先輩の覚悟

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桜野あたえ Side


文化祭から家に帰って、あたしはクローゼットを開いた。

そろそろ、向き合わなきゃいけない物達がある。

ユキが家に遊びに来たあの日、あたしが床にぶちまけたあの箱の中に_


家の階段に飾ってある家族写真。あの時行ったテーマパークに、その一週間後に「彼女」から「一緒に行こう」と誘われた。正直タイミングの悪さを感じたけれど、あたしは彼女との距離を縮めたい一心で、「うん」と笑顔で返事をした。それが、初めての二人きりの外出だった。


その日、彼女に告白され…あたし達は、付き合うことになった。


その時撮った写真を入れた、ガラス製の写真立て。別れたその日に、衝動的に床に投げつけて_

_割れたその写真立てを、どうしても捨てることが出来なかった。


彼女とデートに行った場所のチケットも、全部思い出に取っておいていた。あたしはそれらと写真立てを箱に突っ込んで、まるで封印するかのようにクローゼットの奥に押し込んだ。


その因縁の箱をクローゼットから取り出して…あたしは、ゆっくりと蓋を開けた。

めちゃくちゃに突っ込まれたチケット類を取り出して、ちぎって部屋のゴミ箱に入れる。

そして、写真立ては_

_中の写真は取り出して、そのままちぎってゴミ箱へ。ガラス製の写真立ては、後で燃えないゴミと一緒に出そう。


うん、これでいい。

空になった箱を見て、あたしは不思議な満足感に包まれた。

心に穴が開いたようにも感じるけれど、前に進めたという達成感も湧いてくる。


あぁ、あたし…もう「彼女」のこと…


…“過去”だと、思えるようになったんだ。


安堵の気持ちと、少しの寂しさと。

複雑な思いになりつつも、あたしは一つため息を吐いた。


ただ、小さな箱を一個空にしただけだ。

それでも、何か大仕事をやり遂げたような、そんな気持ちだった。

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