なめわんの栄光は誰の手に!
道行く人に撫でられる度にエントリー者を増やしながら、めい子とシュナイダーの散歩は続く。
広い公園にたどり着き、ランニング中のお姉さんをエントリーさせた後、シュナイダーの歩みが止まる。
「ん? どうかした? ああ、ここ木陰になってて風が気持ちいいね」
「来客だ」
「え?」
そう言うが否やシュナイダーは飛び退き、上から下りてきた者と対峙する。
突然のことに理解が追い付かないめい子だが、目の前にいる少女を見て理解が追い付く。
そう、間違った方向へ……。
「イヌコロ! お前の悪行聞いたのです! これ以上好きにはさせないのです!」
【毛むくじゃら同士戦うなんて、なんて悲劇なのかしら!】
地面を軽く抉るほどの蹴りを放ち構える、スーと白雪コンビ。
「ほう、その殺気、本気だな」
「当たり前なのです。イヌコロの被害者をこれ以上増やさない為にも、スーがここでお前を討つのです!」
【愛し合うが故の悲劇っ!】
睨み合うシュナイダーとスー&白雪。一触即発の空気など全く気付きもしないのは、めい子の良いところである。シュナイダーの前に立つと、手に持っていた袋を掲げる。
「本当に来た! スーちゃん! コレコレ、ボヌールの限定シュークリーム一緒に食べようよ!」
「わーい! シュークリーム大好きなのです! めい子も大好きなのです!」
手を広げ、めい子に駆け寄るスーの足をペロリ、そしてその軌道上に手を出してきた白雪の手が口に入り強引にモフリ?
舌にぬいぐるみの毛がついて、舌を出して嫌そうにするシュナイダーと、両頬を押さえくねくねする白雪。
「うぅ~、イヌコロに足を舐められたのです……でもシュークリームは美味しいのですぅ~」
泣きながらシュークリームを頬張るスーの頭をめい子が撫でる。
「うんうん、スーちゃんは犬が嫌いなんだよね? 怖かったかな? 泣かない泣かない。ほら、元々スーちゃんに買ったんだから全部食べてよ。持って帰る?」
「うぐぅ、イヌコロ嫌いなのですぅぅぅ。シュークリームありがとうなのですぅ。帰っておじいちゃんと食べるのです」
スーはグスグスと泣きながら、シュークリームの入った袋をめい子からもらって帰って行く。隣のウサギがポンポンと肩を叩き慰める姿を見て、うんうんとめい子は何度も頷く。
「シュークリーム買ったらスーちゃんが来るって言ってたけど本当に来たね。やっぱりシュナイダーくんは凄いね。
そういえばさ、白雪ちゃんの中の人ってどんな人なの? 見たことある?」
スーたちを見送った後シュナイダーを感心した目で見るめい子の視線を受け、シュナイダーはニヤリと笑う。だがすぐに舌に違和感を感じたのか、舌を出しぺっぺと糸くずを吐く。
「あのウサギ、わざと手を突っ込んだな。俺の動きを読んだ動き……やはり只者じゃないな」
感心しながら、スーの味を思い出し確かめる。
「ふむ、やはり美味。好みというのは大きなアドバンテージだな」
口の中で舌を転がし、ご満悦な笑みを浮かべる。
「あっ! あれテレビの中継じゃない? 行こうよ映れるかもしれないよ!」
テンション高くリードを引っ張るめい子に引きずられ、シュナイダーは中継現場にやってくる。
夏の公園で、熱中症対策と清涼感を感じられる遊び場を紹介しているようだった。若手と思われるアナウンサーが元気いっぱい伝える中、めい子とシュナイダーに気が付いたスタッフの一人がアナウンサーにカンペを出す。
『犬と絡んで!』
カンペを見たアナウンサーは指示通り動こうとするがすぐに立ち止まってしまう。なぜならスタッフの一人の女性が大きくバツを作ったからだ。その女性を見てめい子が反応する。
「あれ? 尚美さんじゃない? おーい! 尚美さーん!」
手を大きく振るめい子に、渋い顔をして頭を抱える尚美。その様子を見てスタッフは尚美とめい子が知り合いだから関わりたくなかったのかと解釈し、若手のアナウンサーに予定通り絡むように指示を出す。
「こんにちは、朝早くからワンちゃんのお散歩ですか?」
「はい、この子お散歩好きなんで日が昇って暑くなる前に行っておこうかと思って」
世間話的な質問をいくつか交わした後、
「大きなワンちゃんですけど撫でても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。大きいけどいい子なんで噛んだりしませんよ。すごく舐めますけど」
「私犬好きなんですよ~、おぉふかふかっだぁ」
アナウンサーに撫でられご満悦なシュナイダーは、アナウンサーの顔をペロリン。犬好きということなのでいつもより多めにペロリン。
舐められてきゃあきゃあ言いながら笑うアナウンサーに調子に乗ってもう一ペロリン。
「あ、そういえば尚美さんも犬好きですよね。どうです?」
いきなり振られた尚美にカメラが向くと、さっきまで頭を抱えていたはずなのに、ピシっと顔を作っている。プロである。
だが、目で訴える「めい子さん、その犬を連れて帰りなさい」と。
でもめい子は目で答える「尚美さん、シュナイダーを撫でてやってください」と。
