入ったことは知られていないらしい。
空気を読んでいるのか、それとも表立っては俺みたいなモブに関わりたくないのか黒野は話しかけてこなかった。
そうして放課後になり、掃除当番としてゴミを捨てに向かった俺は金髪の自称魔法少女の金井サオと会った。
無視するのもアレなので、会話をする。
金井サオは金髪碧眼で人形の様に整ったハーフの女性だ。胸もぺったんこだが、好きな人は好きな格好である。
「はろはろ、たっくん! ごみ捨てなの? サオも行く~」
「たっくん? 俺のことか?」
「そう、たっくん! だめ?」
「い、いや……別に構わないぞ」
「やったー!」
新聞部の連中は遥か雲の上の人間であるからして畏まってしまうが、金井は見た目も相まって普通に接することができる。
「むう……たっくんはあまりサオに興味無いな~? 真咲ちゃんや香ちゃんには鼻の下伸ばしてるのにぃ」
ぷくーと不貞腐れるように頬を膨らませる。
「そ、そんなに伸びてたか? まあ俺も男だし、あの胸に目を奪われたのは否定しないよ」
黒野も茶柱もついこの間まで中学生だったとは思えないスタイルだ。
金井は……まあ、ねえ。
「サオはしょうがないの! 魔法少女はなる瞬間に肉体年齢が止まっちゃうから」
「……そう」
可哀想に。その小さい身体がコンプレックスだからって、そんな設定作らなくても。
可哀想だからこいつの妄想設定に乗っかってやるか。
「――でもよ、それなら闇の勢力の魔女たちはどうなるんだ? 魔法使いの男たちは? 大半は成長してるだろ」
この無茶振り、どう返す?
我ながら大人げないな。
「彼らは生まれもって魔法が使える人間なの。私たちは使い魔たちと契約して魔法を使える身体に作り替えるの。先天的か後天的かの違いかな? 私たちは本来なら魔法の資質が無いんだろうね」
使い魔? アニメなどによく出てくる淫獣か?
ペットを使い魔って言い張っていたら可愛いな。今度彼女の家にお邪魔しよう。
「そういや、生徒会長も魔女だろ? それも凄腕の」
「――!? やっぱり知ってたんだ!? ほんとにどうやって調べてんのぉ?」
昨日は若干ムカついたからな、あの女も巻き込んだる。
「しかし、イマイチ状況が読めねんだよなぁ。俺も今まで関わることをしてこなかったからな」
「……なら、この後ヒマ? ちょっとお話ししようよ」
「部活は?」
「まあまあ、じゃ掃除終わったらテラスに来てね~」
金井はぶんぶんと手を振って、去っていった。
掃除を終えた俺は、学園敷地内の木のテーブルと椅子が並んだテラスに向かった。
外ではあるが、花壇の近くで日当たりが良いので人気のスポットだ。昼飯をここで食う生徒も少なくない。が、放課後のせいか金井しか居なかった。
「よ、待たせたな? これ奢りだ」
隣に設置された自販機からオレンジジュースを買い、金井の前のテーブルに置く。
「わーい! ありがと!! 待ってないよ、ぜーんぜん」
「それで、なにを話すんだ? いん、使い魔の事とかか?」
俺の問いに返事をせずに、ごきゅごきゅと両手で缶を持って飲んでいる。
やばい、普通に可愛い。
「――ぷはー。おいしー!! たっくんありがとね!!」
眩い笑顔光線。
「ぐはっ――クリティカルヒットか……」
「胸を押さえてどうしたの? というか座ったら?」
それもそうだな。
俺は彼女の正面に座った。
「それで? まずはどうして部活に行かないんだ? 俺も行く気は無かったが」
「ぶっちゃけた事言うとね~、仲間ではあるけどサオたち五人は一枚岩では無い関係なの~」
「そうなのか? 仲は良さそうだったが」
俺もぶっちゃけ興味無いけど。
「黒野兄妹がライトロードの構成員なの、サオはそれに協力する魔法少女、香ちゃんとトキノンはSSSの人なの。協力する間柄ではあるけど、すべてを共有できるわけでも無いんだ~」
へー黒野って兄妹なんだ。
俺は買ったコーヒーを飲みながら、聞き流している。いちいち聞き返していたら進まないからな。
「たっくんがどこまで知ってるかは分からないけど、闇の勢力は大体が闇の教団『ダーク・ネクストステージ』の表向きの姿である闇神法人団体で得た利益で成り立ってるの。いわゆる宗教かな?」
よく考えられた設定だな。法人団体ってのが詰めが甘いと思うが。
「つまり、金を最も集めてる組織だから一番地位が有る的な話か?」
「そう言うことだね~。こっちの光の勢力も似たようなものでライトロードが発言権が優先されてるみたいなところがあるね」
頷きながらも、ちびちびジュースを飲む金井。
可愛い。
「魔法関連について教えてくれ、その組織などもな」
「そうだね~そっちの方が説明しやすいよ! だってサオが魔法少女だし」
何度も魔法少女と言って恥ずかしく無いんかこいつ?
