乙女の人たちの日常 ②

水族館へ行こう!

お誘いはドキドキで

 今日は晴天、ポカポカ陽気がとても気持ちいい。風が僅かに吹き更に心地良い日である。


 ここは学校の庭園、お昼休みになれば、お弁当やパンなんかを持ってお昼を楽しむ生徒で賑わう。


 その一角で目立つグループが一つ。女子4人に男1人という組み合わせに加え、銀髪の少女に、小さな少女とぬいぐるみがその存在感を更に際立たせている。


 周りの視線など気にする様子もない女子たちの中にいて、一人汗をかく少年の頭の中ではぐるぐると、昨日の言葉が走り回っている。


 ☆ ☆


うたが好きなものはペンギンよ」


 唐突に美心みこ宮西みやにしに詩の話題を振ってくる。今いるのは詩の祖父である哲夫てつおのラボである。


 詩とエーヴァは哲夫と武器について何やら話しており、思月スーュエ白雪パイシェンと一緒にお絵描き……もといぬいぐるみの構想を練っている。


 家の中にある犬小屋では、シュナイダーが寝そべって、怪しげな本を読んでいる。肉球で器用にページをめくってハアハアいってるが誰も気にしていない。


 これがいつものメンバーである。そして仕事の合間にやってくるのが、黒田尚美くろだなおみ坂口さかぐち、今日は姿が見えないということは、本職が忙しいのだろうと思われる。


