後輩の独白

▲▼▲


望岡ユキ Side


私_望岡ユキは、あたえ先輩に告白して見事に玉砕した。

そもそも、なんであの時告白したのかには理由がある。


田中先輩からショッピングモールで先輩の過去について聞いたあの日の夜、私は夢を見た。中学の時、あたえ先輩と二人で行った近所の高校の文化祭の夢だ。


先輩がホットドッグを買ってくるのを待つ間、私は屋外の休憩スペースで場所取りをしていた。暇だったから、ぼーっと校舎を見ていたのを覚えている。その時、二人組の男子生徒に「一緒に回らないか」と声をかけられたのだ。当然、すぐに断った。


問題は、その後だ。

休憩スペースに戻ってきた先輩は、どこか浮かない顔をしていた。ホットドッグは無事に買えたというのに、どうしたのだろうと私は思った。

だから、私は先輩に聞いたのだ。


「どうしたんですか?あたえ先輩。暗い顔してますけど」

「…やっぱさ、もっちーはモテるよね」

「え?」

「さっき声、掛けられてたじゃん。男の子に」

「あぁ…、そういえば」


どうでもいい出来事であったが故に、私は既にその男子生徒のことを半分忘れかけていた。


「あたしにはそんなこと一生ないんだろーな、って思ったら虚しくなっちゃってさ…誰も、あたしのことなんか好きにならないよね」

「…そんなことないですよ」

「あー、気遣わせてごめん!ホットドッグ冷めちゃう前に食べよ食べよ!」


先輩が、アハハとわざとらしく大きく笑った。それはきっと空元気で、でも私は何も言えなかった。


本当は言いたかった。

「私は先輩を好きです」って、言いたかった。


「誰も、あたしのことなんか好きにならないよね」

_そう呟いた先輩の寂しそうな表情が、映画館の時の先輩の姿と重なった。


自分の素直な気持ちを伝える勇気も、言葉も…中学生のあの時、私は持っていなかった。

でも、今なら_


_私は、先輩に好きだと言える。


先輩と再会したのは、本当に偶然だった。そんな奇跡に、背中を押された部分もあったかもしれない。


結局フラれてしまったけど、後悔なんて微塵もしていない。

ちゃんと、私は先輩に「好きだ」と伝えることが出来た。これで、先輩はもう「誰もあたしのことなんか好きにならない」と言わなくて済む。そんなことを考えて、傷つかなくて済む。


先輩の「誰もあたしのことなんか好きにならない」は間違いだ。

だって貴方の目の前にいる私は、後戻りなんて出来ない程に先輩が好きだ。

それが伝えられただけで、もう十分だ。


あたえ先輩がいたから、私の中学時代は懐かしむことが出来る思い出になった。高校に入ってからも、先輩のおかげで私は毎日が楽しいと思える。私は先輩に、沢山のものを与えてもらった。


フラれることなんて最初からわかっていた。でも…先輩に何か一つでも恩返しが出来るなら、貰ってばかりの自分が先輩に返せるものがあるのなら_


_私はなんだってしたいと思った。例えそれが、自分の恋心と引き換えだったとしても。

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