第2話 普通に過ごしていただけなのに

「――校から来ました、黒野真咲です。趣味は読書、特技はスポーツ全般です。一年間同じクラスとしてよろしくお願いします」

 私は頭を下げた。

 どうやら今までと同じように、私の容姿は注目を集めるようね。皆が私に見惚れていた。


 高校の入学式を終え、二時限目のホームルームでの自己紹介。私は席に着くと内心ため息を吐く。


 表向きは普通の生徒として過ごさなければならない。


 この、のほほんと戯れる平和ボケした者たちを護る。しかし自身の特殊性はバレてはいけない。本来は目立たないモブを演じなければならないのだろう。でも、私の容姿は嫌でも人目を惹く。


「――から来ました。――です――で――です、よろしくお願いします」


 窓際後方の神ポジで眠たそうな顔とやる気のない目で自己紹介をする男。どこにでも居る様な平凡な顔に身長も体格も普通。


 この時は別に彼に対して思うことは無かった。



 入学式から三日が経ち、クラスは落ち着きを見せる。

 もうすでに出来上がりつつある、クラスのカーストグループ。


 私は下手に普通を演じると逆に不自然な容姿の為、優等生を演じる。

 カーストトップの目立つ連中、その中に混ざり過ごしていく。


 お調子者の明るい男が道化を演じて盛り上げて、イケメンの男がそれにツッコミを入れる。ギャル系の女が笑い、クール系の女が呆れている。

 私も内心はつまんないと思いながらも、空気を壊さないように笑う。


 そんな中でクール系の女が何かを見ているのが分かった。


 彼女は何か隙が有ると無意識か、もしくは意図的か一人の男を見ていた。


 だから休み時間の時に一緒にトイレに行って、聞いてみた。


「どうして彼を見てるのかしら? 同じ中学なの?」


「……私見てた?」


 鏡の前で手を洗うフリをしながら私は横目で彼女の顔を見る。その顔は赤く染まり驚きで目を見開いている。

 普段は無表情で綺麗な顔な彼女が見せた初めての顔。


 少し膨らんだ胸に手を置き、彼女は思い出すように話す。


「私はいつも何かに襲われる、そういう不運な女なの――」


 最初は私たちの敵、ダーク・ネクストステージかと思った。

 しかし聞けばどこにでもある話だった。


 大人しくて可愛い、そんな女の子によくある話。

 クラスの女子にイジメられ、男子にセクハラされる。知らないおっさんに痴漢され、教師にイヤらしい目で見られる。


 そんな時に彼が助けてくれたそうだ。


 とんでもないタイミングで現れ、何でもないように振る舞い空気をぶち壊す。お尻を触ってきたおっさんを誰にも気付かれないように突き飛ばした。


 そうして裏で彼は何度も彼女を助けてきたそうだ。


「彼からしたら私は助ける多くの人の一人なのだと思うわ、でも私は彼に救われた、だから彼の様に強くあろうと決めたの」


 普段は一般人、モブの様に振る舞い、裏で困っている人を陰ながら救っていく。

 それはまるで……私たちの様。


 だから私も彼に注目してみた。


 そうして入学してから二週間。私は気付いた、彼も私たちと同じ『側』の人間だと。


 帰ろうとしている彼の腕を引っ張り、私は部室に連れていく。

 表向きは新聞部。しかし実態は裏で世界の悪と戦う組織の学園支部。


『ライトロード』


「世界の闇は深いわ……私たちが導く光となるのよ!!」

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