 美心は思月たちの絵が完成するまでの暇を見つけ、周囲の地図を広げ何やら思考している宮西を連れて、今の話に至るわけである。


「ペンギンって、急にそんなこと言われても」


「あぁもう、察してよ。宮西あんた詩のこと気になるんでしょ」


「え、ええええっ!? な、なんで、いや違う……よ」


 宮西が叫んだことで皆が注目する。美心はキッと宮西を睨みつける。


「ええっ!? じゃないの。ぬいぐるみの腕を着脱式にして、ロケットパンチとかできないし! しら子白雪のこと考えなさいよ」


 適当な話をでっち上げ叫ぶ美心。宮西を怒る美心の話の内容に皆は納得したのか、自分たちの会話に戻る。


 ただ、「最低なのです」とポツリと言う少女と、声は聞こえないが、腕を上げて抗議しているウサギのぬいぐるみたちの宮西に対する信頼は、ガタ落ちかもしれないが。


 勝手に信頼を落とされた宮西だが今はそれどころではない。目の前にいる美心と目を合わせると、相変わらず睨む美心は小声で怒る。


「なぜ分かるの? とかくだらない質問は止めてね。あんたの態度を見て気付かない女性がいるとしたらこの世にひとっ……3人よ!」


 美心は人差し指を立て『1』を作るが、少し間を置いて『3』にする。

 誰がカウントされたのかは伏せているが、世界中に3人しかいない選ばれし者がこのラボに集まっているのは宮西にも分かった。


「正直、宮西と詩ってどうなのかとは思うんだけど。まあ詩のことを知る数少ない人だし、日頃の労を労う意味でもちょっと協力しようかな? って感じなわけよ」


「……米口よねぐちさん、僕がどうなるかとかを楽しもうとしてない?」


「まぁねっ! 9割はそっちかな?」


 本心を隠しもせずテヘッと笑う美心に大きなため息をついて呆れる宮西。


「まあいいじゃない? 私は楽しい。宮西は上手くいけば詩とデートできるかもしれない。

 どう、悪い話じゃないでしょ。この話に乗ってみない?」


 他人に楽しまれてるというのは、正直面白くはないのだろうが、それでもという響きに翻弄され頭を抱える宮西を見てる美心は既に楽しそうであるが。


「う、うん。お願いする。お願いします」


 頭を下げてお願いする宮西を見て満足そうに何度も頷く美心。


「さっき言ったけど、詩が好きなのはペンギン。あまり可愛いものとかに興味を示さない詩が、唯一可愛いと言ってぬいぐるみまで持っている存在」


 宮西は一度入ったことのある詩の部屋を思い出し、記憶の中でペンギンを探す。


 美心が宮西のおでこをデコピンでパチンっと弾く。「いたっ」と言いながらおでこを押さえる宮西は涙目である。


「ニヤニヤしない。どうせ詩の部屋を思い出してたんでしょ。それより本題!」


 宮西は、自分がニヤニヤしていたのかは分からないが、詩の部屋を思い出していたのは本当だっただけに反論できず、おでこを押さえる。


「宮西、詩を水族館デートに誘いなさい。私が上手く誘導するし、周りの女子たちは上手く誘導するから」


「うっ、結局誘うのはボクなんだね」


「当たり前でしょ、私が「詩、宮西と水族館行って来なよー」とか言ったらおかしいでしょ。そこはあんたが誘う、そうじゃないとデートって感じしないでしょ」


「ま、まあそうだね」


「大丈夫! 美心さんに任せなさい!」


 胸をドンっと叩く美心に対して感じる不安は、デートのお誘いがちゃんとできるのように誘導できるのか? よりも何か企んでそうな気配がする方が大きい気がする。


 不安を感じる宮西だが、やはり『デート』という言葉は魅力的で、頭の中を徐々に満たしていくわけである。


 ☆ ☆


 そして今日、『詩とデート』の言葉に取り付かれ寝不足の宮西に、美心から決行が伝えられる。


「準備は出来たわ。今日の昼休み決行よ」


 すれ違い様に目を合わせず宣言され、宮西は喉仏を大きく動かしながら唾を呑み込む。


 そして今に至るわけだ。


 宮西の目の前では詩、美心、エーヴァ、思月、白雪が楽しそうにお昼を楽しんでいる。

 その中にポツンといる宮西が小さくなって、お弁当を突っつく姿は逆に目立つ。


 この光景も大分学校に馴染んだようで、そこまで気にされることはなくなってきたが、宮西の友人を初めとする男子からのやっかみは強かったりする。

 そんな男子が羨む状況を楽しめていない、宮西が冷食のミニハンバーグを口に入れたときだった。


「そうだ、詩。今週の日曜日、一緒に花浦港はなうらこうの水族館行こうって言ったけどさ、お母さんが布の買い出し行くからついてこいって言われてさ。

 で、しら子の為に布を大量に使ってる手前、断り難いんだよね。


 ペンギン見るの楽しみにしてたとこ、ホンットに悪いんだけどまた今度でいい?」


 手を合わせて謝る美心に対し、詩は残念そうな顔をしてションボリしている。


「ううん、仕方ない。白雪の為にも必要なことだし。水族館はいつでも行けるし。ペンギンもまた今度の楽しみにするよ」


「ホントっゴメン!」


 手を合わせ謝る美心に優しく微笑む詩。


「水族館、甘美な響きですわ! きっと綺麗なお魚や、イルカ、それにペンギンやペンギンとかペンギンなど沢山のペンギンがお待ちしてるのでしょうね」


 突然立ち上がって、ペンギンを連呼し始めるお嬢様に目を丸くして驚く詩と宮西。


「わたくしも行きたいですわ。水族館!」


 目を輝かせながらポシェットから手帳を取り出すと、ガクッとこうべを垂れる。


「わたくしも水族館に行きたかったですのに……ペンギンに会いたかったですのに今週の日曜日はアラと約束が!?

 運命とはなんとも残酷なものでしょう。あぁ愛しのペンギンに会いたかったですわ!」


 そう言って涙を拭うお嬢様。


 詩は何事かとドン引きであるが、宮西は感付く。だが、ここで間髪いれず次がくる。


「あースーもぉー水族館興味あるのですー」


 聞くに耐えない棒読みのスー。


「きっとー楽しいはずなのですー。ペンギン見たかったのですー。いきたーい、いきたーい」


 その台詞を聞いてゴロゴロ寝ていた白雪がムクリと起き上がると、スーの肩を握ってフルフルと首を横に振る。


「えーその日はダメなのですかー。おじいちゃんのお手伝い! あーそーだったのですー。残念なのですー。ペンギンに会いたいのですー」


 もうやめさせてあげてと言いたくなるような酷い演技をするスーが両腕を交差させ自分を抱きしめフルフル首を振る。


 その姿は悲愴感漂うというよりは、可愛らしさ満開である。


 スーが、フルフルを止めると、やりきったようなどや顔で宮西を見て、真ん丸な瞳で訴えかけてくる。


 よく見ると、美心、エーヴァ、白雪も宮西に目で訴えかけている。


 そう、『今だ! 言え!!』と


 この人たち全員グルだと、嵌められたそんな感じはするが、宮西自身もこの流れで言うしかないと腹を括る。


 自分の持てる全勇気を振り絞って宮西は声を出す。


「あ、あのっ」


「ん?」


 宮西が声を掛けると、詩はいつもの天真爛漫な表情を向ける。その表情を向けられ、顔を真っ赤にする宮西を不思議そうに見る詩。


「あの、鞘野さん、ぼ、僕水族館。あっ水族館じゃなくて……いや、水族館だけど、だからい、いっしょ」


 1人で慌てふためく宮西を、首をかしげ見ていた詩だが、ポンッと手を叩く。


「そうだ、宮西くん一緒に行く?」


 ポカンと口を開ける宮西。


「いやぁ、やっぱペンギン見たいんだよね。最近ペンギンに会いに行ってないからさ。


 1人で行ってもいいけど、どうせなら誰かと話したいし。もちろん宮西くんが暇だったらだけど」


「ひ、ひまっ! 暇です。行く、水族館行く!」


 全力で首を縦に振る宮西を見て、嬉しそうにニコッと笑う詩を見て、宮西は一瞬死んでも良いと思うのだった。


 そして詩の後ろで満足そうに頷く3人娘たちがいるのは宮西の視界に入っていない。


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『転生の女神シルマの補足コーナーっす』


 みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で11回目! びっくりっす!!


 ※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。


 転生前の世界にペンギンのような生物はいなかった為、ある日、詩がテレビを見て出会ったのがペンギン。

 そのフォルムと愛らしさに一瞬で魅力に取り付かれた詩は、生涯この生物を愛そうと誓いました。このとき4歳。

 父に連れて行って欲しいととおねだりし、水族館にいるペンギンを見て完全に虜に!!


 それ以来ペンギンを愛し、グッズもコッソリ集めています。

 因みにそのグッズの名は『ペンギン大福くんシリーズ』そのシリーズについてはまた次回説明します。



 以前、思月がアルバイトをしたとき、ヒーローショーで演技できていたのは相手が白雪であり、戦っていたので演技しているつもりはなかったのだということをお伝えしておくっす。


 次回


『初デートは水族館で』


 人生初デートに浮かれる宮西は詩との仲を進展させることができるのか?

 ペンギン多めでお送りする次回! 宮西に忍び寄る影があったりなかったりっす!

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