震える ココロ
どうしよう。
「じゃあ、ここでいいかな」
木屋町の外れにある細長いビルはファッションホテルには見えない。
「ここ?」
有紗の足は少し重くなった。
「もっとお城みたいなギラギラしたところが良かった? それとも普通のビジホ?」
「いや、そういうんじゃなくて」
「あのね、時間が」
彼は腕時計を指さして有紗の手を引いてエレベーターのボタンを押した。
もったいぶっているわけではなし、覚悟をして風俗店の画像をスクロールして、この人とならとあの時はそう思ったのは確か。でも安易に考えていた自分がもう引き返せない地点に立っていることを今更ながら強く意識してしまう。
新しい下着と、もしかしてのための予備の下着。いつもより念入りにした化粧と、眼鏡をはずして最近買った使い捨てのコンタクトレンズは一週間ほど試しに使ってきた。今日のために、この時のために。
「ごめんなさい」
「え?」
「あのここで、お金全部払いますから、ごめんなさい」
がくんとエレベーターが止まった時に有紗は言った。
その時に、有紗の腕をロックして修也はフロアに強く踏みだした。
「何を言ってんだか、もう。お嬢はわがままだな。そういうプレイなんだ。もう始まっているんだね。ハイハイ、わかったよ。何もしないから、恥かかせないでよ。部屋に入ってジュース飲んで話でもしようよ」
終わったと思う、有紗はそう言いながらディスプレイの画面を巧みにタッチして、304号のカードキーを受け取るとすたすたと歩いていく。先ほどまでも笑顔は控えめだったが、少し怒っているようにも見える。
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