ジッと見る尚美とニコニコのめい子が見つめ合ったのは数秒。仕事の進行上折れるのは尚美である。
自然にシュナイダー近付きしゃがみ込むと、品のいい笑顔を浮かべ頭を撫でる。
そしてペロリンと舐められる。
「ふふっ、可愛いですね」
舐められても動じない尚美だが、カメラの死角に入った瞬間シュナイダーのおでこを指で弾く。そして立ち上がると満面の笑みを見せる。
「インタビューありがとうございました。お散歩楽しんできてねぇ~」
シュナイダーの頭を撫で、強引にインタビューを切ったことでスタッフを含めみんながシュナイダーとめい子に手を振り去っていく。
「いやぁ~テレビに映っちゃったね。これを機に全国デビューとかあるかもよ。CMのオファーとかくるかも!」
「ふっ、それもいいかもな」
良からぬことを考えているであろう笑みを浮かべるシュナイダーの頭の上を一羽の鳥が飛んでいく。
青い体に赤いラインの派手な鳥。凄く派手なのに周囲の人たちは気が付いておらず、シュナイダーしか見えていないようである。
「ふむ、気になるな。めい子あっちに行ってくれるか」
「あっち? うん良いよ」
シュナイダーに先導されめい子と二人が向かうと、赤い髪の少女二人がお互いの服装をチェックしていた。
「これでいいっすか?」
「ええ似合ってる。ま、まあシルマなら何でも似合うんだけどねっ」
「う~ん、もうちょっと緩い服の方が好きなんすけど、たまにはいいっすね」
短めのスカートをふわっとさせるシルマに、顔を赤くし鼻息荒く「いい、いいわ!」と興奮気味に頷く少女をシュナイダーは知らないが、名をスピカという。
「時間はあまりないから早くいきましょ。この世界は美味しいものいっぱいあるんだから! ほら、早く!」
「さすがはスピカっす。
テンションの高い二人の前に颯爽と現れるのは、赤きイヌコロ。
一瞬で駆け寄りペロリンとシルマの手が舐められる。
「うがっ!! 甘いっっ」
思わず声を出すシュナイダーはそのままスピカの手を舐める。
「うまいっ!」
突然のことに何が起きたかは分からぬシルマとスピカだが、シュナイダーと手を見つめるシルマを見て、何が起きたかを理解したスピカの体に電撃がほとばしる。
「「「我、転移の女神なり。スピカの名において命じる。悪しき心の者を彼方の地へと
シュナイダーの足元に大きな魔法陣が展開され稲妻が走ると、地面から上空へ向かって雷が昇る。
光が消えるとすぐにスピカはシルマに駆け寄る。
「シルマ大丈夫? 消毒しなきゃ! いえ、そんなんじゃぬるいわね。浄化の魔法を掛けに天界へもどりましょう。とりあえず清めの塩を!」
「それよりスピカ……関係ない人まで巻き込んでるっす」
塩をまきながらはっとした顔でスピカが振り向くと、シュナイダーだけでなく
「やばっ、範囲間違えた」
顔面蒼白なスピカなわけだが……
* * *
「はえ~、ここどこ?」
「知らんな。どこか別の世界だろうが関係ない」
「そうだね。お散歩続行だね!」
広い荒野でお散歩を続行する二人だが、この世界でも女性を見ると無差別で舐めるシュナイダーのせいで、異界の生物がいると大騒ぎになる。
ついでにこの世界にはびこる悪を半壊させた舐める伝説となるわけだが、敵味方構わず舐められた被害者が多く、この世界を統治する神からスピカに苦情がくるのは時間の問題だった。
それから時間軸を合わせ元の世界に戻ってくることになるのだった。女神も異世界の住人も巻き込み開催された『なめわん!』はこれにて幕を閉じるのである。
【なめわん 結果】
優勝:スピカ
所感:女神の味は格別だった。だが正直だれもが甲乙つけがたいのも事実。今後も定期的に開催していきたい所存である。
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『転生の女神シルマの補足コーナーっす』
みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で23回目っす。
※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。
というわけで、第一回『なめわん!』は終了しました。優勝者のスピカからは何も話したくないとのコメントを頂いています。
勝手に異世界転移させ他の世界に迷惑をかけてことを怒られ、しょんぼりしているのでそっとしておきましょう。
今度美味しいものを一緒に食べに行って慰めておくことにします。
第一回と銘打ってますが、二回目は多分ないでしょう。あの後、詩、エーヴァ、思月によって成敗されたらしいですし。
それにしてもこのなめわん、影の功労者はめい子のような……。
次回
『殴り合いがいいですわ』
彼女が歩けば誰もが目を奪われる。そんな彼女が一人の女の子に近付き耳元で囁く。そんな一枚の絵のような光景に男女問わず色めき立つ。
「詩、勝負いたしましょう」
なんてことを囁いているとはだれも知らないのである。
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