そもそも高校生が少女を名乗って良いのか? いや、それは良いのか。
「魔法ってのは未知の粒子、人はそれを魔素って言うんだけど、それを扱えるのは適性のある人だけなの。その魔素を媒介に不思議な力を起こすのが魔法。ここまではいい?」
「ああ、そこまでは一般常識だな」
普通の厨二病なら簡単に思いつく設定だ。
「先天的に適性を持つ魔法使いや魔女たちは組織を作ったの、それを魔術研究会。それが出来たのは四百年前って言われてるね」
金井はノートを取り出すと、何かを書き出す。
魔術研究会から一本の矢印が伸び、やがて二手に分かれる。
「百年続いた研究会は使い魔を生み出した。それを少女と契約させることで後天的に魔法を使える人間を誕生させることが可能になったの。そこから組織は二つに分かれてしまうの」
矢印の先には闇と光が。
「後の闇の勢力に加担することになる方は純粋主義でね? 後天的な魔法少女を決して認めなかったの。逆に魔法を使えるものはすべて平等を掲げる方が光の勢力に加担することになる」
「ふざけた話だな。どっちも……」
光も正直言って普通ではない。お前たちから魔法少女にしといて平等もくそも無いだろうに。それにそれでは魔法を使えない奴は下、と言っているようにも聞こえる。
どっちかって言うと闇の方がまだ共感できる。
そう告げた。
「――そうだね、サオも無能者を蔑む考えは理解したく無いんだよね~。あ、無能者ってのは魔法などの能力が無い人って意味で、差別的な意味では無いよ? それ以外に言葉を作ってもややこしいだけだし」
「そうだろうな」
俺は飲み干した缶を潰すと、ゴミ箱に入れた。
立ち上がり、彼女に背を向ける。
「いい話を聞けた……お前の意思は解った、それを貫き通せたら――俺も認めよう」
「たっくん……」
その声を背に、俺は立ち去った。
そこまで設定を考えたら、もうそれは才能だ。立派だ。これから先もその設定を貫けるなら、俺もその設定に乗って話してやる。
たっくんと呼ばれた男が立ち去った後に、一人の女性が彼が座っていた椅子に座った。
「どう、彼は? どちらに付きそうかしら?」
「どうだろうね~、純粋主義の方が理解はできるって言ってたよ」
金井は現れた女性、紫藤に告げた。
「それはそうよ、だって私たちは誰に迷惑をかけてる訳では無いもの。その点光は酷いわ、いたいけな少女を強制的に魔法少女にして、そしてその未来って時間を奪うのですもの」
金井は九歳の時に魔法少女になった。
それから一切成長をしていない。なりたかった訳では無い。
彼女の母のスタイルを見れば、将来は明るかったのに。そうすればたっくんも見てしまうほどの胸だっただろう。
「じゃあね、協定通り学園内は停戦を結んでいるけど、それはいつでも破れると思っておきなさい」
片手を振り、紫藤は去っていく。
「……ばーか」
金井はさっきまでとは異なり若干低い声で言った。
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