スマホが繋ぐ僕と君

かんた

第1話 「僕が愛した君へ

 僕と君の出会いは、あのスマホゲームでしたね。

 最初はただの同じゲームをやっている、顔も知らない関係でしたが、二人で新規のギルドを立ち上げてギルマス、サブマスとなってから、それまでよりも急速に仲が深まっていったような気がします。

 ギルドの運営に関して等、チャットだけではなかなか話が進まないこともあったので、ディス〇で通話をするようになった時に、初めてお互いの性別を知りましたが、それでも特に警戒することなく、たくさん話をしましたね。

 ギルドのこと、メンバーのこと、時には関係の無いリアルでの友人関係などの悩みに関しても話して、夜更かししたのを今でも覚えています。


 ギルドを立ち上げて、しばらくしてからのことでした。

 メンバーの一人がギルドのメンバーでオフ会をしたい、と言い始めましたね。

 丁度良く、そのゲームのコラボカフェが開催されていて、集まるにはちょうどいいのかもしれない、と了承して、皆も集まることのなった時には、楽しみではありましたが、少しだけ不安があったのは否定できない事実でもありました。

 ゲームの中でだけのこの君との関係が、リアルで会うことによって何かが変わってしまうのではないか、と少しだけ怖かったのです。

 結局はその心配は杞憂ではありましたけれど。


 オフ会当日、私はいろいろな感情が渦巻いていたことでなかなか眠れず、気が付いた時には外が明るくなっていることに少し焦りを感じ、寝てはいられない、とまだ日が出てきてもいない時間から外へと出て、待ち合わせの場所へと向かったのでした。


 その時は、待ち合わせ場所にたどり着いてからどうするかを考えようと思って何も考えてはいなかったのですが、待ち合わせ場所に一人の女性が立っているのに気が付いた時は心臓が破裂しそうになっていました。


 まさか、こんなに早くから人がいるとは思わなかった、という事もあったのでしょうが、どこか、そこに佇んでいる女性が、私の中での君のイメージを体現していたかのようだった、と後から考えてみて気が付きました。


 だからこそ、私はあの時、君に声を掛けていけたのでしょうね。

 いつもなら、よく分からない人にいきなり声を掛けることなんて出来やしないのですが、あの時だけは気味に話しかけることしか考えていなかったような気がします。


 話しかけた瞬間は怪訝そうな顔をした君も、少しして声に聞き覚えがあると思ってくれたのか、僕のことを分かってくれた時は、小躍りしそうなほど気分が高揚していたのを今でも覚えています。


 きっと、あの時既に、僕は君に恋をしていたんだと思います。


 それからはしばらく、他のギルドのメンバーが来るのを二人で話しながら待っていました。

 と言っても、二人して早く来すぎていたので、24次官営業のカラオケに行き、たまに歌いながら時間まで待っていましたけれど。


 そろそろ集合時間だ、という事でカラオケから出て、待ち合わせ場所に向かうと、ちょうどその場所に人が集まり始めているのを見て、二人して少し期待で歩くのが早くなってしまいましたね。


 そこでのオフ会は本当に楽しくて、メンバー皆がしっかりと打ち解けて、その場で次のオフ会の日程を組んでしまいました。

 君はどうか分かりませんが、僕はオフ会でメンバーと会えることよりも、君と会えることにとても胸が躍っていました。


 それから、次のオフ会の日までもそれまでと同じようにゲーム内であったり、直接会った時に交換した連絡先で話をしましたね。

 住んでいる場所も離れていることを知っていましたし、正直恋に落ちていることに気が付いていても無理だろうな、と少し残念に思いながらも話をすることは楽しくて、ずるずると長電話したりしていましたね。


 それから二月ほど経って、二度目のオフ会の時には、もう自分の恋心をしっかりと認識していて、正直なところ何を話したか覚えていないぐらいに緊張していました。

 君は特にいつもと変わりは無さそうで、同じ気持ちでは無いのだろうな、と少し残念に思ったことを覚えています。


 そして、二度目のオフ会も終わり解散した後に、片思いだとしても気持ちを伝えたい、と思うようになっていました。

 そのことに気が付いた時には既に僕も、帰りの電車に乗ってしまっていたので、すぐに行動に移すことは出来ませんでしたが、次のオフ会の時には気持ちを伝えようと心に決めていました。


 そして、僕にとっては忘れられない、三度目のオフ会。

 終わって、解散するという時になって、緊張で何度も噛んでしまいましたが、君と二人きりの時間を取ることに成功しました。

 何となくは察していたのか、少し顔を赤くしながらも僕が口を開くのを待ってくれていた君を見て、片思いでもいいと思っていたのに、やはり両想いであってほしいと願う気持ちがあふれてきていました。


 少しして、僕が何とか口を開いて想いを告げた時、君の応えを聞いてからの記憶は正直なところしっかり覚えてはいません。

 君がまさか同じ気持ちでいてくれて、僕を受け入れてくれたことが嬉しすぎて、そのあと何を話していたのか、記憶から薄れてしまったのです。



 それからは、互いに住む場所も違うので遠距離にはなってしまいましたが、何度も会って、たくさん話して、夜をともにしたことも数えきれないほどになりましたね。


 一体、君と出会ってからどれだけの時が経ったのでしょう。

 今でも僕は君を大好きで、君も僕を好いていてくれるとは思ってはいますが、それでもやはり、こういう話をするのは緊張するのだと実感しています。



 僕は、君のことを愛しています。

 これから先の人生全てを賭して、君を幸せにすると誓います。

 ずっと、僕の傍で笑っていて欲しいのです。

 だから、僕と結婚してください。


                  君のことを愛している僕より」










「ふふ、こんなの書いてたんだね……。ねえ、これ貰ってもいい?」


「……何でそんなの残ってるんだよ。確かに捨てたはずなのに……」


 今、僕の目の前では君が、僕がプロポーズの前に書いて結局渡せなかった手紙を読んでいる。

 あの時は、結局渡せなかったけれど、自分で読み返してみてもなんだか恥ずかしくなってしまったので捨てたと思っていたのだけれど、今こうして棚の奥から出て来たという事は捨てていなかったのだろう。

 それを目の前で読まれて、どこかに行くことも許されないというのはかなり恥ずかしくて、今にも手紙を奪い去りたいとは思う。


 けれど、君が手紙を読みながら幸せそうな顔をしているので、そんな気も失せてしまうのだから君は本当にずるいなあ、と思いながら、君の横顔を眺めるのだった。

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