第4話 家に平和など無い
「ハア……ハア……しんど……」
走ること十分と少々、俺は自宅にたどり着いた。
辺りを見渡し、誰も追ってきていないことを確認すると家に入る。
二階建ての一軒家で、住宅地の中ほどにある普通の家だ。
その玄関の靴箱の上には家族で撮った写真が飾られている。
「ただいま」
俺は写真に挨拶をすると、靴を脱ぎ洗面所に向かった。
手を洗い、うがいをする。
俺の後任の義親は躾に厳しいのだ。もちろん基本は優しく、仲も良いが。
自室に備え付けられたコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて、テレビを眺めながら一息吐く。
冷静になってみればどうと言うことは無い。
頬の切り傷を絆創膏で治療する。この傷を付けた会長の手品のタネは割れている。
所謂ミスディレクション。右手を翳したことで俺の視線はそこに集中する。その隙に左手で何かを投げたのだろう。
会長も一種の厨二病なのだ。ただ新聞部連中とは派閥が違うのだろう。
今にして思えば俺はずっと何かに巻き込まれていた気がする。
転んだ時におっさんに体当たりする形になった時があった。それがまさかの痴漢だったりした。海外旅行に行ったときに拾った宝石が、その国の秘宝で大臣のクーデターを王女と共に阻止する決め手になったこともある。
しかしそれは全くの二度と関わることない世界で起きたこと。
現在進行形で俺が属するコミュニティで起きるとなると話は別だ。
事実、その電車には二度と乗ってないし被害者の顔すら知らない。その小国には二度と行かないだろう。
「――ただいま~」
三杯目のコーヒーを飲んでいると、義母が帰ってきた。
「お帰り、今日は早かったね?」
「まあね~、スーパーで半額の惣菜買ってきたから温めて~」
俺に袋を渡すと、義母は風呂に向かった。
後ろから見る、義母の姿はエロかった。スーツ姿の義母は知り合いの会社に勤める二十二歳の女性だ。二年前に両親を亡くした俺を引き取ってくれた。
まだ遊びたい歳だろうに、俺の為に夜遅くまで働いている。
「ぷは~!! くぅ~このために働いてんのよねぇ!」
風呂上りの義母は薄いシャツにパンツ一丁の恰好だ。
化粧が取れているはずなのに美しい顔。少し肉が付いてきたために逆にエロい身体。
「その頬どったの?」
「ああ自称闇の組織の人が魔法をぶっ放してきたのさ」
酔っぱらっている義母の酒のツマミになればと、俺は今日の放課後のことを語った。俺もかつては厨二病だった、ので面白く話を誇張しまくった。
「――てな訳で恐らくあの女は別の意図が有って俺に接触してきたんだと思うんだ。可能性としては闇の組織のいろいろな派閥が有って、その牽制かな? 俺の近くにあの女の敵対派閥の奴が居るんだと推測できる」
俺の奴らの設定を利用した妄想話をケラケラ笑って聞いていた義母は、いつの間にかテーブルの上で寝てしまったので上着を被せると俺は自室に戻った。
むくっと起き上がった彼の義母、茜は頭を掻く。
「ふう……何かある奴なのは分かってたから引き取ったってのに、まさかあいつが『通りすがりの一般人』だったとはねぇ」
茜は缶に残っていた酒を飲み干すと、握りつぶした。
その缶は、いつの間にか消滅していた。
「時空の魔女め……私が最初に目を付けたんだぞ、横取りする気か」
優しそうに笑っていた先ほどの笑顔とは打って変わって、今の表情は憤怒に染まる。
茜――彼女もまた闇の勢力の一人。『消失の魔女』と言われている。
「それにしても、あいつのあの洞察力と演技力には驚愕するわね。後ろ盾も無いのにどうやって情報を集めてるのかしら」
彼が多く語った妄想話は大概当たっていた。
普通、少し下の人間を演じる陰の実力者。それが闇と光の組織、どちらともの共通認識だった。
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